『つむじ風食堂の夜』風変わりな常連が集う食堂での夜の物語。映画化もされた話題作。


吉田篤弘・著 筑摩書房 ¥609/OMAR BOOKS
 
― 真夜中の本棚 ―
  
まずは目を閉じて想像してみて下さい。
 
寝静まった街の通りに一軒だけぽつんと明かりが灯っている。
そこは夜の間しか開かない食堂。
そこに通うのは風変わりな、でもどこかにいそうな人たち。
  
もうその設定だけで勝手に妄想がふくらみ始めるのは私だけだろうか?
 
今回紹介するのはクラフト・エヴィング商會の名で本の装丁を手がけ、
物語作家でもある著者による連作短編集。
 
もともと「深夜」をキーワードにした物語が好き。
いくつか挙げてみると、
小さい頃に読んだ絵本なら夜中にケーキを焼くどろぼう三人組の話や、
テレビだと「やっぱり猫が好き」(私の中では深夜のイメージ。最近では「深夜食堂」というのも面白いらしい)や、
映画に「ラジオの時間」ていうのもあったけれどあの深夜のラジオドラマのどたばた感もいいし、
カポーティの「夢を売る女」という短編に、
村上春樹の「アフターダーク」、
長嶋有の「ねたあとに」などなどいくらでも出てくる。
 
一方で深い眠りに落ちて夢を見る人たちがいて、
一方で起きていて誰かと話したり、仕事をしている人たちがいる。
なぜかそこにたまらない魅力を感じてしまう。
それで頭の中には勝手に「真夜中の本棚」というのが出来ていて勝手に分類しては楽しんでいる。
 
で、この本(前置きが長くなったけれど)『つむじ風食堂の夜』もその棚に仲間入りした一冊。
 
月舟町、というこれまたロマンチックなネーミングの町の十字路にたつ食堂が舞台のお話。
「雨降り先生」「エスプレーソ」「イルクーツク」などの魅力的なタイトルに、
大人の寓話のような味わいのあるエピソードが並ぶ。
 
また話の中に出てくる食堂の一皿料理がどれも美味しそうだ。
安食堂なのにビストロ風。
コロッケをクロケットなどと呼んでナイフとフォークで食べる。
個性的な登場人物たちが真夜中に交わす会話も、
意味がないようで実は深遠なことを話していたりして、
読んでいるとここではないどこか遠くへふっと移動する感覚があって、
それがとても心地良かった。
 
いつもより少し疲れて帰ってきた夜。
お茶を入れてほっと一息ついたところでページを開くのをおすすめしたい一冊。
そこにはもう一つの夜が広がっている。

OMAR BOOKS 川端明美




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