『 二人がここにいる不思議 』どこか懐かしい。夏とノスタルジーの余韻を味わう短編集。


レイ・ブラッドベリ著 新潮社 ¥705(税別)/OMAR BOOKS 

 

夏真っ盛り。暑さにぼーっとしがちな頭には、理屈っぽい話よりも、始まりも結末もないような現実離れした物語がおあつらえ向き。幻想怪奇ものや、ファンタジー、SFといろいろある中で、今回はレイ・ブラッドベリの短編集をご紹介。

 

名立たる映画監督たちに影響を与えた『華氏451度』(フランスのトリュフォーによっても映画化されている)や代表作『火星年代記』などたくさんの作品を生み出し、そのほとんどが邦訳されている日本でも人気の高いブラッドベリ。

 

個人的にはブラッドベリ、と聞くと”夏休み”を思い出させる作家。よく図書館の棚で、彼の名前の場所に並ぶ作品のタイトルを眺めては、『たんぽぽのお酒』『瞬き(まばたき)よりも速く』『ウは宇宙船のウ』などタイトルのセンスがいいなあ、なんて生意気にも思っていた一度聞いたら忘れない響きがある。

 

彼の作風の一つにノスタルジー、というのがあるのも夏に読みたくなる理由の一つ。この『二人がここにいる不思議』でも表題作や「生涯に一度の夜」、「最後のサーカス」や「さよなら、ラファイエット」などその風味を味わえる。これらの作品には”失われた時間”への憧憬と切なさがほどよくブレンドされていて、読む人にとって、それぞれの大切な時間を思い起こさせる魔法のような力が働く。そう、「再会」というのもキーワードのひとつ。中には一見、設定が奇抜なものもあるけれど、そこに流れる会話や空気、立ち現れる場所のようなものは、どこか懐かしい。いつか自身が経験したことのあるような。

 

限られた時間、というものが、著者の想像力によって短編という小さな箱にさりげなく収められていく。夏の宵の空に輝く星のように、きらっとした輝きが読む人の心の中に訪れては消える。その余韻を味わってほしい。

 

この『二人がここにいる不思議』に収められているのは23編。読む人によって、これは、と思う作品はきっと違ってくる。全部が全部、好みに合うとは限らないけれど、これは好きだなと思う一編があればいいかな、というぐらいで読んでみるのもいいのでは。気軽に読んでほしい一冊です。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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