レーズン、アーモンド、シナモンシュガーが、溢れんばかりに挟みこまれたシナモンロールの生地。
惜しげもなく具材を詰め込めるのは手づくりパンならでは。
「教室で作るパンの贅沢さに慣れてしまって、舌も贅沢になってきてるさ。」
と、生徒たちは口をそろえる。
一次発酵までを終わらせた生地を取り出す。
生地を切って分量をはかり、手で丸めていく。
まずはシナモンロールの生地から。
乾燥はパンの大敵、生地は丸めたそばから布巾をかぶせ、すべて丸めたら容器に入れ、しばしベンチタイムをとる。
そうすることで再び炭酸ガスが発生し、成形しやすい生地になる。
先ほどよりも小さめに、レーズンバウンズとチーズバウンズの生地を丸め、これもベンチタイムへ。
「シナモンロールに使うシナモンシュガーは出来合いのものを買うよりも、シナモンと砂糖を使って自分で作った方が格安で安全だし美味しいですよ。」
シナモンロールの具材を準備。
「あら、ベンチタイムを少し長くとりすぎちゃったみたい。少し大きく膨らみすぎちゃったかな。では、早速のばしていきましょう。」
カスタードクリームを塗る。
「上2cmは塗らないでいてね。
成形するときにここがのりしろになるから。」
シナモンシュガーをふり、
レーズンをのせる。
「市販のものだとレーズンもクリームも少なくて悲しくなっちゃうけど、手づくりすれば好きなだけ入れられるから嬉しいよね。」
アーモンドを散らし、
手前から巻いていく。
最後はぎゅっぎゅっと生地をつけるように。
八等分する。
「あまり近くに置くとパンが膨らんだ時にひっついちゃうから、
ある程度離して置いてくださいね。」
できあがったものから順に二次発酵させていく。
リング状の成型も。
「出来上がりが華やかなので楽しみにしていてね。」
具材を多く入れすぎた人がいて、足りなくなってしまうというハプニングが。
「どんな失敗をするかわからないのが、初心者クラスの楽しいところだね〜(笑)」
と、生徒自らフォロー。
追加の具を運びながら先生も笑っている。
レーズンバウンズとチーズバウンズを成型する。
中央に具を載せ、折り畳むように成型しながら具を置き、ころんとした形に丸めれば出来上がり。
二次発酵が終わった生地に卵黄を塗る。
白い粒状のものは「あられ糖」
オーブンで焼いても溶けず、かりっとした食感が残る。
余っていたアーモンドものせ、
オーブンへ。
生徒が持ち帰る分も含めると、焼くパンの数は相当数にのぼる。
手際良く、次々と焼いていく。
「さあ、焼き上がりましたよ〜。感動の瞬間!」
「甘くて良い香り!」
「こんがりおいしそうに焼けてる〜!」
すぐに取り出し、次のパンを焼く。
焼き上がったばかりのパンからは白いゆげが立ち上っている。
リング状に成型したもの。
「パンの中から具が溢れてるみたい、贅沢〜。」
お楽しみメニュー「葛(くず)みかん」。
「葛を使ったデザート。寒天とはまた違った独特の食感ですごく美味しい。しかも簡単!是非おうちで作って欲しくて。」
葛のコシを失わないよう、鍋で加熱しながらゆっくりと練る。
オレンジソースにレモン汁を混ぜて酸味を加えればソースの完成。
「これを冷蔵庫で冷やした葛の上にかけて完成。
簡単でしょ?
これがびっくりするくらい美味しいのよ。」
「ドリュー(つや出しのために卵黄を塗ること)する時はできるだけ刷毛を寝かせてね。そうしないと生地がガス抜きされてしまうから。」
はさみで切り込みを入れ、レーズンバウンズにはあられ糖を、チーズバウンズには粉チーズをふる。
パンと一緒に楽しむサラダを作る。
先生の自宅一階部分が教室になっているのだが、その素敵なインテリアは生徒達の羨望の的。
宮城先生はパン教室を始めるずっと以前からパッチワーク教室を開いている。
教室外の庭をのぞむベストポジションに陣取る、大きなテーブルをセッティング。
お待ちかねの試食タイム。
– – – 流れで始まったパン教室
22年教えているパッチワークの教室で、たまたまおやつとしてパンを出していたんです。
当時は私がパン教室に通っていて、練習の意味も兼ねてふるまっていたんですが「パン作りも教えて欲しい」という生徒さんがいらっしゃって。
その流れでオーブンも買っちゃって、パン教室を開いちゃったっていう感じです。
ジャパンホームベーキングスクール認定のスクールで学び、試験を受けて資格を取得し、今に至ります。
昔からもの作りが好きでした。細かい作業も苦にならないし、お洋服は学生の頃から作っていました。
パン作りは、パンが好きで始めたというより、家族に焼きたてのパンを食べさせてあげたいという想いから。だって焼きたてのパンの香りってすごく幸せになりませんか?
