モンテッソーリ教育って?「環境さえ整えれば、子どもはいくらでも吸収します」

『モンテッソーリ教育』という言葉を耳にしたことはあるだろうか?20世紀始めにイタリアでマリア・モンテッソーリによって考案された教育法で、欧米でまたたく間に広がり、特にアメリカではモンテッソーリ・ブームが発生、私立だけでなく数百校におよぶ公立学校でもプログラムが導入されている。
そのモンテッソーリ教育を徹底して実践している豊見城市の「聖マルコ保育園」で、保育主任の宮城正子先生にお話をうかがった。





モンテッソーリの基本理念をわかりやすくご説明いただけますか?


「子ども達が日常でできない部分を手助けしてあげること」です。その際、その子の発達段階をしっかり見極め、一つ一つの順を追って教えることが重要。子どもが集中してやっていることに親がやたら手を出してしまうと必ず「いやだ!いやだ!」と泣くでしょう?それは、「自分でやりたい」という子どもの自立心を親が妨げてしまっているからです。モンテッソーリでは自立という最終目標に向け、子どもの発達段階に合わせ、順を追って指導することをとても重視しています。


そのためには子どもをよく観察することも大事ですね。


そうです、でないと子どもがどの段階にいるのはわかりませんから。それを見極めることができたら、その時期に合ったモンテッソーリの教具などの「環境」を提供してあげるんです。環境を整れば子どもは自然とそこに向かいます。
子どもの内面はおのずと育ち、それに合わせて興味もどんどん新しい方向へむいていきます。ですから、「これをやってね」ではなく「あなたが今やりたいのはこれかな?」という言い方で教具を提示してみるのです。自分が今やりたいことはなんなのか、子どもはちゃんとわかっているんです。わかっていないのは大人だけ(笑)


小さい頃から英語を覚えさせたいからといって「はい、やりなさい!」じゃないんですね。


そう。もし「英語を・・・」という気持ちがあるのなら、子どもが英語に向かうために小さな段階を順に踏ませていかなければいけません。遊びの中からでも。





モンテッソーリを実践していると、集団指導も手がかかりません。お遊戯会や運動会などでも、先生たちは四苦八苦しないで済むんです。それぞれのクラスで段階に合わせた指導をして、全体練習を2〜3回すればオッケー。全体練習を朝から何度も繰り返すというやりかたではこうはいきません。


秩序も守られるようになるのでしょうか?


そうですね、当園では子ども達がお部屋で大騒ぎをするような光景はあまり見られません。人のお話を聞くときはどういう風に聞くの?お話する人のお目目をみて聞こうね。人がお話をしているときはしゃべらないよ。もし話したいことがあったらお友達が終わるのを待ってからね、ということを毎回指導しています。そうすると、自然と静かな雰囲気が保てるんです。


モンテッソーリは家庭でも実践できますよね?2歳の娘が食事中にコップの水を他の入れ物に入れ替えてまた戻すというのを繰り返していたので、「お食事中は遊ばないよ」と注意したという話をしたら、モンテッソーリを家庭でも実践なさっているお母さんが「それは、その能力を伸ばしたいという気持ちが子どもにあるからだ」と。移し替えに興味があるのなら、大きさの違うコップをいくつか準備して、お風呂においておけば、お風呂場で水を移し替える練習ができるし、こぼしても気にならないから良いし、お風呂で満足したら食事中も遊ばなくなると教えてもらいました。


そのお母さんすごいですね、モンテッソーリのことをよくわかっていらっしゃる。最初は大きめのカップに豆などを入れ、他のカップに入れ替えをさせるといいでしょう、そして、中身を豆から米、そして水という風に、入れ替えるのが難しいものにかえていきます。ただの水では面白くないから色水にしたりして。その次はカップのサイズを変え、大から小へと段階を踏んでいきます。大きいカップは簡単にできますが、小さくなると難しくなる。それができるようになって達成感を得られたら、このお仕事はその子にとって終了です。大人から見たらただ遊んでいるだけのようでも、子どもにとっては能力を伸ばすための「お仕事」なんですね。この入れ替えのお仕事ができ、徐々に段階をふんでいけば、最後は「お茶を淹れてお友達に出す」というお仕事もできるようになります。手首のコントロールができるようになってからですから、大体5歳くらいからでしょうか。





