『 バベットの晩餐会 』人生にはこういう奇跡のような一夜があるから素晴らしい。


イサク・ディーネセン 著  筑摩書房 ¥680(税別)/OMAR BOOKS
 
―デンマーク作家の一風変わった温かな物語 ―
 
テレビのニュースは連日、
今年は例年にも増して雪の被害が多いことを伝えている。
とはいえもうすぐ冬も終わり。
その締め括りとして雪景色が美しい北欧の物語をご紹介します。
 
今回取り上げるのは、ノルウェーのフィヨルド(複雑に入りくんだ湾。授業で習いましたね)の山麓の小さな町を舞台にした、一風変わった雰囲気の物語『バベットの晩餐会』。
だいぶ前に映画化もされて名作として今でも人気があるけれど、
個人的にはこちらの本の方をお薦めしたい。
 
ストーリーは質素で慎ましい暮らしをしている牧師一家と、
彼らを慕う平凡な毎日を送る老人たちの前に
ある一人の女性が現れたことから少しずつ変化が訪れる、というもの。
 
牧師一家と暮らすようになったその女性、バベットは元パリの料理人で
次第に周りの人々や町に馴染んでいく。
その彼女が宝くじを当て、
寡黙だった彼女が宝くじの使い道として初めて願い事をする。
その願い事とは・・・。
 
真面目な語り口なのにおかしみがそこはかとなく漂う。
こういうのを「味」っていうんだろう。
 
それにしても晩餐会と聞いてフランス料理の話だと思っていたら(実際海亀のスープやなんとかデミドフ風などが出てくる)、いい意味で期待を裏切られる。
 
美女の面影を残す中年の姉妹(全然関係ないのに今話題の由紀さおり姉妹の姿がかぶって困った)や若い頃内気だった将軍、自信家の音楽家など、バベット以外の登場人物たちがまた魅力的。
 
設定も物語の初めから30年後に至るまでが描かれていて
100ページ足らずの中に、ただのおとぎ話だと言い切れない深さを湛えたこの本。
 
その内容は、
 
運命的な出会い、
叶わなかった淡い恋、
人生で何かを選ぶということ、
芸術とは?
 
など、ひとつひとつ考え込んでしまうようなセリフや描写が
きれいな点画のように散りばめられていた。
  
物語の終わり、バベットの料理の魔法にかかったかのように、
今までいがみ合っていた老人たちは和解し、
ワインに頬を上気させ幸せな気持ちを抱いたまま晩餐会はお開きになる。
 
パーティの後の静けさ。
雪が一面に広がる星空の下、黄色い小さな家の前に立って人々を見送る姉妹。
 
読んでいる間中ずっと幸福な気分に満たされていた。
人生にはこういう奇跡のような一夜があるから素晴らしい。
ただそれだけではこの物語は終わらない。
力を使い果たし放心したバベットが心の内を打ち明ける。
その言葉は読み終わった後も重石のように残った。
 
デンマーク作家のちょっと変わった温かな物語、
冬が終わる前にぜひご一読を。
 

 

OMAR BOOKS 川端明美




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