それに、家族や親しい友人たちにふるまうと皆「おいしい!」と喜んでくれるからそれがまた嬉しくて。
生徒さんたちは当初はパッチワークの生徒さんばかりでしたが、そのお友達を紹介してくれたり、またそのお友達が・・・という風に、自然と集まってきて下さいました。
– – – 家族に食べさせたいから、使う素材にはこだわって
家族に食べさせたいという想いが前提にあるので、使う材料は自分なりにこだわって、無農薬や無添加のもの、調味料も天然のものを使うようにしています。
生徒さんが自分の家族に食べさせたいと思えるものを使って欲しいですから。
もちろん、生徒さんにも是非おうちでパンを手づくりしてほしいなと思っていますが、みなさんここで食べて終わっちゃうことが多いみたい(笑)
パンは買えば安いものだからなかなか手づくりする人は少ないけれど、例えば夕飯作りながら発酵させたりできるので、意外と取り組みやすいんですよ。
料理は毎日しますよね、義務のような感じで。一方パンは買って食べても良いし、別に買わなくてもいいおやつ的なもの。
だけど、あのパンを焼くときの香ばしい匂いは何物にも代えがたいんですよ。まさに幸せの香り。一度焼いたらきっとやみつきになるんじゃないかな。
自身のブログには教室の名前すら載せず、募集広告を出したこともない。
いつも一歩後ろに下がっているような控えめな先生の人柄を愛しながら、見かねた生徒たちが先生をバックアップしている。
「陽子先生は『エスカル・クッキングスタジオ』で講師を務めるほどの実力の持ち主。でも本人があまりアピールしたがらないひとで・・・こうして私たち生徒が一生懸命売りこんでるんですよ。最近、『応援する会』も立ち上げました(笑)」
先生を賞賛する声があがると、穏やかに微笑みながら首を横に振って「そんなことないよ」「みなさん褒め上手だから」と、ただただ謙遜する陽子先生。
確かに「自分が自分が」というタイプではないようだ。
取材の日に教室に忘れ物をしてしまった私は、後日、教室を再訪した。
ちょうどパッチワーク教室のレッスン中で、先生お手製のスコーンと紅茶を楽しみながら、20年以上通っているという人も含めて5名ほどの生徒たちが作品作りに取り組んでいた。
「中井さんも入って、どうぞ召し上がっていってください。」
香ばしいスコーンの香りに誘われて、勧められるがままに教室に入り、しばしスコーンをお供に生徒さん達とゆんたく。
すっかりお腹いっぱいになり、おいとましようとすると
「これ、お土産です。よかったらどうぞ。」
外国のパン屋さんでもらうような可愛くて大きな包みの中には、スコーンがどっさり。
それは、どうやら私が来る前からきちんと包装され、
準備されていたもののようだった。
生徒たちが先生のために一生懸命になる気持ちが、
その時に本当に理解できた気がした。
だって、こんなに温かい気持ちで人に接することができる人って、実はそうそういない。
「私、実はパンには興味がなくて(笑)。先生の人柄が大好きだから通い始めたようなものなんですよ。」
という生徒の言葉を思い出し、さもありなんとその時腹に落ちた。
パンの技術うんぬんの前に、みな先生に惚れ込んでいるのだ。
生徒たちはレッスンが終わると1〜2個のパンを試食し、さらにお土産としてたくさんのパンを持ち帰ることになる。
焼くパンの数が相当数にのぼるので材料費もそれだけかかるはずだが、値段を聞いて耳を疑った。
「1回のレッスン料は2,100円です。」
あまりの安さに驚いて、それでちゃんと黒字になるんですか?と訊くと「実はよくわかっていないんですけれど」と笑っていて、なんだかまるで生徒たちのお母さんのようだなと思った。
陽子先生よりも年上の生徒だっているのだが、その優しい眼差し、見返りを求めない姿勢が母性を思わせて。
いつも控えめなお母さんの為に子ども達が張り切っている。
そんな「家庭」のような雰囲気の料理教室の扉はいつも開かれ、新たなメンバーを歓迎している。
写真・文 中井 雅代
BROWN BREAD(ブラウン ブレッド)
那覇市首里当蔵町2-35(首里城近く)駐車場あり
TEL:098-885-9388
レッスン日:水、木 10時〜13時頃まで
(レッスン終了後、焼き立てパンとティータイムがあります。)
月謝:初級クラス 2,100円/月1回 × 6ヶ月
(材料費、お持ちかえりパン分含む)
*レッスンの体験もできます。(2,100円~)
随時受付ですので、詳しくはお問合わせください
*吟味された材料で家庭でもおいしいパンが焼けます。
気軽に始めて楽しめる初級クラスから資格取得を目指す上級クラスまで、
自分にあったペースでスタートできます。
パンを作ったことがまったくない初心者の方にも安心な少人数制です。
ブログ:http://tokidokibb.ti-da.net
mail:brown@nirai.ne.jp