「花は、私にとっては絵の具なんです。ずっとキャンバスの上で絵を描いてきたから、それと同じ感覚ですね。いろんな色の組み合わせをするのがすごく好きで、楽しいんです」
造花を使ったアクセサリーのブランド MAUAの咲乃さんはいう。アトリエに並んだ花たちは、色に何より惹かれる。どれも、鮮やかさや艶やかさを消した、けぶるような色。このままもう少し時が経てば、ドライフラワーへと変わっていくような気配をまとう。また、組み合わせの妙で、褪せた色、くすんだ色が合わせられると、不思議に華やかさをもたらす。
「他のひとはしないような色使いかもしれない。でも私の中ではアリなんです。普通のアクセサリーじゃ物足りないってひとには喜ばれてるかな」
普段使いするひとはもちろん、ブライダルハウス大手のヘッドドレスでは満足できなかったひとも、MAUAを求めてくる。
「昔はバスケ部で、実は体育会系で」と快活に笑う咲乃さんと、このアクセサリーたちがすぐには結びつかないのだが、この色彩感覚はいつ身につけたのだろうか。
「小学生の頃、母が24色のペンを買ってくれたんです。たくさんの色があるってことがうれしくて楽しくて、いろんな色の組み合わせをして遊びました。特に、グレーと紫は合う!グレーとピンクは合う!って、グレーって地味な色だけど意外にいろんな色に合うな、カッコいいなと驚いて。今でもグレーは大好きです。アクセサリーを作る時にもよく使いますね」
小学生が、グレー。渋い好みだ。そして、その感覚を確かなものにしたのは京都での暮らしだという。
「原色よりも中間色の方が好きですね。私、沖縄から出て、京都の美大に行ったんです。沖縄では太陽が真上から射すから、原色が綺麗にピカピカあふれてる。でも京都の光は中間色をきれいに映し出すんです。四季の移り変わりも美しく、曇り空さえも情緒的に見えて……。京都に住んでいた時、初めは原色しか使えなかったのに、そのうち白く濁った色やくすんだ色が使いやすくなったんです」
学生時代に描いたスケッチブックを見せてもらうと、やはり色使いに特徴が見てとれる。
「花なら、元気な時の花じゃなく、くたっとして、失われはじめた瑞々しさに惹かれます。古いものや錆びたもの、色褪せたものが好きなんです」
しっかり培われた色のセンスがあるから、後はひらめき。計算ではなく、直感で花々をいじりながら、作り上げる。
「初めは、作り方も、花の名前すら知らなかったんですよ。多分ホットボンドを使うんだろうなってぐらいで。初めに花を卸してもらったお店にも『どうしたら私はここで花買えますか?』って逆に質問したり、何も分からず始めて。でも先入観がないから、自由に作っていけるのかも」
そう言いながら、咲乃さんは花をちぎり、組み合わせていく。本物の花を扱うような手つきだ。
「造花って、100円ショップにもありますよね。だから安っぽく見えてしまいがちですが、それはいやで。でも、造花なら、気に入らない花でも自分で組み替えればいい。花びらを減らして、リボンや羽、レースを合わせたりと、生花にはできない組み合わせができるんです。そうしてディティールを変えていくのが楽しいですね」
そう、どうしても造花は生花には敵わないという思い込みがあった。だが、確かなセンスと表現力があれば、むしろ生花以上に高められて、表情豊かに咲くのだ。
咲乃さんがMAUAを始めたのは、友達の結婚式で見たある光景がきっかけ。
「新婦と、そのお母さんと妹がそろって、お手製のヘッドアクセサリーをつけて入場してきたんです。それを見た瞬間、すごくときめいて、わさわさして。『あっ、これやりたいな』って、手に汗が出るぐらいドキドキして、沖縄に帰ってきてからもドキドキして。それまで10年間、絵を描いてはいたけどくすぶってた自分がいたので、これだけはちゃんと始めよう、動いてみようって」
そして、今。MAUAで花を触っている時間が一番幸せだという。色を組み合わせて遊んでいた少女がそのまま大きくなったような雰囲気だが、ここに至るまでは悩みもあった。
「ずっと絵を描いてきたけど、売ったことはなくて、社会で循環されてない自分っていうのが苦しかったんです。でも、MAUAで自分の作ったものが、ひとの手に渡って初めて、誰かの喜びになったんだと思ったらすごくうれしくて。それまでは、自分のためだけに作っていたけど、それを誰かが良いと思ってくれたことで、自分が救われたというか…」
MAUAには、たくさんの花という意味がある。
「実は私、歌手のUAが好きなんです。大好きなUAがスワヒリ語で花っていうのは知ってたから、それに複数形のMAをつけたら、たくさんの花って意味になったので、これはもってこいだ!と思って。この花のアクセサリーで、たくさんの笑顔の花が咲きますように‥って」
たくさんの花々が、髪を、胸元を、バッグを飾る。品の良い存在感を匂わせて。
この花がいい、この花はあまり…と好みはあれど、花すべてを嫌うひとはいないように思う。でも、いかにもな花をコーディネートに足すのは難しく、ちょっと気恥ずかしい。そんな人にも、MAUAなら浮かず、寄り添ってくれる。花は大好き。だけど、あからさまなのは嫌。欲ばりな私たちにMAUA、たくさんの花を。
文 石黒 万祐子
MAUA マウア (アトリエ)
ブログ:http://maua.ti-da.net
インスタグラム:http://statigr.am/mauauam
【取扱店】
COQU コキュ
住所:沖縄県宜野湾市新城2-36-12
定休日:水曜・木曜
HP:http://coqu.ti-da.net