そんなに必死に教えなくても、いずれできるようになるからいいのでは?という意見もありますが。


子どもがやりたいと思っている時に提示して自分でやるような環境を整えれば、その能力がしっかり伸びるんです。「いつかできるようになる」という考え方で子どもを放っておくと、大人になっても結局できないまま、ということも。お茶のきちんとした淹れ方やお箸の持ち方もそう。環境を与えてあげれば子どもはいくらでも吸収するんです。


そう考えると、モンテッソーリの「お仕事」は、すべて日常に結びつくんですね


そうです。日常と言えば、普段の生活の中からの学びもたくさんあります。例えば、買ってきた野菜も見て終わりではありません、触って、舐めて、匂いをかいで、色んな方向から切って。





経験することが大事なんですね


そうです。でも、大人だって自分が経験したことしかきちんとは教えられませんから、色々なところに行って様々な経験を積まなければいけません。雪も、実際触れたことがなければその冷たさをきちんと伝えることはできません。子どもと共に新しい経験をするのももちろん素晴らしいことです。テレビに子守りをさせるのが一番良くないですね。テレビって画面が動いてるだけだから目が疲れるだけ。暖かさも冷たさも画面からは感じられませんから。


モンテッソーリを実践していると、お片づけも上手になると聞いたことがあります


自分が使った教具やおもちゃは元の位置に戻すという約束があるんです。次のお友達がちゃんと使えるように、自分が使った教具は戻す。保育園ではできていても、お母さんがおうちで整頓していなければ子ども家ではやらなくなりますよ。ですから、おもちゃを一つの箱やかごに「がーっ」と入れないで、好きなものだけいくつか選ぶんです。そしておもちゃ専用の棚を作って、このおもちゃはここ、と場所を決めて色テープで区切ってあげれば、子どもは喜んで元に戻しますよ。そうしたら親も「片付けなさい!」と叱らないで済みますよね。これが提示するということなんです。親が手を出して一緒に片付ける、というのでは自立できません。


お手伝いもさせた方がいいでしょうか?


させた方が良いですね。子どもから「やりたい」と言ったことは是非。もちろん、危ないことは「ここはお母さんがするから、あなたはこれをやってね」と区切ってあげれば良いんです。「手伝いたい」の次は「洗いたい」になりますから、お野菜なんかを洗わせてあげると良いでしょう。その次は「切りたい」。お母さんが手を添えて、一緒にゆっくりやってあげると良いですね。園でもサラダパーティーをする時があるんですが、1〜2歳の子が洗って、その上の子達が切って。すると、自分たちで作ったものですから残しませんよ、よく食べます。おうちでも同じです。


家庭でモンテッソーリを実践する時の注意点はありますか?


やはり発達段階の見極めでしょうか。提示して、その段階までに内面が育っていない場合、「いや!」と拒絶する場合と、やりはするけど集中しない場合とがあります。例えば、のりを使いたがった場合、とりあえずやらせてみるんです。じっと集中してのりを使い、紙をぺたぺたと貼っていれば段階に合っているといえますが、びちゃびちゃと紙や指に付けてただ楽しんでいるようなら単なる遊び。その時は、のりはそうやって遊んでいいものかどうかを親が指導してあげないといけません。その際、ちゃんと目を見て話すことが大切です、だめなことはだめよ、と。表情も大事。笑いながら軽く注意するのもいけません。叱る時はきちんと怒った顔で。





最後に、お母さん達へのメッセージをお願いします。


自分の子どもをきちんと責任を持って育てることが大事です。子どもがどう育って欲しいかという希望や想いは皆さんもっておられると思いますので、それに向かって、環境を整えてあげることです。子育てに迷ったら「どういう人になってほしいのか」と自分に聞いてみるといいでしょう。50音を教える時に書き順まで徹底すべきか迷ったら、「将来美しい字を書ける人になってほしいか否か」を自分に問います。そうすればおのずと、今子どもに伝えるべきことも見えてきます。