» Catherine ANDRE(カトリーヌ・アンドレ)自分がスペシャルな存在であると教えてくれる服


 
波のない静かな夜の海のような、
もしくは
雲のない冴えわたる夜空のようなグラデーション。
 
その色彩の魅力にひきこまれたあとに、
素材がニットであることを思い出し、少し戸惑う。
どんな糸をどのように編めば、この軽やかさが生まれるのだろう?
 
「重厚」というニットのイメージを覆して風になびく生地に、
思わず手を伸ばして触れたくなる。
 
色と色を跨いで浮かび上がるのは
見たことのない不可思議な幾何学模様。
 

 
プラザハウス社長 平良由乃さんは、
Catherine ANDRE(カトリーヌ・アンドレ)が描き出す色の世界にひきこまれた一人。
沖縄の人々にも直に見て欲しいと買い付けに行ったが、
コレクションの素晴らしさに圧倒され、
その中から服を選ぶことがどうしてもできなかった。
持ち帰る手荷物の重量には制限があるし、予算も限られている。
 
由乃さんはあきらめきれず、カトリーヌさん本人に
沖縄でコレクションを開いてくれないかと依頼した。
 
2006年をかわきりに、カトリーヌさんは毎年プラザハウスでショーを行っている。
それは「トランクショー」と呼ばれる、デザイナー自らが会場に出向いて新作コレクションを紹介するというスタイルだ。
年に1回だったのが去年からは2回に増えた。

10月にショーを行ったばかりのカトリーヌさんにお話を伺った。
 

 
——– トランクショーがよく行われるアメリカとは違い、ヨーロッパでは主流ではないとのこと。フランス人であるカトリーヌさんが、積極的にトランクショーを行うのはなぜでしょう?
 
「実際に洋服を着てくれるお客様と直にお会いするのは
私にとっても非常に重要なことだからです。
 
ショップのバイヤーは私のコレクション全てではなく、
その一部を購入してくれるわけですが、
その時に基準になるのはバイヤーの好みであって、
必ずしもお客様の好みすべてを考慮して選ぶことはできませんよね。
服の好みは人それぞれですから。
 
ショップスタッフがどれだけ『売り上げが良い』と満足していても、
お客様ご自身が本当に満足しているかというのは
お会いしなければわからない。
そして、それこそが何よりも重要なことでしょう?
 
パリでトランクショーをする必要はないんです。
自分のショールームがありますから、シーズンの始めにメインカスタマーをお招きし、お披露目会をします。
そこでは特別料金で新作をご提供し、
私はお客様がどういう着こなしをするのかチェックできるんです。」
 

 
——– エンドユーザーと直接会う機会は、カトリーヌさんに新たなインスピレーションを与えることもありますか?
 
「もちろんです。
というのも、会場にいらっしゃる方は最新のコレクションばかりを身につけているわけではなく、
数年前のものや、他のブランドの服など、
年代もブランドも超えたとミックスコーディネートをなさっていて、
それがとても興味深いし、また驚かされることもあります。
 
例えば数年前、コレクション会場で女性が着ているセーターにふと目がとまったんです。
『あのセーターは一体どこのブランドのかしら?』
不思議に思って訊いてみたら、
実は私のファーストコレクションのものだった(笑)。
自分が忘れちゃうなんて・・・と少し恥ずかしかったけれど、
同時にすごく嬉しかった。
だって、それはそれは素敵に着こなしてくださっていたから。」 
 
——– 亜熱帯の沖縄においてニットという選択肢は浮かんできづらいと思いますが、カトリーヌさんのコレクションは好調で、売り上げも年々伸びていると聞きました。
 
「沖縄の人々は色に対してとても繊細な感覚を持っていますし、
自然とも密着した生活を送っていますから、
私のインスピレーションやフィーリングを
同じように感じ取っていただけるんじゃないでしょうか。
私は東京にも足を運ぶけれど、東京の人々とは違う印象を受けます。
 
例えば、先日の沖縄での受注会で紅型作家の方とお会いしたのですが、
彼が持参した珊瑚や海の写真をまとめたフォトブックを見せてくださいました。
彼は私のコレクションをご覧になったあと、
『この服、まるで僕の写真のようだね!』
とおっしゃりながら、波のようなメランジ模様のワンピースを指差したんです。
言われてみると本当に、そのワンピースは海のように見えました。 
 
こういう出逢いがあるにつけ、
沖縄にはやはり特別な何かを感じますね。
 
また、ニットが重いというのは間違ったイメージなんです。
フランスの自宅近くに17世紀に建てられた美術館があるのですが
そこで高位の神父さんが手編みした、驚くほど編み目が細かく薄いニットを見たことがあります。
編みかたや編み目の細かさ、糸の選び方次第で、
ニットは軽くもなるし、風も通すのです。」
 

 
——– 次のコレクションに向けて、具体的なイメージはなにかできあがっていますか?
 
「実はね・・・私、サムライに興味があるの(笑)。
サムライのことを考えるとき、私はいつもフランシスコ・デ・ケベード(スペインの詩人・小説家。スペイン-バロックを代表する大家)の書いた古いオペラを思い出すんです。
主人公が白昼夢を見る物語。
白昼夢を長く見過ぎると、それが現実になる、そんなお話。
 
サムライは強くてハードな人々だったと思います。
でも、最初は可愛い男の子だったはずですよね。
そして小さいうちに母親と引き離され、
沢山の血が流れるのを目の当たりにし、
食べられるのは梅干しとご飯だけ。
 
サムライは見た目こそいかめしいけれど、
その鎧の内側には優しく繊細な心を持っていると思うんです。
私はその見た目と内面のコントラストがとても興味深いと思うし、
そういう対比を表現できたらと思っています。」
 

 
深く穏やかな湖のような瞳をまっすぐ相手に向けながら、
小さな声でささやくように話す人だ。
コーヒーにミルクを入れてかき混ぜる動作、
「どういったら良いのかしら・・・」
と質問に対する答えを求めて思案する時の首の傾け方、
そのすべてがたおやかで、非日常的な雰囲気をまとっている。
カトリーヌさんの周りだけ、空気の色もなんだか違って見える。
 
そんな彼女の口から「サムライ」という言葉が出てきたのは意外だったが、
「白昼夢」「内面」「優しい心」
とキーワードを結びつけていくと、
カトリーヌさんご自身が放つ日常から少し距離を置いたムードにも重なり、
その新たな世界感が目の前に開けていく気がした。
 
Catherine ANDRE を販売している Roger’s JARDIN(ロージャース ジャルダン)のスタッフたちは
みな少なくとも一着は自分の Catherine ANDRE を持っていて
取材当日はそろって着用していた。
「まずは一度着てみてください。
着ることでその真の魅力が伝わりますから。」
 
トランクショーの為に持参する服はすべてサンプル。
今回は来年の春夏もの。
受注会期間どなたでもいち早く最新コレクションを実際に身につけ、お気に入りを発注できる上に、割り引き価格が適用される。
(今回の受注会は終了済み)
 
Roger’s JARDIN には、今年の秋冬ものも揃っている。
触れるだけではなく、ぜひ一度袖を通してみて。
それがこの上なく上質であること、
そして、自分がスペシャルな存在であることに気づく。
 

写真・文 中井 雅代

 
 
Roger’s JARDIN(ロージャース ジャルダン)
プラザハウス1F
沖縄市久保田3丁目1−12
098-933-1141
open 10:00〜20:00