『君がいない夜のごはん』春巻き、ベーグルは女フード?味オンチの人気歌人が綴る異色エッセイに思わず共感

 
穂村 弘・著  NHK出版  1,470円/OMAR BOOKS 
 
― 脱力系「食べ物」エッセイ集 ―
  
暑い毎日が続いて、冷えた麦茶が特においしく感じるこの季節。
「砂糖入り麦茶」って飲んだことありますか? 
 
著者・穂村さんが子どもの頃は、
どの家庭でも二種類の麦茶を作り置きしていて、
冷蔵庫を開けると一つは大人用、
もう一つは砂糖入りの子ども用があったそう。
甘い麦茶って・・・、試してみたいような、試したくないような今ならちょっと考えてしまう飲み物が当時は普通に飲まれていたという驚き。
 
また著者いわく食べ物には男フード、女フードがあって女フードの良さがいまいちよくわからない、と書く。
 
例えばメニューに生春巻きがあると女性は当然のように注文する、とあって確かにそうだなあ、と読みながら思う。
またベーグルも女フードだと言い、ベーグルのどこがおいしいのですか、と問いかける。これも確かにベーグル好きは女子に多い。
 
こういう「食べ物」に関して著者が抱いた違和感を綴った本書。
人気歌人である著者のちょっと変わった視点で切り取ったエッセイ集。
  
面白いのはこれを書いている本人が、自分は食べ物や飲み物についてセンスがない、と言い切ってしまうところ。
好きな食べ物を聞かれてまず「菓子パン」と答える穂村さん。
自分の味覚に自信がない、という。
そういう人の食のエッセイ本にどうして共感できるかというと、
穂村さんのだめさ加減がどこか人をほっとさせるのです。
人は全て何でも出来てしまう有能な人にはなかなか共感しないもの。
ちょっとだめなところがあった方が好きになれる。
カウンターだけのお店や常連さんのいるお店は行けないという著者の、ふと頭の中に浮かんだ普段見過ごしがちな食についての素朴な疑問が並んでいる。
 
「曖昧体重計」というのも笑ってしまった。
著者は一日何度も体重計にのる習慣があって、
でも必ずすっぽんぽんではのらない。
必ず服を着ていたり、手に文庫本を持ったままで体重を計るようにしている。
なぜそうするかというと、あとでその体重から服や文庫分を差し引くことに喜びを感じるため。
気持ち多めに引くことで実際の数値を見て傷つくことが少ない。
分厚い服を着れば着るほど、京極夏彦の文庫本(厚いもんね)であればその分誤差は広がる。
その曖昧さがいい!とする著者のその一喜一憂ぶりがおかしい。
 
最初から最後までこんな感じなので、
この本を普通のグルメエッセイ本と期待して読まれると
ちょっと違うのでご注意を。
 
脱力気味の語り口も著者の持ち味。
ぷっと吹き出すことも多くて読みながら困った。
 
一度はまると他の本にも手を伸ばしたくなる確率の高い穂村本。
まずはこの一冊から。

OMAR BOOKS 川端明美



 

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