「最初は倉庫として使うつもりだったんです。店にするつもりはなくて」
カフェ「mofgmona(モフモナ)」のオーナーでもある前嶋剛さんは、カフェのメニューを沖縄のうつわを使って提供したいという想いからうつわを買い求め始めたと言う。
「自分がうつわ好きだったということもあります。自宅でもやちむんや琉球ガラスのうつわを使っていましたから。
最初は積極的にうつわを販売しようという考えはなく、お客様に楽しんでいただけたらと考えていました。そんな気持ちで、オープン当初から僕らが好きだった作家さんや工房さんのうつわをカフェの一角で展示し、希望があれば買えるようにしました」
店内に入ると、誰かの家に足を踏み入れたような雰囲気に包まれる。
キッチンがあり、カウンターの奥ではケトルが湯気を立てている。
玄関の前にはダイニングテーブルを思わせる大きな机が配され、皿、ティーポット、カトラリー、グラスなどが置かれている。
奥には小さな椅子とテーブル。まるでついさっきまでそこで誰かが食事をしていたかのように、その上にはやはりうつわが置かれている。
さらには階段とロフトまで!
ここには「暮らし」がある。
澄まし顔ではない、日々の暮らしの中でリラックスしたうつわたちが並んでいる。
「店の中では、僕なりのものの見方を大事にしています。
僕の見方は基本的に、生活の中でそれがどう見立てられるかということです。
例えば、抹茶茶碗にスープを、コーヒーカップにデザートを、グラスに花を。
また、一つのカップでコーヒーを飲むにしても、いろんなシチュエーションが生活にはあります。
朝のキッチンで、午後のソファで、座布団を枕に、休日に庭で、ドライブがてらビーチで。
そういうわくわくする想像が僕なりの見立てです。
そんな気持ちを共有するために、店の雰囲気には『生活感』を含ませて、それぞれのうつわが生活の中でどのように見えるのかイメージしやすいようにと心がけています。
まあ、とても難しくてうまくいかないことも多いのですが」
気に入ったうつわを手に持ち、店内を歩き回る人の姿をよく見かける。
そして私自身、気がつくと心ひかれた湯のみを一つ手に持ち、あちこちと移動していた。
頭の中には自然と普段の暮らしが浮かんでいた。ソファに腰かけてお茶を飲むときはどうかな? 明るい陽の光のもとではどんな色に映るのだろう?棚に置くとどんな佇まいに?
「台所やロフトがあるので、僕がここで寝泊まりしてるんじゃないかと勘違いなさる方も多かったんです。実際、場合によってはここに住もうかなと思っていたこともあって。
そういう『暮らし』を感じさせる空間なので、ご自身の生活空間をイメージしやすいのではないでしょうか。奥の椅子に座り、うつわを手に考え込んでいらっしゃる方もよく見かけますよ(笑)」
また、一人一人の滞在時間も長いように感じた。
「そう、みなさん長いんです(笑)。また、そうであってほしいと思っています。
空間とうつわをゆっくり楽しんでいただくことが一番大切だと思っているんです。すぐに帰るということは居心地があまりよくないということでしょうから、長く見ていただけるのは店主としては嬉しいこと。
もちろん、お客さんが何か買ってくれたらとても嬉しいのですが、お客さんがとても好きだと思えるうつわに『出会う』かどうかが問題で、『買う』というのはその結果ついてくるものだと思っています。
だから、まずはじっくり、ゆっくりうつわとこのお店を楽しんでいただきたいです。
店に入ったら何か買わなきゃと思わせてしまう雰囲気もできるだけ消したいと思っています。
結果的に何も買うものがなくても、『ここに来て良かった』と思ってもらえると嬉しいですね。」
今では、伝統的なやちむん以外の沖縄のうつわを扱う店は珍しくないが、「mofgmona no zakka」をオープンさせる以前は少なかったと思うと、前嶋さんは言う。
「10年ほど前は、個人レベルで好きなものを作っている小さな工房や作家さんの作品がまとまった量あり、気軽にいつでも見られて買えるという場所は少なかったと思います。それぞれの個展や工房に行くのが購入する主な方法でした。それは、作り手の皆さんにとっても自分の作品を見てもらう方法がもう一つ少なかったということになるかもしれません。」
やがてうつわを目当てにカフェに訪れる人も増え、ストックを置くには店が手狭になってきた。
「倉庫兼事務所が必要だなーと考えていたところに、近所にお住まいの方が『空いている物件があるけど、使わんねー?』と声をかけてくださったんです」
