ヒュー・ロフティング著 福岡伸一・訳 新潮社 ¥1,600(税別)/OMAR BOOKS
先日、小さな家族旅行をした。歩き疲れてホテルの部屋に辿り着き、ホッと一息ついて寛いでいると遠慮がちなノックの音がした。さっそく来たな、と扉を開けると予告通り、小学生の姪がぶかぶかのバスローブを着て立っていた。隣の部屋は狭いから、そっちの部屋にいっていい?と前々から言われていたので、いらっしゃい、と部屋に招き入れた。普段は家族内でムードメーカーとして賑やかな彼女は思いの外静かで、女ともだちのように夜景のきれいな窓際のベッドを譲り合って、夜遅くまでおしゃべりして眠りについた。
今回ご紹介する『ドリトル先生航海記』を訳した福岡伸一さんのあとがきを読んでいて、その夜を思い出した。訳者あとがきではドリトル先生の魅力について、「公平さ(フェアネス)」を上げていた。語り手のトミー・スタビンズ少年が初めてドリトル先生に出会う場面。立派な大人であるはずの紳士に冷たくあしらわれて悲しい気持ちでいるところに、同じ大人である
ドリトル先生は全く逆の態度で彼に接したことにとても感動する。
そうだよなあ、と自身の子どもの頃を思い出す。大人と対等に扱われたようなとき、照れくささを感じながらも確かに嬉しかった。そして数十年たった今、ドリトル先生のような大人に成れただろうか。
『ドリトル先生航海記』は「ドリトル先生シリーズ」の中では二作目にあたるが、この航海記で助手となったスタビンズ少年が語り手に据えられ、さらに物語の魅力を増している。動物の言葉を話せるドリトル先生と旅立った先で起こる冒険の数々。
訳者によると原著の初版に忠実に訳したということで、先に井伏鱒二の訳で読んだことがあるという人も比べて読むのもいい。福岡版は読みやすさを心がけたというのもあって、読み始めると違和感なくあっという間に物語に入っていける。原著に近い装幀(表紙カバーも外してみてほしい)も魅力。
著者ヒュー・ロフティングによるイラストに大人になった今でもくすぐられる。
「旅にたくさんの荷物などほんとうは必要ない。そんなものはかえって邪魔になるだけだよ。人の一生は短い。荷物なんかにわずらわされているひまなどない。」とはドリトル先生の言葉。
なかなか含蓄に富んだ内容で大人でも充分読み応えある。いや大人にこそ読んでほしい、夏の課題図書にぴったりな一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
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