『 何を見ても何かを思いだす ヘミングウェイ未発表短編集 』

何を見ても何かを思いだす ヘミングウェイ未発表短編集
アーネスト・ヘミングウェイ著 高見浩・訳 新潮社 ¥1,700/OMAR BOOKS
 
― 父と息子にしか分からないもの ―
 
まだ梅雨の明けない6月も半ば。もうすぐ父の日です。
今回はそれに合わせて父と息子の関係を描いた短編小説をご紹介します。
 
誰でも名前を聞いたことのある文豪アーネスト・ヘミングウェイ。
「老人と海」や「日はまた昇る」などの作品が有名。
マッチョやハードボイルドな印象が強いのですが『何を見ても何かを思いだす』はそれらとは一線を画す作品です。
 
ヘミングウェイ自身の実人生と重なることの多いこの短編集。
というのも「パパヘミングウェイ」という言葉のある通り、彼(生涯に4人の妻を得た)には3人の息子がいて一生を通して彼らと交流を持ち続けたそう。この作品にそのことが大きく反映されている。
 
表題作の「何を見ても何かを思いだす」というタイトルが勝っている。
何に?と聞かれても困るけれど、このタイトルに魅かれて内容は全然知らなくとも面白いに違いないと手にしてみた。そして期待を裏切られることなく7編の短編を読み終えた。
  
父と息子が住み慣れた家を出、新しい場所へ向かう短編「汽車の旅」「ポーター」。
まだ夜の明けないうちに起きだして小屋の中のキッチンや森に囲まれた見慣れた風景を忘れずにいようと目に焼き付けようとする少年がいる。そしてそれを無言の内に見守る父親。乗りこんだ汽車の中では父親が息子に現実の厳しさを教えようとする。その方法がこれぞハードボイルド!といったヘミングウェイならではの方法。
  
「何を見ても何かを思いだす」では、冒頭から何か不穏な雰囲気が流れている。
何だろうこれ?と違和感を感じながら読んでいくと最後にその理由が明らかにされる。息子の本性を見抜いている父親のどうすることも出来ない悲しみと苦悩が読む人の心に響く。
  
この短編集の中では父と息子が多くの、意味深な会話を淡々と交わす。
感情を一切消したその乾いた感じとその奥に隠されたものに想像が膨らむ。
実際の父と息子はこういう会話をするんだろうか。
父と息子にしか分からないやりとりに思いを巡らしながら本を閉じた。
  
このワイルドな作家の、父親としての意外な一面を知ることの出来るこの本。
ヘミングウェイ初心者にもおすすめの一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美

 
*OMAR BOOKSでは「Oyaji展」を開催中
 
Oyaji展
 
眞榮田文子、高安イクミ、宜壽次美智による「おやじ」をテーマにしたグループ展。
立体、平面作品、グッズ販売。
sobelabo、フクロク亭によるおやじをテーマにしたお菓子の販売もあり。
 
期間:6月5日(火)〜6月17日(日・父の日)
場所:OMAR BOOKS
OPEN 14:00~20:00
http://www.facebook.com/events/390577954322061/



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