『 ブルックリン・フォリーズ 』ブルックリンの街で繰り広げられる、 無名の人々の肯定の物語

ブルックリン
(新潮文庫) ポール・オースター・著 柴田元幸・訳 新潮社 ¥2,415/OMAR BOOKS
 
最近耳にして、心に残っているウディ・アレンの言葉。
 
“ 90% of life is just being there. ”
 
人生の大半はただそこにいること。そこにいるだけでいい。
深い肯定の言葉。
 
そして今回紹介する『ブルックリン・フォリーズ』はもうすぐそこからいなくなる人のお話。
 
物語の舞台はブルックリン。余命あとわずかを宣告された中年男性が、静かに人生を振り返ろうと幼い頃過ごした街に戻ってくるところから始まる。
 
「フォリーズ」とは主人公ネイサンが、自分がこれまで生きてきた中で起こした愚行の数々を書き綴ることにした書のこと。
思い出して赤面するような恥ずかしいこと、人を傷つけ、傷つけられたこと、馬鹿馬鹿しくて笑えること。残された日々をせめて面白おかしく生きようと、甥のトムを巻き込んで話は意外な展開に転がっていく。
 
オースターの待ちわびた長編小説。
代表作『ムーンパレス』を彷彿とさせるストーリー展開に、同じく魅力的な登場人物たち。相も変わらず、世間でいったらどうしようもない、滑稽で情けない無名の人々。でもだからこそ愛おしいと、読めば読むほど著者の愛情が伝わってくる。
 
家族との不和、愛情のもつれ、善良な人に訪れる不幸、最愛の人との別れ、など章ごとに「LIFE」に訪れる様々な出来事。誰しも経験したことのあるような、生きていると避けては通れない局面がオースターならではのユーモアを交えて描かれる。
 
ブルックリン、という街で新しい生活を始め、その街で暮らす人たちと絆が結ばれていく中で、未来に絶望していたネイサンに次第に変化が訪れる。
 
そして長い物語の最後の章。
ああ、このことを伝えたくて著者はこの小説を書いたんだ、と強く胸を打たれた。ペンで出来ることはこういうことなんだと深く感動した。作家の自己表明が最後の最後に示される。
 
もしこの本を読み始めたら、どうしても最後まで読んでほしい。
人生のエッセンスがぎゅっと詰まった、あらゆる人に読んでもらいたい極上の小説です。

OMAR BOOKS 川端明美




OMAR BOOKS(オマーブックス)
北中城村島袋309 1F tel.098-933-2585
open:14:00~20:00/close:月
駐車場有り
blog:http://omar.exblog.jp