星のたねドラゴンフルーツのガスパチョに、黒米のバジル入り生春巻き。新鮮な驚きとたっぷりの工夫に溢れた、ビーガンプレート

星のたね

 

「バランスよく食べることって、自分が食べたいとか美味しいって思える物をほどよくいただくということだと思うんです。お肉だろうがお魚だろうが、それぞれでいいんですよね。美味しいご飯をお友達と一緒に食べて、美味しかったね、楽しかったねっていうんで、いいんじゃないって」

 

ビーガンカフェ“星のたね”の店主、やまむらさなえさんは、そう言って微笑む。動物性の食材は食べないからといって堅苦しいことは何もなく、ビーガンの人もそうじゃない人も、ここでの食事を楽しんで欲しいというのが、さなえさんの願いだ。

 

だからさなえさんのお料理には、食べることを楽しむための工夫が散りばめられている。

 

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手前から時計回りに、豆腐と雑穀のハンバーグ、五分づきご飯、黒米と野菜の生春巻き、揚げ島豆腐甘酒ダレ漬け。毎週、異なる内容で、趣向を凝らしたおかずが並ぶ。

 

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揚げた島豆腐には、甘酒ダレに漬け込んだシカクマメとエリンギのソテー、つるむらさきの花を添えて

 

まず目を引くのは色味の楽しさ。プレートからは、生き生きとしたグリーンや、滋味深い紫が溢れ、スープカップからは、鮮やかなピンクやまろやかな黄色が覗く。鮮烈な色味の配置と豊かさに、思わず笑みがこぼれる。

 

そしてその工夫は、食感にも。島豆腐のハンバーグは、跳ね返す弾力が肉のようだし、ハンバーガーのひよこ豆パテは、外側はカリッと中はホクホクだ。

 

「ハンバーグの島豆腐は、2種類入れているんです。水切りしたものと、冷凍して凍り豆腐にしたもの。凍り豆腐にすると歯ごたえが出て美味しいかなって。でもそれだけだと味が単調になるので、水切りしただけの島豆腐も入れているんです。食感の変化を出すのに、押し麦も入れています。ハンバーガーのパテは、ファラフェルというひよこ豆のコロッケをアレンジしました。ひよこ豆は、荒いのとすごく細かくしたのとを入れています。荒いと、ひよこ豆のカリッとした食感が出て美味しいんですよね。でもそれだけだとつなぎにならなくて。あんまり粉を入れたくないので、細かいひよこ豆でつなぎにしています」

 

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ひよこ豆のパテには、練りゴマとスパイスの入ったタヒニソース、自家製ハバネロオイルの入ったトマトソースがかかる。

 

さらに洗練された味の組み合わせも、工夫のひとつ。生春巻きに爽やかな風を感じるのは、意外なアクセントを忍ばせているから。

 

「バジルの生のリーフを入れています。黒米を入れて海苔を巻いて海苔巻き風の生春巻きだけど、そこにバジルの香りがふわっとしたら美味しいだろうなと思って。ペーストで入れることも考えたんですけど、生のリーフが爽やかかなと」

 

冷たいスープは、なんと果物をメインに。

 

「ピンクのスープは、ドラゴンフルーツのガスパチョです。普通のガスパチョにはきゅうりが入ったり、ナツメグやバルサミコが入って、ちょっと強い感じなんですけど、ドラゴンの色を活かした優しい味にしたくて。でもドラゴンだけだと旨みが足りないので、トマトと玉ねぎで補っています。最近はちょっとミスマッチな感じが面白くなってきて。農家さんから直接、様々なハーブや野菜が手に入るし、これとこれを合わせたらどうだろうとか、冬瓜を焼いてみたらどうだろうとか、色々試作します。食べてみて、これも悪くないって(笑)」

 

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直感で食材や調理法を選ぶというが、その味は計算されたように刺激や旨みのバランスがいい。島かぼちゃのスープに、島唐辛子でピリリとアクセントを加えたり、揚げた豆腐を、甘酒とニンニクの入った旨みたっぷりの醤油ダレで漬けたり。ありがちな味で終わらせないのが、さなえさんのお料理だ。

 

さなえさんのそのセンスの良さが、見た目の美しさや、食感の良さ、味の驚きを生む。そして美味しい、楽しいへと繋がっていく。さなえさんがこれほどまでに“食事を楽しんで欲しい”との思いを抱くのは、さなえさん自身、食べることを楽しめなかった経験があるからだ。

 

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シークワーサーカードと、豆乳クリームのタルト

 

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岸本ファームのハーブをふんだんに使ったハーブティー。レモングラス、クールミント、レモンバーム、ホーリーバジルなど

 

「病気をして、友人から『食事を見直してみたら』とアドバスをもらって、食事療法を始めたんです。痛みや苦しみから逃れたい、早くなんとかしたい、この現状から脱したいって、私、すごくストイックだったんです。野菜の切り方やらなんやら、ストイックに守って、『こうしないといけない、ああしないといけない』っていう気持ちになっちゃって。げっそり痩せて、ほんとにね、引きこもり状態。外にも出れなくなっちゃって、人との約束もできなかったんです。『こうすれば病気が治ったって書いてあるから、私もそうしなきゃ』って思っちゃってるから、周りの人の言うことも聞けなかったですね。偏った気持ちでやり過ぎてしまったら、食べることが楽しくなくなっちゃったんですよね」

