『 The Fir Tree モミの木 』ないものねだりの大人たちにも読んでほしい、小さなモミの木のお話。


ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 サンナ・アンヌッカ絵 アノニマ・スタジオ ¥2,200(税別) /OMAR BOOKS 

 

今年のクリスマスももうすぐ。去年しまい込んだツリーをまた引っ張り出して飾り付けを楽しんでいる人も多いのでは?また大切な人へ贈るクリスマスプレゼント選びに頭を悩ませている人も多いのでは、ということで今回は贈りものにふさわしい絵本を。

 

「マッチ売りの少女」「裸の王様」「人魚姫」など、一度聞いたら忘れられない童話を数多く残したオランダの童話作家・アンデルセン。彼の作品の中で、12月のこの季節に読みたいお話が『モミの木』。マリメッコのテキスタイルデザイナーとして、イギリスのブライトンを拠点に活躍するサンナ・アンヌッカさんによる絵と一緒になった、アノニマスタジオさんから出ているこの『モミの木』は美しい絵本でとても目を惹く。

 

世界中で長く愛されるアンデルセンが小さいモミの木を主人公に作ったのはこんなお話。
森に暮らすまだ小さいモミの木は、早く大きくなって別の世界に行きたいと遠い場所へ憧れを募らせている。そんなモミの木には「今を生きなさい!(Enjoy your youth! )」と諭すお日さまの声も届かない。
渡り鳥たちから見知らぬ世界の話を聞いては、ここではないどこかにもっと素晴らしいことがあるんじゃないかと想わずにいられない。やがて願いが叶うかのように、森から切り出されたモミの木はある家のクリスマスツリーとして美しく飾り付けられるが……。

 

読んでいると「ないものねだり」という言葉が浮かんできた。ちょっと調べてみると、無いものを無理に欲しがるということ、とある。そう、このモミの木は貴重な若い日々からずっと人生を通して、ないものねだりをして大切な時間を過ごしてしまう。森の中の恵まれた環境には見向きもせず、また周りの動物や風や太陽に守られていることに気付かず、まだ見ぬ、あるかも分からないもっと素晴らしい世界に心を奪われたまま森を出ることになった彼のその後はとても切ない。

 

現代の大人にも通じるぴりっと風刺のきいたアンデルセンの童話を、ページをめくるとどれも見入ってしまうような挿画とともに楽しんでほしい一冊(ポストカード付き)。贈りものにもぜひ。

 



OMAR BOOKS 川端明美




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