丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士・著 文藝春秋 ¥1,500(税別)/OMAR BOOKS
入り口はどこにあるのだろう?方向音痴の私はあらゆるところで迷う。ここだ!と思って入ると別の建物であったり、出口だったということもある。気付くとすでに中を歩いていて、知らずに入り口をくぐっていることもある。最近そのことについてよく考える。
あるときお店のお客さまが「小説も読みたいんですけど、どこから入っていいのか分からないんです」と言っていた。「何から読み始めたらいいですか?」もこれまで何度も聞かれた質問。その質問にはっきりと答えることはずいぶん難しい。
今回ご紹介するのは「文学全集」を新しく編纂するなら、というお題で文学者の丸谷才一さん、鹿島茂さん、三浦雅士さんらが語り合った文学談義をまとめた『文学全集を立ちあげる』です。
文学、と聞くとどうも敷居が高い、高尚なものというイメージを抱く方も多いかもしれない。でもこの本を読むと、この御三方が本当に楽しそうに好き勝手に(失礼)小説についておしゃべりしていて、そんなに面白いのなら試しに読んで見ようかなという気になってくる。語られるのは古今東西の名作から玄人向けのものまで幅広く、辛口な批評から個人的な愛着まで、独自の分類で文学全集なるものが編まれていく。これ一冊で文学史がひと通りおさらい出来てしまう内容。
読み終えてひとつ知ったのは作品の評価は時代の好みによっても変わってくること。これが絶対、だと思っていてもひっくり返るときもある。それだからこそ、いつのときも常に評価が変わらないものの価値も分かる。
それで最初の話に戻るのだけれど、何から読むか、ということにはこだわらなくていいのかもというのが、この本を読んで出た結論。読んでも全く理解出来ないものに一度出会ってしまうと、それでその世界から足が遠のくこともある。そういう意味で言えば、入り口って大切だなと思うけれど、まずは試しに手近にあるものから、少しの関心から、なんでも読んでみる。小説がそんなに長い歴史の変遷を得てこんなにあるのなら、どこから入ろうといつかはこれは!というものにぶつかるときが来るかもしれない。入り口が見当たらないなら、なんなら窓からだっていい。途中で止めたっていい。
文学は決して眉間に皺を寄せて読むものじゃない。確かなのは、世界は読むに値する、ことを文学は教えてくれる。世界への入り口がここにある。
OMAR BOOKS 川端明美
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