なかなか自分に似合うものに出会えない。
それが理由で、メガネ屋にはなんとなく距離を感じていた。
でも、「OPTICO GUSHIKEN」の木造りのドアを開けた瞬間、目の前にずらりと並んだ個性的なメガネの数々に思わず興奮!
流行のまんまるフレームも可愛いし、トラッドなかっちりタイプもかっこいい。
あ! これ、メガネ姿がめちゃくちゃチャーミングな友人の愛用品と同じ形だ。こちらで買ったのか〜、素敵!
「うちに置いてあるメガネは、県内のよそのお店ではみかけないものばかりだと思いますよ。
最初は視力低下が理由で、必要に迫られて当店を訪れた人でも、そのうちメガネの世界にどハマりしちゃった方が結構いらっしゃいますね。
中にはメガネ屋に就職してしまった方も(笑)。
そこまで好きになって貰えたら、メガネ屋冥利に尽きますよね。巣立って行く子を見守る親のような心境ですよ(笑)」
店主の具志堅浩章さんは、嬉しそうに微笑みながらそう話す。
「良かったらぜひ、気になったものをかけてみてください」
具志堅さん独自の視点で厳選したメガネだけが並ぶ。
実際にかけてみると、デザインだけでなくかけ心地の良さも実感できる。
メガネをかけ慣れていない私でも、かけていてまるで違和感がないのだ。
「大量生産ではなく、工房で丁寧に作られたブランドのものを選んで仕入れています。質が良く、かけていても負担にならないし、壊れにくい。長くご愛用いただけますよ」
これぞ!という一本が必ず見つけられる品揃えには、具志堅さんの情熱が隠されている。
「沖縄のメガネ業界では、売り込みにきた業者から仕入れることがほとんどなんですね。
でも僕は必ず買い付けに出向き、自分自身で選んだメガネだけを置くようにしています。
毎年、東京ビッグサイトで開かれるメガネの展示会へは必ず足を運びますし、カタログやファッション誌もこまめにチェックして、気に入ったものがあればこちらから積極的にアプローチします。
あるメガネブランドさんからは一度取り引きを断られたのですが、どうしても諦めきれず、メガネについてのレポートを引っさげて交渉に行ったこともありますよ。
猛アタックの末に晴れて取り引きしていただけることになり、すごく嬉しかったですね」
聞きれないブランド名ばかりなので海外製かと思いきや、多くは日本のブランドだと言う。
「最近、日本では安価なメガネの人気が高まっていますが、ヨーロッパなど海外では品質重視で選ぶひとが多いようです。ですから、日本のメガネブランドも国内より海外での人気のほうが高いんですね。当店にも外国人旅行者が訪れ、ブランドを指名買いしていくことが多いんですよ。
メガネは洋服と違い、流行変化のスパンはそれほど短くありません。早くても5年というところでしょうか。
ですから、できるかぎり質の良いものを長く使っていただくことをお勧めしています」
そう聞くと、長くお付き合いできる自分だけの一本に出会いたい! と強く思う。しかし、自分に似合うメガネを見つけるのは難しい…。その思いを伝えると、意外な言葉が返ってきた。
「自分はメガネが似合わないと思っている方が多いのですが、実は、メガネが似合わない人なんていないんです。
顔の骨格や顔立ちも少なからず影響はしますが、メガネをかけこなす上でもっと大事なことがあるんですよ。
それはね、洋服やヘアスタイルとの相性、それと気合いです(笑)!
その証拠に、僕が適当にメガネをかけてみましょう」
具志堅さんはそれまでかけていたメガネを外し、目についたものを片っ端からかけていく。
不思議と、どのタイプのメガネも違和感がない。具志堅さんにしっくり似合っている。
「骨格や顔立ちといった細かい部分よりも、全体的なバランスや印象の方が大事。ですから、ファッションや髪型を変えるだけで、それまで似合わなかったメガネが急に似合うようになったりするんですよ。
僕がどのメガネをかけても違和感がないのは、実は長い髪と帽子のおかげ。
顔型と合っていなくても、全体的な雰囲気と、『似合ってるだろ!』という気合いでカバーできるんです(笑)。
女性の場合は、髪を束ねたりアップにしたりするだけで、似合うメガネの種類がぐんと増えますよ」
もちろん、細部を意識したメガネ選びのアドバイスも行っている。
「頬から顎にかけての輪郭と、フレームの下部のラインが似ているものを選ぶといいんです。
ですから、顔型が四角い僕の場合、スクエアタイプのものが似合うんですよ。
気になるメガネをかけてみてください。アドバイスさせていただきます」
具志堅さんの言葉を受け、ずらりと並んだメガネの中からいくつかチョイスしてみることに。
気合いも自信も足りないのか、なんとなく違和感を感じてしまう。
「意外とかっちりした雰囲気のものがお好きなんですね。
こちらはいかがでしょう?
