『 海からの贈物 』大人の課題図書といったらこの一冊。

海からの贈物
アン・モロウ・リンドバーグ 新潮社(文庫)¥420/OMAR BOOKS
 
― 海から受け取ったものを海に返す  ―
  
梅雨入りして雨が続く毎日。
せっかくのゴールデン・ウィークも室内で過ごすことが多そうです。
雨音をBGMに本を読んで静かに思索にふける、という休日はどうでしょう?
そんな過ごし方にぴったりの本を今回はご紹介。
 
大西洋横断で有名な飛行家リンドバーグの妻で、
自身も女性飛行家として活躍したアン・モロウ・バーグによる著作『海からの贈物』は、今では書店や図書館には必ずあるといっていいスタンダードな書。
 
内容は、華々しい彼女の経歴を伺わせるものかと思いきやほとんどそれには触れず、離島に赴き浜辺で一人になって女性として、妻として、母親として、そして「アン」個人としての内面の対話が語られる。
 
最初の章「浜辺」を読んだだけで(たった3ページ)、
砂まみれの足を波がサァーと洗うかのような感覚に覆われて驚いた。
今「断捨離」や内面の充実を謳う本が世にあふれているけれど
何年も前に書かれたこの本に全て入っているといって過言ではないと思う。
何よりそれを美しく端正な文章で伝えているということが、
いっそうこの本が特別な輝きを放っている。
  
日々のこまごまとした雑用に追われ、
仕事、家庭などの複雑な人間関係のしがらみに時間のほとんどを費やし、
煩雑な生活を送らざるを得ない私たち。
何かしら皆、周りの要望に応じて自分の役割を演じている。
でもその役割の前に、一人の人間であるということを見失うことへの危惧を、
また一人になってゆっくりものを考えることの大切さを、
著者は浜辺に転がる美しい貝に例えてみせる。
淡々と岸に打ち寄せる波のように、
静かでシンプルな彼女の言葉はまるでそれ自体が美しいフォルムの貝のよう。
 
いつのまにか涸れてしまった泉を
どうすればまたあふれるほどの水で満たすことが出来るのか。
この本でくり返し語られるのは、
「どんなに忙しい人でも、一週間でも、~略~一日のうち一時間、5.6分でも一度は自分一人でいるようにしなければならない。」
 
忙しさに消耗し何かが足りないとか、
大切な人との関係の見直しに迫られたときなどそ
れを外に求めてもそれは解決につながらない。
何か別のもので埋めようとしても意味がない。
 
著者が海辺でじっと見つめ続けて見つけたものを
この本という形で私たちに残してくれた。
 
大人の課題図書を選ぶとするなら真っ先にこの本をあげたい。
どんな立場の人でもすっと心に沁み入る滋養にあふれた一冊。

OMAR BOOKS 川端明美




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