カフェmofgmona から徒歩数十秒の場所にあるその物件は、一軒家で十分な広さがあった。前嶋さんは自身の手で3ヶ月かけて内装工事をした。
「うつわ好きなお客様がいらしたら『こちらにもっとありますよ』とご案内したり、スタッフのミーティングに使ったりしようと考えていたんです。最初は完全な倉庫兼事務所ですね。
でも、棚をつけたり壁の色を塗ったりしているうちに『この空間は店かも…』と思うようになって(笑)」
うつわを販売する店としてオープンを決めたものの、店を開ける曜日と時間は限定することにした。
「毎日フルタイムで店を開けるのは難しいと考えたんです。
というのも、それだけ多くの商品をそろえることが難しい。作家さんたちは皆さんお忙しいですし、量販品ではないから『いくらでも作ります』というわけにはいきません。また、立地的にもここで店が成立するとは思えなかったんです。沖縄のうつわの店といえば、やはり国際通り周辺というイメージだったので。
しかも、宜野湾市の長田交差点付近って『なんか中途半端な場所』という感じでした。
それと自分ひとりで仕入れも店番もして、カフェの運営もあるという事情から、金、土、日の15時から20時まで。週3日くらいがちょうど良いという気がして。
数年後、スタッフが店番をやってくれるようになりましたが、営業時間は今もそのままです。
店名も『mofgmona no zakka(仮)』としていましたが、結局新たな名前をつけないまま時が過ぎて…。『(仮)』をはずしてそのまま名付けることにしました(笑)。
沖縄には、その頃から小さな工房で独自性のある良いもの作る作り手の方が活動されていました。また、伝統的なやきものやガラスにも、それまでとは違う今の自分たちに合った見方があると感じているところでした。
それまでの県外から求められる『まさにこれが沖縄の器』という提示の仕方ではなく、僕らは県内の人に県内で作られている僕らが好きなうつわを、自分たちなりの見せ方で見てもらいたいと思ったんです。
例えば琉球ガラスなら僕は『ガラス工房 清天(せいてん)』さんの作るクリアーなうつわが好きだったんです。ぽってり、とろんとしたガラスの質感を、生活の中で楽しみたいと思ったらやはり透明がよくて。それはそれまでのカラフルな琉球ガラスのイメージと違いましたが、県内の人に向けてと思うと、素直にそういううつわを注文していました」
作家と相談して作った、オリジナルのうつわも多い。
「大きさはこれくらいで、柄はこういう感じ、色みや厚さはこれくらい…というようにある程度お願いして」
しかし、前嶋さんの要望通りに仕上がらないことも多かったと言う。
「どれだけ言葉で伝えても、僕の中のイメージと100%一致することはありません。でも、完全に一致させようとも今は思っていないんです。
イメージに近づけるために努力していたころもあったのですが、どの作家さんともお付き合いが長くなって気心が知れてくるにつれ、想像してなかった作品ができあがる楽しみを感じるようになって。
今は、厳密に『こういうのを作って!』とお願いすること自体少なくなってきたように思います。
作っている人が気持ちいいことも大事ですから。いい気持ちで作ったうつわはやっぱりいいうつわになる。
作り手も人間ですからいろいろで、注文されたい人、されたくない人、意見を聞きたい人、聞きたくない人、その中間。一人の作家さんの中でも考え方や心境は変化していくものです。今はそういうこと自体を楽しんで、一緒にお付き合いさせていただくうちに自然と自分たちの好きなものがお店に溢れるといいなと思っています」
扱っているうつわは、作家の年代もカラーも幅広い。
「基本的に作り手の皆さんはみんな先生みたいなものですが、特に人生の大先輩として尊敬しているのは、大嶺實清さんや北窯の親方たち、それに与那国島の山口和昇さんでしょうか。色々なことを教えてくれたり、間違ったことをしようとすると考えるきっかけを与えてくださったり。逆に応援してくださることも。僕が無茶なことをするときは、励ましてくれることが多いですね(笑)。
例えば、今年パリで移動店をやったのですが、企画段階では『沖縄のうつわをパリで…。うまくいくだろうか?』と懸念もありました。でもそういう方たちが『行ったほうがいい』と背中を押してくれたり、おもしろがって自分の海外での経験を教えてくださったり、もちろん器を提供してくださったり。すごく勇気がでました」
