ジュノ・ディアス著 都甲幸治、久保尚美・訳 新潮社 ¥2,400(税別)/OMAR BOOKS
梅雨も上がり、今年は一足早く夏がやってきた。空の青に、海の青。
じりじりと皮膚を焼くような陽射しが目に眩しい。南国の夏だ。今回は同じ「熱」を抱いたようなカリブ海に浮かぶ遠い国、ドミニカ共和国から生まれた小説をご紹介します。今、「新しい」と注目される、ドミニカにルーツを持つ作家ジュノ・ディアスの長編小説『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』。
まずページを開いて読み始めると注釈(補足的な説明。ここではドミニカやカリブ海の島々の歴史的背景など)の多さに驚かされる。アメリカなどと比べて私たちに馴染みの少ない中南米の島々の歴史や文化が本筋のストーリーと平行して語られていく。またオタク青年である主人公オスカーの日本のサブカルチャーへの傾倒具合に(『AKIRA』『科学忍者隊ガッチャマン』『宇宙戦艦ヤマト』ほかたくさん!)圧倒されっぱなし。
上記の理由から、読者は読み始めた頃、もしかしたらその世界観に馴染みにくさを感じるかもしれない。でもそこでなんとか踏みとどまって読み進めてほしい。章が進むに連れ主人公がオスカーからロラ(オスカーの姉)、ベリ(オスカーの母親)などと移っていき大きな時間の流れの中を自由に行き来する。この小説は最後まで通読して初めて「フク」という呪いをベースにしたマジックリアリズムの魅惑的な世界を堪能できる。
オスカーを中心とした登場人物たちの波瀾万丈な物語を読み終わる頃には、この小説に持つ印象がだいぶ最初とは変わってしまっていることに気付くだろう。
面白いのは沖縄との親和性を感じたこと。現代に生きる私たちも時代や土地や先祖から良くも悪くもの影響を受けているというルーツについて考えさせ、母と娘の関係など家族の問題はどこで生まれたとしても付いてまわるものだ、ということが描かれていて、この小説が一躍注目を浴び、アメリカの学校ではテキストとしても採用されるなど様々な方面に影響を与えているのもよく分かる。作中には印象的なモチーフとしてサトウキビ畑と金色のマングースが登場してくるのにはなんなく映像が浮かんできた。話の展開もそういうこともあるよね、という寛容さには通じるところが。
オスカーは自分の背負ったものから果たして逃れられるのか。圧倒的な熱量に支えられた小説。この本で新しい読む体験をぜひ。
OMAR BOOKS 川端明美
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