「多分ですけど、私は人よりとても不器用なんですね。南風原にある工芸指導所に入った時、何1つまともに作れなくて。でも、みんなすごいスピードで作っていて、みんなが2個3個とできる間に、私はまだ1個だったり」
自身のことを「ポンコツ」と言い、そんなところを隠すことなく口にするのは、木工作家の西石垣友里子さん。個展を開けば、「待ってました!」とばかりにその作品を求めて、初日から多くのお客が押し寄せる、そんな人気作家なのに、自分のダメな話をいくつも披露してくれる。
「今だって、他の木工作家さんのインスタとか見て、打ちのめされることがあるんです。あまり見ないようにしているんですけど(笑)。『うそでしょ。同じ機械を使ってるとは思えない。もうできない、私下手くそすぎる』って心が折れちゃったり。メンタルが豆腐なんです」
つい最近の昨年末(2017年11月)、那覇のギャラリーショップ“RENEMIA(レネミア)”で個展を開いたが、その準備でもやはり心が折れたそう。
「ほんとに何も出来上がらなくて。うまく形にならないとか、色々なことが進まない。何回も何回も心が折れました。木を嫌いになる寸前でついに、『もう触りません!』って。結局1週間、木に触らなかったですね」
そんな風に落ち込んだ時、友里子さんに欠かせないのは、なんと“ビール”。
「『じゃ、まあ、ビール飲もう』って。ビール飲んで、寝ます(笑)。ビール、大好きなんですよ。あ〜、オリオンビールのキャンペーンガールにしてもらえないかな〜。キャンペーンガールの彼女たちより、私が一番美味しく飲んでいると思うんですよ(笑)」
そんな楽しい冗談を放ちつつ、その後、力強い言葉が続いた。
「でも、できないのが悔しくて、悔しくて。もう少しやってみようかな、あともう少しって…。諦めが悪いのが自分の良かったところだと思っているんです」
友里子さんが木工作家を目指したのは、27歳の時。家具が好きだったことから、「木工で生きていこう」と腹をくくって、県の工芸指導所の門を叩いた。卒業後は、大胆にもすぐに自身の小さな工房を立ち上げた。「人が2人入ったらギュウギュウ」というその工房で、生活のためのアルバイトなどと掛け持ちすることなく、地道に創作活動を続けてきた。生活に根ざしたものを作っていきたいと、これまではナイフやフォークなどのカトラリー、木べらなど比較的小さな作品を多く制作。けれど、3回目となる今回の個展に際しては、新たなテーマに挑戦した。それが“お皿”だ。
「自分の中では大きなチャレンジでしたね。最初は直径24センチくらいのお皿しか作れなかったんですよ。大きなお皿は、ろくろの遠心力でグワングワンなるんで、力も技術もとても必要なんです。ここ2年くらいですかね、本気でこの技術を習得して。ようやく大きなお皿も作れるようになりました」
木工作家になっておよそ10年。何を作っていくかも試行錯誤の連続だった。
「木工でも、最初からこれを作ると決めていたわけではないです。だんだん自分の得手不得手がわかってきて、作りながら自分には何が合うのかなって1つずつ潰してきた感じです。言葉がひどいですけど、ホントに行き当たりばったりなんです。これを作ってみたら、すごい好きだ、すごい楽しかった。あれを作ってみたら、体がしんどかったとか、自分を観察しながら合うものを探していて、まだまだ探している途中です」
お皿も、「正解不正解はないんだから、自分の好きなように作ればいいじゃない」と、自身に言い聞かせて制作してきた。その作品を見ると、素材は全て木でありながら、表現の豊かさに驚かされる。
木のお皿といえば普通、ひたすらナチュラルテイストを突き詰めたものかノミの削り跡を楽しむものを想像するが、友里子さんの作品は、そのどちらでもない。表面は同じマルの形なのに、ぽってりと愛らしいものがあるかと思えば、シンプルでスタイリッシュなものもある。はたまた、見たこともないような縁取りが施されたものがあるかと思えば、表だけでなく裏返して裏面も使えるというアイディアが光るものまである。友里子さんの作品には、常識にとらわれない、友里子さんの“好き”や“楽しい”がいっぱい詰まっている。
その代表ともいえるのは、“ドーナツ”というネーミングのお皿。ドーナツをそのままはめ込んだような、縁の部分がぷっくりと膨らむ名前の通り可愛らしい皿。よくよく見ると、そのドーナツ部分に彫り目が入っている。
「木の特性で、木の繊維を断ち切らないと、彫り目が水分や温度でまた元に戻ってしまうんです。ルーターで削って、お湯をかけて乾燥させる湯拭きをして、彫り目が戻っているところを探して、それから研磨するという一連の作業を、5,6回は繰り返します。大変ではあるんですけど、削ってみたら楽しくて。ちょうどルーターを買ったばっかりの頃で、削るとちょっと陶器みたいな雰囲気になるなと思って。これ、すごくかわいいなと思っていて、この部分、すごく好きなんですね」
