『 ムーミン谷の冬 』かわいいだけじゃない、示唆に富んだ言葉が詰まったムーミンの世界。大人になって読むとさらに沁みる。

 
ヤンソン・著  講談社文庫  ¥390/OMAR BOOKS
 
― 銀のおぼんの使い方 ―
  
本格的な冬を前に、ひと足早くその気分を味わおうと手に取ったのが、
ムーミントロールを主人公にしたヤンソン作・『ムーミン谷の冬』。
ムーミンといえば、あまりに有名なキャラクターゆえ「ムーミン」は知っていても、
ちゃんとお話を読んだことのある人は意外と少ないんじゃないだろうか。
私もつい最近までそんな一人だったのですが。
 
「たのしいムーミン一家」を始めとしたシリーズの5作目にあたるこの本は、
真っ白な雪に覆われた冬のムーミン谷で家族全員が冬眠する中、
一人だけ目覚めてしまったムーミントロールが
初めて知る冬の世界でいろんな冒険をする、というストーリー。 
 
確か以前にも読んだはずの本作。
読み返してみてこんなに深い内容だったんだ!と驚きがあった。
この物語が生まれてから30年以上経つのに、
お店にムーミン関連本を置くとすぐに出てしまうほどの根強い人気なのもうなづける。
 
周りの誰もが眠っていて目を覚ましているのが自分一人だけだったら?
もうその設定がわくわくする。
いつものムーミン谷と違いほの暗い世界を、
帽子をかぶったおしゃまさんや小さくて生意気なミイと
降り積もった雪をかき分け上がら歩きまわり始めたムーミントロールは、
初めて知る冬に少しずつ魅力を感じていく。
このおしゃまさんが言うセリフがいちいちまたいいのです。
 
「ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。
まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれども」
 

 
「あんたたちはいったい。あんまりいろんなものをもちすぎてるのよ。
思い出の中のものや、ゆめで見るものまでさ」
 
など。
 
他にも示唆に富んだ詩的な言葉がたっぷり詰まっている。
 
またこの本、「人間関係」について書かれた本だとも読める。
さまざな人がいること。
そしてみんないいところと悪いところがあるということ。
ムーミントロールを通してヤンソンさんが伝えたかったことのひとつだろう。
 
そしてもう一つ。
ムーミンママが目覚めて、大切にしていた「銀のおぼん」が寝ている間に雪を滑るそりに使われたのを知って言うセリフ。
 
「世の中って、ほんとにおもしろいものね。
銀のおぼんのつかいかたは、一つきりだと、一生みんなが思ってきたんだわ。
それなのに、ぜんぜんべつの、ずっといい使い方があったのね。」
 
大人になった今、この本を読むとより心に沁みる。
さし絵もふんだんに入ってページをめくるのも楽しいこの本。
のほほんとしただけのお話ではない、
現実世界で忙しくしている大人にぜひ読んでほしい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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