佐野洋子・著 小学館 ¥1,575
遠くばかり、あるいは近くばかりを見ていると遠近の感覚が変になるように、仕事のこと、家庭のこと、プライベートのこと何かひとつにどっぷりとはまってしまうと、どこかずれてしまっている自分に気付く。
そんなときは軌道修正とばかり他人のエッセイを読みたくなる。それも日々の生活を綴った、くだらなければくだらないほどいい。
フィクションなのか本当のことなのかは佐野さんのエッセイの場合、もうそんなことはどうでも良いのです。それより次、また次と繰り出される毒がピリッと効いた人間模様。誰もが持っているかっこ悪かったり、ずるかったり、弱いかと思えば強かったりする部分。そこをピンポイントでつついてくるその絶妙な語り口に中毒になる人は多い。
今回ご紹介する本も例にもれず、ふっと笑いがもれたり、ちょっとぞっとしたり、うんうんと共感したり、しんみりさせられたり、と堪能させて頂いた。
「100万回生きたねこ」の作者として彼女の絵本しか知らない人はきっと驚くはず。いやあの絵本の作者らしいと、納得するかもしれない。
目をそらさない人、なんだろう。人は複雑な「いきもの」でそんなにきれいなものじゃない。家族、生活、年をとること。誰もが直面する日々の出来事。その中にはときに見たくないこと、認めたくないことだってある。
でも彼女はそんなときこそ、目をそらさずにじっとその対象を見つめる。「私、もっと変な人を見ていたい」と。
そしてその彼女の視点の独特さ、鋭さで、人の生々しい、どろどろした部分もカラッと明るいものに変えてしまう。その手際の良さ!
佐野さんがエッセイで人を描くベースには、滑稽で情けないからこそその存在が愛おしいという想いがあって、読者にはっきりとそれが伝わるからこそ、オブラートに包まずあけすけに語られても嫌味がない。逆にそれが魅力にもなる。一つ一つのエピソードを読むと、人ってそんなものだよね、と元気をもらう。
本人によるイラストレーションが挟まれた33篇の物語エッセー。惜しくも2010年に亡くなられ、その彼女の最後の一年を追ったドキュメンタリー映画も作られた。彼女の人となりを知って後読む「100万回生きたねこ」はまた違った風に楽しめるかも。
同著『役に立たない日々』、『シズコさん』も合わせておすすめです。
OMAR BOOKS 川端明美
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