『 シェルシーカーズ 』一枚の絵をめぐり世代を超えて家族とは?と問いかける、 ピルチャーの長編代表作。


上・下 ロザムンド・ピルチャー・著 中村妙子・訳 朔北社 各¥1,500(税別)/OMAR BOOKS

 

同じものを食べ、同じ屋根の下で眠り、巡る季節の暑さ、寒さを感じながら一緒に暮らす家族のことをどのくらい知っているのだろう?
「他人より近くて遠い」と言われもする小さな集まり。世代を超えて今様々な場所で「家族」というものを再定義が成されているように思う。

 

同性婚が法的に認められるようになり、男性が育児に参加することが自然になり、昔ながらの家父長制を良しとする流れがあり、また全くの赤の他人同士が集まってホームを作る、など新しい家族のあり方も模索される時代。どこに属したらいいのだろう?と悩む人も多いかもしれない。
家族って何だろう?と考えるようになり、本を選ぶときもその関心のもとに手にとるようになり、最近では好きな小説も自然にその角度から読むようになった。

 

ロザムンド・ピルチャーの長編代表作『シェルシーカーズ』は主人公ペネラピの一生を通して、第二次大戦の戦前・戦中・戦後の時代を背景に、イギリスのロンドン、コーンワルでの家族の歴史が語られる。世界中で翻訳されてベストセラーとなった作品の新装版であるこの本のタイトルはペネラピの父ロレンス・スターンが描いた絵「シェルシーカーズ(貝を探す子どもたち)」からきており、波が立ち、風の強い明るい浜辺で、3人の子どもたちが一心に貝を探す場面を描いたこの絵が、作中に何度も登場する。

 

章ごとに語り手が変わって上・下ある長い話だが、著者の平易な文章が一気に読ませてくれる。国や文化的背景が異なるとしても、親が子を思い、子が親を思う気持ちは普遍、というきわめてまっとうなことを、著者は家族の象徴のような絵「シェルシーカーズ」に託し、家族とは?豊かさとは?と読者にも問いかける。

 

たとえ全てを知らなくとも、ある場所に居続けたとしたら、そこがもう本当の居場所だといえるのか、そばにいることを止めずにいてくれた存在は家族と呼べるのではないか。悩み迷いながら寄り添う時間の積み重ねが互いのよすがとなっていく。問いの正解は一つではない、ということが読む者の胸の内に残った。そして物語の最後に著者は、「人生は思い通りにはいかない、むしろ思いがけない方向へと私たちを連れて行く」と伝えてくれているようだ。

 

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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