クラシックな丸いフォルムのメガネです」
鏡に映った自分の姿にびっくり。
これまでにかけたことのない形なのに、まったく違和感がない。
具志堅さんはどれにしようかと迷うことなく、さっと手に取って渡してくれたように見えた。しかしそのメガネは、全体的な私の雰囲気だけでなく、顔の輪郭や形にもしっかりと合っているように感じる。
「さらにお勧めなのがこちら。いかがでしょう?」
そう言って手渡されたのは、柔らかな雰囲気の金縁の丸メガネだ。
実はかたちが好みで気になっていた一本。でも、自分に似合うはずがないと手が伸ばせなかった。
かけてみると、嬉しさと気恥ずかしさが入り混じった不思議な気持ちになった。
新たな一本を求めて店を訪れた人との会話から、具志堅さんは相手の好みや生活スタイルなどを探る。さらに、その人の持つ雰囲気や印象も考慮し、2種類のメガネを提案するのだという。
「かけていてご自身が安心感を感じるメガネは、やはりしっくり馴染むんです。
でも、メガネ店を営む者としてはちょっと冒険もしてみてほしい。
メガネ一つかけるだけで、その人の世界が広がるんですから。
例えば、これまで似合わないと思っていた服が、急に似合うようになったりもするんです。
そこで、ご自身が違和感なくかけられそうなものと、少し意外性はあるけれど実は似合うもの。この2本を提案するようにしています。
また、今のスタイルでも素敵ですが、ファッションを変えるとまた違った雰囲気でお似合いになると思いますよ」
ふむふむ、確かにワンピじゃなく、ゆるいパンツスタイルでもいいかもしれない。
きゅっと髪をまとめあげて、できる女子風でもイケるかも?
鏡を見ながら、まだ見ぬ自分の姿をついつい想像してしまう。
メガネ一つで、こんなに世界が広がるなんて…。想像以上に強い、メガネの持つ力に驚いた。
「かけるだけでがらっと雰囲気を変えられるのもメガネの魅力。僕もタイプの違うメガネを何本か持ってるんですが、毎朝、服を選ぶようにメガネを選んでるんです。仕事の時には真面目で誠実に見えるものを、プライベートでは少し遊び心のあるものを、なんて、シーンによって使い分けるのもいいですね」
「サングラスをかけることに抵抗を感じるなら、頭に乗せることから始めてみて下さい。そのうち徐々に見慣れてくるんですよ。サングラスをかける時は、特に気合いが大事!(笑)」
こだわりの品々が人気を呼び、ファンを増やし続けている OPTICO 。その歴史は古い。
「親の代からメガネ店を営んでいました。
当時の店は今とは全く雰囲気が違い、昔ながらのメガネと時計の店だったんです。
幼い頃からなんとなく店を継ぐ気ではいたのですが、メガネに対して今のように熱い気持ちはなかったですね。
僕自身、幼い頃から視力が低くてメガネをかけていたし、家業がメガネ店だという事もあって興味はありましたが、正直に言うとマイナスイメージの方が強かったんですよ。
ファッションとしてではなく、必要に迫られてかけるものだという意識が強かったんですね」
大学進学を機に上京した際、具志堅さんのメガネに対する考えが一変した。
「東京って大都会でしょう? 街中にお洒落なメガネをかけた人が沢山いて驚きました。
ファッションとメガネが僕の中で初めて結びつき、すごく嬉しかった。テンション上がりましたよ(笑)」
メガネ熱に火がついた具志堅さんは、都内のお洒落なメガネ店を巡るようになり、大学卒業後は「日本眼鏡専門学校」へと進学した。
「メガネの加工や調整、視力検査の方法、メガネやコンタクトレンズの販売・取り扱いについてなど、幅広く学びました。
大学時代は優秀な生徒とは言えませんでしたが、専門学校では必死に勉強しましたね。講義の内容も面白かったし、同級生たちも熱心だった。当時ともに学んでいた友人の中には、今や人気のメガネショップのオーナーや、メガネデザイナーになっている人もいますよ」
卒業後、具志堅さんは実家へと戻って店を継いだ。
「沖縄で、お洒落で面白いメガネ店を出したい」という思いを原動力に、両親から受け継いだ店を進化させていったのだ。
「メガネをかけると似合う服が変わる」
「目力がアップするので、薄化粧やノーメイクの時にも便利」
「シーン別で選ぶと、その日のテンションも変わる」
などなど、具志堅さんの口から飛び出す数々のメガネ効果を聞くにつれ、これまでメガネと距離を置いてきたことをもったいないと感じ始めた。
それに何より、鏡に映った自分のメガネ姿が強烈だった。
少し面映ゆい。でも、意外と悪くないんじゃない?
シンプルな黒いフレームのメガネをかけると、普段はまず着ることのないシックな装いの自分の姿が頭に浮かんだ。少し背伸びしたような、優雅な気持ちになる。
繊細な金縁のメガネをかけた私は、自分でも驚くほど落ち着いた女性に見えた。持ってないけど、スーツも着こなせそう…。
本当だ、今までまったく興味がなかったジャンルの服が気になってくる…。
メガネって、こんなに小さいのに凄い!
だって新しい、色んな自分に出会わせてくれるのだから。
写真 中井雅代/文 本岡夏実
OPTICO GUSHIKEN
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