着物を縫うということ。日常をふりかえる時間。

沖縄 着物
 
和裁を習おう。
そう決めたのは、サイズが合わず着づらかった母の着物を直したかったから。
 
ちょっと解いて縫い合わせるだけのつもりが、気付けば5年。
いつの間にか、色々な着物を仕立てることに夢中になっていた。
 
和裁って素晴らしいなあと思うのは、物を大事にするための工夫が詰まっているところ。
 
一反一反微妙に長さが違う反物を、着る人の体型に合わせて無駄なく裁断する。
12メートル余りもある布を、ハギレを出さずに使い切ってしまう。
自分の着物をあつらえる時は、帯で隠れて見えなくなる部分に余りを縫いこむように計算して裁断する。
こうして仕立てておくと、裾が擦り切れても縫い直せば伸ばせるし、背が高い娘に譲ることもできる。
 
また、ミシンは使わず手縫いするのは、解きやすく布を傷めないという理由から。
縫う箇所の長さに合わせて必要な分だけ縫い糸を準備したら、途中で玉(玉結びや玉止め)を作らないよう、一気に縫う。(止めるのはなるだけ最初と最後だけにする)
一本の糸で縫うから糸も無駄にしないし、解くのも楽だ。
 
沖縄 着物
 
解いた着物は「洗い張り」といって、一本の反物の形に戻してから洗濯する。
それからサイズを変えたり、裏地を変えたりして再び着物に縫い直す。
あるいは形を変えてコートや羽織や帯へ。
 
着物が普段着だった頃は、洗い張りと仕立て直しを繰り返し、ぼろきれになるまで使い切ったそうだ。
 
誰かの手で時間をかけて織られたり染められたりした布を、大切に縫う。
着る人のためだけではなく、その次にこの着物を仕立て直してまた使ってもらう時を想像しながら。
 
沖縄 着物
 
忙しさにかまけて途中で放置していた、縫いかけの着物を仕上げてみよう。
身頃はほとんど出来上がっているから、袖と衿を付ける。
 
 
沖縄 着物
 
これは、一昨年気に入って買った新潟県の十日町紬(とおかまちつむぎ)の反物だ。藤紫色と白色の小さな千鳥格子の地に、紺や緑で縦横の線が入っている。
 
紬(つむぎ)というのは、絹糸にならないくず繭(まゆ)や節のある繭などを使って紡いだ糸(紬糸)で織った織物のこと。ところどころ節があったりす るけれど、丈夫で普段の着物用に使われる
 
 
裏地がない単衣(ひとえ)仕立てで完成させた。
春と秋に着る着物の作り方だ。
いくら沖縄でもさすがに出番は先かなと思いつつ、どうしても着たくなって暖かい日を選んで着てみた。
裏地がない着物は久しぶりで、軽い着物に気持ちも弾む。
 
武田道子
 
暦の上ではまだ冬なのに、花壇の花々はすっかりほころんでいる。
 
今年初めての蝶々の帯で春を先取り。
 
武田道子
 
仕事に家事に育児にと、毎日バタバタと過ごしながら、便利なものや使い捨てるものを選ぶ生活に、これでいいのかな?と思うことがある。
 
そんな時に縫い物をすると、丁寧に暮らすことを少しでも実践できているかなと、実感できてほっとするのだ。
 
今年はもう少し針を持つ時間を増やそう。
日常をふり返る大事な時間になるはずだ。
それに、新しい着物が増えるのはやっぱり嬉しいし、楽しい。
 

写真・文 武田道子