こんな風に、友里子さんのお皿には、他にはない面白いポイントがある。乳白色の肌と薄茶の木目が美しいリム皿は、森林の中にいるような爽やかな香りが漂う。お香にも使われるクスノキだそうだが、匂いのある木は基本的には器に不向き。けれど友里子さんは、「香るお皿があってもいいじゃない」とあえて作品にしたのだそうだ。
友里子さんの“楽しい”や“好き”が詰まっているお皿はまだある。それは、友里子さんの木に対する愛情を殊に感じられる皿。それぞれの木としっかり向き合っていることから、その愛情の深さがわかる。木の持つ色や輝きにも敏感だ。
「意外と木って色があるんですよね。たまに陶器の鮮やかな釉薬の色に憧れることがあるんですけど、木だってずっと見ていると、ひとつひとつに異なる色があることがわかるんです。それに削りたての時って、刃物が木の繊維を断ち切るので、断面がキラキラするんですよ。工房で一人キラキラしているのを見て、ニタついてます」
そのキラキラを楽しむ皿もある。県産木のヤマグルチを使った皿だ。
「そのお皿の縁の部分を持って、表面が色々な角度を向くように回してみてください。木の繊維と直交して、サッサッと虎模様に光っているのがわかりますか? それ、“杢(もく)”っていうんです。木が元々持っているもので、光の加減で反射して光るんですよ。同じ木でも杢が入っていないものもあるんです。だから杢が入っているところを選んで器にしています。木の器がお好きな方は、すごく見るところでもありますね。だから、『どや、杢!どやどや!!』と(笑)。ノミで削ってしまうと消えちゃうので、勿体無い。この杢を活かせるデザインにしています」
友里子さんはキラキラしているところを見てほしいと(わかりにくいにもかかわらず)、自身のSNSでも自ら皿を回す動画を上げているほどだ。
それぞれの木の持つ美しさを活かす友里子さんだが、その木を選ぶ際には、こだわりがある。それは相思樹や、センダン、イジュ、ウラジロエノキなど、全て沖縄の木であるということ。
「沖縄で成長している木は、沖縄の生活に必ず合うはずなんですよね。湿気にも対応してくれますし。“地産地消”っていう言葉がありますけど、その言葉の意味が、ものづくりを通して初めてわかりました。器も地産地消が理にかなっていますよね」
友里子さんは、生活の身近なところに木があることを感じてほしいという。自身の作品も、生活の道具だから、大事に戸棚の奥にしまっておくのではなく、頻繁に使って欲しいとも。
「『お手入れは難しいよね』ってよく聞かれるんですね。木の器を使うことに抵抗ある方が多いんですけど、このズボラな私が大丈夫なんだから、皆さんも大丈夫ですよって言いたいんですね。でもあくまでも生活の道具なので、『汚れてもいいじゃない』って思うんですね。『汚れたとしても、お皿に美味しい記憶が残っているんで、それはすごくよくないですか?』って言っています。私も、『これ、あの時にアレを食べた時のだよね〜』とか、自分のお皿見て思っていますよ(笑)」
食事がとても好きだという友里子さんらしいアドバイス。友里子さんは、必ずしもきちんと自炊するわけでもなく、購入したものや人の手を頼ることもあるという。「“丁寧な生活”からはかけ離れているんですけど、“自分の好きな生活”ですね」と友里子さん。決して無理をしない、自分らしい自分の好きな生活に、このお皿が彩りを添えてくれる。ただトーストを乗せただけなのに、そのトーストがとても美味しそうに、おしゃれに見える。
友里子さんのお皿は、友里子さんがダメな時も、楽しくて作業に没頭している時も、ずっと友里子さんと時間を共にしてきた。ただのトーストも、心が折れるほど落ち込んだ日も、ビールを飲んだくれて眠る日も、堅苦しいことは何も言わずに、ただ温かく受け入れてくれる木の器。たとえ汚れてしまったとしても、「それもいいじゃない」と微笑んでくれる木の器。大らかで、ユーモアがあって、美しい。まるで友里子さんのようなお皿が自分の生活にあれば、その生活はとても楽しくなるに違いない。
写真・文/和氣えり(編集部)
木工作家 西石垣友里子
https://twitter.com/nishiko10
<友里子さんの作品を購入できるお店>
RENEMIA
http://www.renemia.com
tituti
http://www.tituti.net
<取材協力>
RENEMIA