一組の家族が入って来る。観光で沖縄にやってきたそうだ。
男の子用の靴を物色している。
「『サンダルは履かない!』って言ってたのにね〜。」
キッズサイズの「NEVADA(ネバダ)」を履いてご機嫌の様子の息子さんを見て、両親が微笑んでいる。
(クリックで拡大します)
左:LONDON 右:MONTANA
左:GRANADA(papillio) 右:DALLAS
ビルケンシュトックの名を知らない人はあまりいないだろうが、その靴が矯正機能を備え、医学的なコンセプトが強いこと、そして250年もの歴史があることを知っている人は少ないのではないだろうか。
ビルケンシュトックのドイツ語の社名 “Birkenstock Orthopädie GmbH & Co. KG” における “Orthopädie” とは、「整形外科」という意味なのだ。
義肢をつくる装具士であったヨハネス・アダム・ビルケンシュトックは、「臣王のシューマイスター(靴職人)」として公文書にも記録されている。
その息子コンラッドがフランクフルトに靴店を開店させ、「フットベッド」という現在の中敷きのような製品の生産を開始した。
靴に中敷きを入れるというのは、当時画期的なアイディアだったのだ。
コンラッドの息子で整形外科医だったカールは、ソール部分はそのままに、矯正機能を持つサンダルのファーストモデル「マドリッド」を完成させた。
つまり、ビルケンシュトックの商品には矯正、治療、骨格改善といった医療的コンセプトが非常に強いのだ。
(クリックで拡大します)左:PALERMO 右:PALMA
(左右写真ともに)写真左側のデザイン:LUXOR 写真右側:BALI
LENNOX WITH HEART
機能面だけでなく、デザインも重視、パステルカラーやハート型モチーフなど女性らしさの際立つ商品も多い。
ビルケンシュトックの靴を愛してやまない店長の大城さん。
「実際、ビルケンシュトックを履くようになってから私も身体の不調が改善するのを体感しました。」
手術をするほど重症のヘルニアを患っていた大城さん、最初はビルケンシュトックの中敷きを購入し、手持ちの靴に合わせて試しに使っていたという。
「膝も弱かったんですが、それまで履いていた靴が良くなくて、ストレスがかかっていたんでしょう。ビルケンシュトックにかえてからは症状がかなり改善し、腰にかかる負担も軽減されるのを実感しました。
また、特に良くなったのが姿勢。それまで猫背でがに股だったのが、今ではすっかり上体がまっすぐ伸びるようになりました。」
医療的効果を発揮する最大の理由は、フットベッドの持つ独特の形状だ。
「人間の足が本来持っている3つのアーチ(外側の縦アーチ、内側の縦アーチ、横アーチ)が重要なんです。ヒールのついた靴を履いている方の大半はそのアーチが低下していて、ウオノメやマメができます。フットベッドはそのアーチを支え、人間が持つ本来の足の形状を維持する役割があります。」
BOSTON(KIDS)
「足の軟骨が骨化し始める2歳半くらいからの使用がお勧めです」
「フットゲージ」で足のサイズを測りながら足幅や形の特徴をみる。左右対称ではないため、必ず両足のサイズを測る。
ビルケンシュトックの接客の細やかさには目をみはるものがある。
サイズが合って、好みのデザインのものが見つかればそれで終わりというものではない。
フィッティングしながら、靴が足をどうサポートするのか、身体のメカニズムをいかにして自然な状態に戻す補助をするのかを丁寧に説明する。
「長い時間をかけて、身体をあるべき姿に戻す手助けをすることこそ、ビルケンシュトックの靴が果たしている役割だと思います。
個人差はありますが、実際、肩こりや腰痛が良くなったというお声は多いですね。
そういった身体の不調は、下半身の筋力低下や骨盤のずれなどが原因である場合が多いのです。
本来、足は大地を踏みしめる『グーパー』の動作が行われないといけない。この足の筋肉を動かす機能は『ミルキングアクション』とよばれ、それによって静脈やリンパの流れが良くなり、むくみも解消されます。
また、踏みしめる際にふくらはぎの筋肉が硬直し、相当な力が足にかかってくることで、足の筋肉自体が鍛えられる。その状態を人為的に作りだすのがフットベッドです。」
本来あるべきアーチが低下しないよう、フットベッドで上へ上へと押し戻す。
それによって足の筋肉がバランスよく鍛えられ、筋力も向上、骨格のズレが矯正される効果も期待できるのだ。
「最近はルームシューズも販売しています。寝る時以外はすべてビルケンシュトックを履いているという状況が、足にとっては一番良いですね。」
左が新品、真ん中と右が5年以上履いた状態、右はさらにその場で磨いたもの
ビルケンシュトックの愛用者は、1足をとても長い間履いている気がするが。
「耐久性も特徴のひとつです。ソールに使用しているコルクは10年以上履くことができる素材で、アーチ部分が減りにくいんです。ソールさえ変えればとても長く履いて頂けるので、ソール修理などメンテナンスもサポートしています。」
Before→After(クリックで拡大します)
スエードの汚れもこのとおり、新品同様にキレイになった
店内の一角にケア用具一式が置かれている。
「購入される方だけでなく、実際履いている私物を持っていらっしゃるかたもいますので、ケアの仕方をお伝えしています。
メンテナンスひとつで靴の寿命はまったく違ってきますし、靴の表情も変わるんです。新品の状態ではみな同じ顔をしていても、革の手入れの仕方や頻度によって持ち主の個性が表れ、数年後には別の靴のようになりますよ」
靴と革を心から愛してるんですね、というと、にっこり微笑む大城さん。
大切な商品が売れるときは
「本当に、嫁に出すような気持ちになりますね。かわいがってもらえよ〜!と(笑)」
お気に入りの「YARA」を持って
スタッフによる懇切丁寧な説明とアドバイスを聞き、その特性を知って納得して購入した方は、またビルケンシュトックに戻って来てくれるという。
「長く履いて、その良さを実感してくださってるんだと思います。」
しかし、最初から靴を買う必要は無いという。
「まずは中敷きからお勧めしています。手持ちの履き慣れた靴に合わせてくだされば、敷く前と後の違いがはっきりとわかりますから。
自分もその体験者なので、自信を持ってお勧めできます。」
優しい表情で気さくな大城さん、明るく可愛らしいスタッフ、
ビルケンシュトック沖縄店の居心地の良い雰囲気に誘われるのかもしれない、
ご高齢のお客様も多いという。
「70代の常連さんがお友達を連れてきてくださって、おばあちゃんたちの憩いの場みたいになってるときも(笑)そこに観光客の方が入っていらしてびっくりなさってましたね(笑)
ご高齢のお客様を接客するときは、僕もウチナーグチを使っています。」
膝や腰の不調、姿勢の湾曲…確かに、ビルケンシュトックは若い人たちばかりでなく、ご高齢の方にこそ必要とされている靴なのかもしれない。
体調不良を訴えて来店し、ビルケンシュトックを履く事で体調が改善され、より多くのおじい、おばあが元気に歩けるようになると良いですね、そう言うと、
「本当にそう思います。いや、そうします!」
穏やかな表情はそのままに、力強く誓ってくれた。
写真・文 中井 雅代
ビルケンシュトック 沖縄
那覇市牧志2-1-1 プランタビル1F
098-941-8121
年中無休
open:11:00〜22:00