 

本来食べることがすごく好きだったという。ストイックな自分に嫌気がさして、偏った気持ちに終止符を打った。

 

「『もういいや、自分の好きなようにやろう』って開き直ったんです。好きなように食事をし出したら、やっぱり楽しいんですね。無理のない範囲でやって、楽しく食事をしていたら、心とか色々なバランスが取れたんでしょうね、初めて体調がよくなったんです。医学的に言うと、免疫力があがったというか。心と体は繋がってるんだって、実感できました」

 

自分が食べたいものを、食べたい分だけ食べる。食事を楽しめるようになったさなえさんだが、食事を作ってお客に食べてもらう楽しさに出会うまでには、更に長い時間が必要だった。

 

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販売を予定している、さなえさんお手製ココナッツオイルのビーガンバター

 

「20年前にも飲食業をやっていたんですよ。忙しくて体を壊して、もう二度とやるまいって思っていたんです(笑)。両親が、地元の大阪で喫茶店を経営していて。ある日、母親が入院してしまって、私しか手伝える人がいなくて。その時、大好きなインテリア関係の仕事をしていたんですけど、会社を休職して、母が亡くなった後は、結局退職して手伝いました。その時は、飲食業を楽しめなかったですね、無理やり働かされているみたいな感覚で。東京へ転勤になった主人と別居になって、そういうこともあってか、だんだん私の体が弱ってきて。まず婦人科系が悪くなって、ギックリ腰はもう何回も。最後は立てなくなって、ほふく前進していました(笑)」

 

そんな状態を見かねて、お父様はようやくさなえさんを店から解放した。リハビリをして電車に乗れるようになった頃、ご主人の待つ東京へ。息子さんを出産し、震災をきっかけに沖縄へ移住。沖縄へ来てさなえさんの心を捉えたのは、沖縄の豊富で新鮮な島野菜だった。

 

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「市場が一番衝撃でしたね。おもしろーいって思って。新鮮なバジルがこんなに入って100円!とか。興奮して、あれもこれもって、どんだけ買うんだってくらいの量を買って、なんだかんだといっぱい料理して。3人家族なのに、どんだけの家族なんだ、みたいなね。苦いものは、ものすごく苦いし、形は面白いし、向こうでは高価な果物がこっちだと普通に手に入ったり。楽しかったですね」

 

市場に通い野菜料理を作っているうちに、島野菜がどのように育てられているのか知りたくなった。援農に参加し、田んぼで泥まみれになって田植えしたことで、「やっぱり土はいい、自分に合っている」と確信したそう。自然と興味は農業へ。農薬に使わずに果物を栽培する海音(かのん)の森や、同じく農薬を使わないハーブ農家の岸本ファームなどで、週に何度も畑仕事を手伝った。同時に、いただいた野菜でお菓子を作っては、昼食時に食べてもらったりしていたという。そのお菓子を喜んでもらったことがきっかけで、さなえさんはもう一度飲食業に就こうと決意する。

 

「岸本さんに『うちのバジルで何か作って』と言われて、スイートバジルとカカオのマフィンを作ったんですよ。『美味しい』って喜んでもらって、『これ、イベントで出すから』って、選んでもらって、すごく嬉しかったですね。自分の作ったものが、人の手に渡っていくってなかなかないじゃないですか。オレガノやローズマリーを使ったビスコッティや、島かぼちゃのマフィン、サクナとかフーチバーのケーキを焼いたりしましたね。そんな時に、研修生として採用するからどうかというお話があって、その時に農家になろうか、料理をする方にまわろうか、悩みました。農業を垣間見て、この仕事の厳しさがよくわかったし、自分にどれだけの力があるかっていうのも歴然としていました。農業は好きだけど、中途半端はいけないと思って、私は『料理を作るほうで頑張ります』ということにしたんです。本土にいた時は、自分で何かをするって思わなかったと思うんですよ。沖縄の土地のエネルギーってすごいですよね。沖縄に来てから『生きてる』って感じがしています(笑)」

 

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その後、東京へ通い、バターや卵を使わないスイーツ作りを本格的に学んだ。また名護にあるSanctuary void cafeで週に1度、ワンデイシェフとしてランチを出した。ああでもないこうでもないと毎週試作に励み、レパートリーを増やした7ヶ月を経て、“星のたね”をオープンさせたのが、2015年9月。

 

「内装はね、つぎはぎなんですよ。照明も最初なくて、お金が少しできたら1個増え、1個増えで。ほんとは窓際に席を作ろうと思ったんですけど、とにかく家具が買えなくて(笑)。とりあえず今は10席。おいおい席も増やしていこうと思っています」

 

決して無理をせず、できる範囲でやっていく。“からだにやさしくて、食べてしあわせを感じるごはん”を、何より自身が楽しい気持ちで作る。いつも「美味しくなりますように」と野菜たちに声をかけながら、キッチンに立つさなえさん。さなえさんは今、そんな自分を目一杯楽しんでいる。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

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星のたね
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098-930-3293
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