着物が特別なものになったのは、7年前。
子供の保育園のママ友に「一緒に卒園式で着物着ない?」と誘われた。
「面白そう」と思って、着付けを習っている彼女に着せてもらって式に参列すると、
周りの大人も子供もとても喜んでくれた。
その周りの人達の反応にはとても驚いた。
洋服でいくらお洒落したつもりでも、そこまで褒められたことはない。
着物を着たら褒められる?
それだけでウキウキといい気持ちになってしまったのだと思う。
すぐに自分で着られるようになりたいと、友達と一緒に着付けを習った。
練習用に送ってもらった実家の着物は、母の若い頃のもので幅が細すぎて着崩れる。
それを自分で直したくて専門学校で和裁を習い始めた。
小さい頃からの手芸好き魂に火が付いて、今度は和裁に夢中になり修業に励むこと5年。
大好きな着物に囲まれて着物を学び、縫う仕事をさせてもらえるようになった幸せな時間。
それからは自分で布を織ってみたくて琉球がすりの工房に体験入門させてもらったり、
もっと着物を着たくて着物屋に勤めたり、お茶を習ったり。
着物を知れば知るほど、沖縄の職人の技に触れれば触れるほど
次々に新しい興味がわいてきて、さらに着物の奥深い世界に惹きこまれていく日々。
着物の素敵さを誰かに伝えたい、沖縄の染織の素晴らしさをもっと色々な人に知ってほしい。
そんな、着物に恋をした私の日常をちょっとご紹介したいと思います。
<木綿の着物>
着付けを始めた頃は、絹の柔らかくてとろんとした優しい肌触りや雰囲気が好きで、
小紋といわれる染めの着物を着たかった。
洋服でいうとよそ行きのワンピース感覚。特に花柄が好み。
幼い頃、毎日着物で過ごしていた母のおぼろげなイメージを追いかけているのかもしれない。
または学生の頃からいつもジーンズやパンツで過ごしてきたから、真逆の雰囲気に憧れたのかもしれない。
でも元々がガサツな私はそのうち、よそ行き着物より普段に着られる着物に好みが移り、
一番着ていて楽な着物は木綿の着物だと行き着いた。
何が楽かといえば、汚れても気にならないこと。
私はよくうっかり着物を汚す。
ものを食べればこぼす、出掛ければ気付かないうちにシミを付けてしまう。
雨コートを忘れて水シミを作ったり、動きすぎて襟元にファンデーションの色が移るのは、着方がまずいからだと言われながら未だにやってしまう。
もっと準備をして優雅に動けばいいのにと思うけれど、なかなかそそっかしさは直らない。
そんな私が一番安心できる着物が木綿着物だ。
木綿の着物を着ていると、絹の着物の時にどんなに気を遣っていたかに気付く。
着るものなので当たり前だけど、着物は着たら汚れる。汗も吸う。
でも汚した瞬間に「ああ、クリーニング!」と思うのと「洗濯機で洗おう」と思えるのとでは、
着ている時の気持ちの余裕が違ってくる。
とはいえ、絹の着物の手入れをすることも実は楽しかったり、汚さないような身のこなしも私には必要なことだと思っているのだけれど。
もう一つ木綿着物の良い所は、冬には意外と暖かいこと。
お腹周りを帯でしっかり包むから、着物はもともと冷えにくいはずだけれど、
木綿でできた布のふっくらした肌触りや柔らかさが体に馴染むからかもしれない。
よく着るのはチェックの会津木綿。素朴な織味や、なんだかモダンに感じるチェックやストライプが好きで、夫の着物や角帯まで作ってしまったくらい気に入っている福島県の織物だ。
ざっくりしていて風も通す ので、袖口や裾周りが寒い時もある。
その時は長襦袢の下にヒートテックやレギンスを着る。
見えないところは洋服と変わらない。
綺麗な色のデニム着物は冬のお出掛けにもOK。
デニム生地だけあって、裏地なしでも風を通さない。
沖縄では真冬限定で。ただしちょっと重い。
ショールを羽織って、ネル裏の足袋を履いて
クリスマスプレゼントを探しに。
師走に入って風が冷たさを増し、家にいてもなんだか冷える。
そんな時にも洋服より木綿の着物を着る。
この日着たおうち着物は和裁のお稽古で作った木綿の洋服地の着物。
裏地も木綿の袷(あわせ)仕立て。
生地は薄手なのだけれど、2枚重ねなので思った以上に暖かい。
何と言っても風を通さないところが優秀。
家事も平気だ。
袂(たもと)が邪魔なのでタスキをかけて、帯に手拭いを挟んで。
前から思うけれど、こんな時には割烹着が欲しい。きっともっと暖かい。
この格好に割烹着なんて昭和のお母さんみたいだなあ。
いや、たすき掛けだって今どきする人はめったにいないだろう。
そんなことを考えながら、台所に立つ。
着物で家事をしているとなんだか気持ちがのんびりに。
洋服と同じように動くこともできるけれど、あんまりバタバタしなくなってくる。
早目に晩御飯を作って今夜はゆっくり家族と過ごそう。
何かと忙しい師走の週末、木綿のおうち着物で暖かく心穏やかに
家族と過ごす週末もいい。
写真・文 武田道子