アーネスト・ヘミングェイ著 柴田元幸・訳 ヴィレッジブックス ¥1050
「鍛金」という言葉があるそうだ。私もつい最近知ったのですが。
金属工芸の専門用語で金属の素材をたたいて形を作ることを言う。
そうすると金属の密が高くなり、硬く、軽く、そして時の経過に強くなるそうだ。
ヘミングウェイの文章を読むと、その「鍛金」の結果、生まれたような印象を受ける。
慎重に選ばれた言葉をたたいて、のばして彼が理想とする最もいい形で整えたもの。
余計なものは一切加えず、極限までそぎ落とされた文章というようなことを訳者も
言っている。
彼の代表作にあげられる長編『日はまた昇る』『武器よさらば』などで、挫折したことのある人にはぜひ短編を読むことをおすすめしたい。
紹介する本作「in our times」は短編の中でも超短編ともいえるような、ごく短い作品が集められている。
主な舞台はヨーロッパ。彼の作品にはスペインの闘牛がモチーフとしてよく出てくる。
どのエピソードも1ページから2ページの枠に収まる量。
脈絡がないようで、なんだか分からないまま読んでいるうちに癖になってしまう。
ひとつひとつの場面の鮮やかさが強烈に残る。
カメラのフラッシュをまともに浴びたときに残る残像のようだ。
純度の高い言葉の列は、いくつもの「状況」のコレクションのようでもある。
集中して読めば一時間もかからない。きっと読み通して伝わってくるものがきっとあるはず。
結末はどれも宙に放り出され、読む人に委ねられる。その自由さが心地よい。
本書はまた装丁も粋な佇まい。
最初のページを開くと落ち着いた風合いの表紙とは打って変わって鮮やかな赤。
表紙カバーを外してもマル。
文字の組み方まで洗練されていて、大人のための良書といってもいい。
訳者の解説を読むと、タイトルの「in our times」が小文字であるのにも意味が込められている。
また金工の話に戻るけれど、金属は時間が経つとどうしても酸化して色が変わってくる。
その鈍い色合いもまた捨てがたい魅力がある。
時代の荒波をくぐり抜けてきたヘミングウェイの普遍的な作品群。
これらの言葉たちも、同じような輝きを今でも放っている。
OMAR BOOKS 川端明美
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『たくら虫の えdeほん展 Vol.1』@OMAR BOOKS
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