「小禄地区で大綱引きがあるのよ。
大きなお祭りじゃないけど行ってみる?」
と誘われて、お祭り好きな私は二つ返事でオッケーした。
地区のお祭りということだからこじんまりとやるものだと思いこんでいたが、なかなかどうして。
行ってみると、準備や練習に相当な時間を費やしたことがわかる本格的なお祭りで、しかも想像以上に楽しく、私はすっかり大綱引きのファンになってしまった。
引かれるのを待つ大綱。
おじい、おばあの特等席。
うちなんちゅは、老若男女を問わずお祭り好きが多い気がするし、
祭りの最後に踊られるカチャーシーなんかは、
やっぱりおばあが踊ってこそ!という雰囲気。
祭りにおばあの存在は欠かせない。
だしものの空手の演武が始まると、子ども達が集まってくる。
空手が盛んな沖縄。
まだ小さい男の子が、羨望のまなざしで見つめていた。
婦人部会も踊りを披露。
聞き慣れた沖縄音楽に、会場からは手拍子が。
大人も子どもも、音楽に合わせてからだを揺する。
3歳児も60歳も同じ音楽でのれるって素敵。
祭りの目玉の一つ、「旗頭(はたがしら)」の舞いが始まる。
見た目にも相当な重量があることがわかる大きな旗を、
腰に巻いた布を支えに身一つで持ち、バランスをとる。
さらに、
「サーサーサーサー!」
「ハーイヤ!」
のかけ声と共に上下に振って旗を美しくたなびかせるのだが、
無論これが一筋縄ではいかない。
支えるだけでも一苦労なうえ、風を受けてバランスを崩しそうになることも。
そんな時は、脇にいる他のメンバーたちが棒を差し出して支える。
旗は絶対に倒してはいけないのだ。
どっしりとした安定感があり、安心して見ていられる持ち手はやはり少し年配の男性。
経験がものを言うのだろう。
しかし、少し危なっかしい若手にも積極的に持たせる。
彼らに昔の自分を重ねているのかもしれない。
男のプライドがあるのだろう、若手たちも真剣な表情で何度も旗に挑む。
旗頭の勇壮な姿を見て育つ子どもたちもまた、
成長して旗を持つようになる。
ところで、旗頭の衣装「股引半套(むむぬちはんたー)」を着たウチナー男子は、3割り増しでカッコイイ!
(エイサー衣装の男子も☆)
10代、20代の若い男子も、熱意いっぱいで参加してるところが良い。
旗頭やエイサーは、今の若者にとっても
「カッコイイ」
のだ。
だから沖縄の伝統行事は廃れず、こんなに盛り上がるのね。
大人な男性ももちろん素敵。
奥さんは毎年惚れ直しちゃうんじゃないかしら、と思う。
濃い顔立ちに合う衣装なのかもしれない。
旗頭の舞が終わると、綱引きの準備「綱寄せ」が始まる。
大綱は雌綱と雄綱の二本に分かれており、
東西両陣営がそれぞれの綱を中央に寄せ、結合させる。
この大綱が驚くほど重い。
観客も総出で持ち上げ、移動させる。
引いた時に抜けてしまわないよう、
綱引き直前、雄綱の穴に「カナチ棒」と呼ばれる太い棒を入れる。
子ども達は、大綱から出た細い綱を手にとり、綱引きに備える。
これから会場を包む熱気の予感を感じるのか、
どの子も少々緊張気味の面持ち。
歴史上の人物の扮装をした少年たちが両陣営から入場。
彼らは「支度(したく)」と呼ばれる。
地域によっては綱の上を歩くところもあるが、
字小禄では戸板に担がれて登場する。
中・高生というと行事ごと参加しなくなりそうな年齢だが、
大役をしっかり務める。
そんな友達の姿を一目見ようと同級生たちも集まっていて、
「お〜い!」
と、脇から声をかける。
戸板の上の少年たちは、少し恥ずかしそうにしながらも声援に笑顔で答えている。
そういうやり取りはとても微笑ましい。
いかにも沖縄的なこんな扮装も、
やっぱり本土出身者がやると全然違うのかもしれない。
沖縄の少年たちにはとてもよく似合っている。
綱の中央部に近づくと、刀を構えてにらみ合う。
「今から真剣勝負が始まるんだ」という雰囲気に、会場が包まれる。
しばらく対峙し続けた後、戸板に担がれたまま退場する。
やがてくす玉が割れ、ピストルが鳴ると同時に綱引き開始!
大歓声に包まれながら、観客も一緒になって綱を引く。
最初は力が均衡していたが、徐々に西陣営に綱が引っ張られ、
ひきずられていく東陣営にあきらめの色が見え始めた頃、
綱引き終了と西陣営の勝利が宣言され、間を置かずカチャーシーの音楽が始まり、
西陣営の人々が歓喜の中で踊り始める。
西、東といっても観客に陣営の別はない。
みな一緒になって踊り始めるのだが、
これが綱引きの興奮を引きずってめちゃめちゃ盛り上がる!
ここで、お祭り気分が最高潮に達する。
踊るのに夢中になり、カチャーシーの様子を撮影し忘れてしまった私。
・・・無念。
頑張った子どもたちに(大人にも?)
「チューチューが沢山ありますので、とりにきてくださ〜い」
と声がかかる。
沖縄でのチューチューの人気は絶大。
みんな、一目散に主催者テントに集まる。
全員にチューチューが配られるというあたりが、
いかにも地区の祭りという感じで良い。
急に親密な気持ちになる。
市や県主催の大規模な祭りだとこうはいかない。
みんながチューチューに夢中になっている中で
閉会が宣言される。
チューチューを口にくわえたまま、みな拍手をする。
閉会後も、青年会の青年たちが名残惜しそうに旗頭の舞を続けていたのが印象的だった。
出店は一店舗だけ(すごい行列ができていた。)、
花火の打ち上げもない、
バンドのライブもない、
一地区のお祭り。
だけど、大規模な祭りにはない一体感と気安さがたまらなく心地良い。
南部を中心に、夏になると様々な地区で行われる大綱引き。
大々的に広報している地区は少なく、
ほとんどの県民は開催地区近辺の家に配られるビラや貼り紙などで開催を知るよう。
運良く一地区の大綱引き開催の情報をゲットしたら、
是非とも足を運んでみてほしい。
県民の等身大の祭りを体験することで、
うちなんちゅの心と魂が、手に取るように伝わってくるから。
写真・文 中井 雅代