また、工房で修業をしていた陶芸家たちが独立し、工房を構えて納品するようになったケースも。
「工房コキュの芝原さん、工房十鶴(じっかく)の柄溝さん、田村窯の田村さん…。皆さん北窯で修業なさっていた作家さんです。
自分と同世代ということもあり、独立して活躍なさっている事実が嬉しいし、これからも一緒にやっていけたらいいなーと思っています。
僕がお店をやり始めたのと同時期に独立して工房を始めた作り手の皆さんも、大事な友人と勝手に思ってますが、初期の頃からずっとお付き合いさせてもらっているのが、やきもの工房ナマケモノの伊藤さんとhanaさん、山ひつじ舎の山口未可さん、ガラス日月のおおやぶみよさん、増田良平さん、東恩納美架さんなどです。ナマケモノのお二人や、日月のみよさんとは一緒にパリに行ったりもしました。古い付き合いの作り手の皆さんは僕にとって本当に貴重な経験を共有している仲間です」
店を始めたことで、うつわの持つ魅力の新たな側面にも気づかされたと言う。
「最初はあまりわからなかったのですが、当然のことながら人は少しずつ変わっていきます。作り手も技術や思考が向上するだけでなく、そのとき考えていることや本人の状況の変化などで、少しずつ、場合によってはかなり大胆に作品が変化します。本人の内面の問題だけでなく社会情勢や大きな災害も少なからず影響していると言ってもいいかもしれません。
そう考えると、今目の前にあるうつわが今しかないものなのだと思わされます。
ずいぶん前に気に入って買い求め、今でも使っているうつわをまた愛おしく思えるようになりました。と同時に今店に並んでいるうつわも同じように愛おしくなります。
作り手からは昔の自分の作品を見ると恥ずかしいという言葉を聞くことがあります。技術的にも思考的にも、その気持ちはなんとなくわかります。
でも使い手となったとき、そのとき気に入って買ったうつわは、作り手の気持ちとは関係なく貴重なものです。むしろ作り手が変化するからこそ、より大事なものになると言ってもいいかもしれません。
今はそういう変化も楽しむようになりました。」
カフェと雑貨店。二つの店にはそれぞれに別の想いをこめている。
「mofgmonaは空間を提供している場所です。料理や飲み物、インテリアやBGMを含め、全てお客さまが自分の過ごしたい時間をここで過ごすお手伝いをするための空間の一部です
mofgmona no zakkaは、お客さま自身の空間で良い時間を過ごすために、その道具の一つであるうつわを販売するお店です。
ですから、zakka の方の内装はうつわの良さを引き出せるよう心がけました。
うつわって空間に置くことでニュアンスが変わると思うんです。
もしかすると作り手が考えることと違う場合もあるかもしれませんが、自分たちなりの見方でうつわを見て、その魅力がわかるようなかたちでお客さんに見せて、共感していただく。それができたらとても幸せなことだなと思います」
店の未来を尋ねると、「流れにまかせたい」と答えた。
「作家、工房…それぞれ距離感が違うけれど、自分にとっては友だちというか、お互いの幸せを願っている関係なんです。
自分たちだけうまくいくことってないし、みんながうまくいってくれればいいなーって。そういうの、幸せじゃないですか。
あなたが幸せじゃないと、こっちもどうも幸せじゃない。そして向こうも同じように感じている。そういう関係こそが財産であり、そういう人がいることが幸せなことだなーって。
その気持ちを大事に、あとは流れやなりゆきにまかせてもいいかなと思っています」
店に入ると、カフェではないのにスタッフがグラスにお茶を入れて出してくれた。店内の人々はそのお茶を飲みながらうつわを物色している。それにとても驚いたと伝えると、前嶋さんは笑って言った。
「自分の家にお客さんが来たらお茶くらい出すでしょう、誰だって」
なるほど。つい長居をしてしまうのはこの一杯のせいもあるのかもしれない。
こころゆくまでうつわを見ていっていいよ、どうぞゆっくりしていって、と許されたような気持ちになって…。
いや、これはただの言い訳だろう。
おうちの中でうつわを選ぶ、その楽しさは想像以上だから。
あなたも店の玄関を上がれば、きっとわかる。
mofgmona no zakka
宜野湾市宜野湾2-1-29 宮里アパート301
050-7539-0473
http://mofgmona.com