『 私のなかの彼女 』人と関わることは「私」を知ること。もがきながら今を生きる女性の物語。


角田光代・著 新潮社 ¥1,575/OMAR BOOKS

 

今年もあと残り僅か。これから来る長い連休に読み応えのある小説を、ということで今回ご紹介するのは、角田光代さんの最新長編小説『私のなかの彼女』です。

 

物語の主人公は、大学生の頃から付き合っていていつも前を行く仙太郎に憧れながらも、やりたいことが見つからないまま就職し、祖母のルーツに興味を持ったことから書いた小説で作家デビューした和香。

 

和香と仙太郎の関係は、和香がようやく見つけた「書くこと」にのめり込むにつれ溝が出来、10年以上にわたる関係はいつしか修復できないほどにねじれていく。

 

読みどころはたくさんありすぎて、読む人によってきっと捉え方は千差万別だろう。こういう人間だ、と思っていた自分の中に、恋人と関わる中で、また「書く」ことで、もう一人の人間を見出していく主人公。

 

母親との価値観の違い、恋人からの干渉や妬み、祖母のルーツ、「書くこと」の魅力などを通して女性のもがく姿が描かれる。

 

この本は、男女・世代を問わず自分を重ね合わせて読める一人の女性の物語だ。人と関わる、ということは自分では思いもしないところへ連れていかれること。何かを誰かのせいにするのはとても簡単なことだ。

 

和香はもがき苦しむ中で、同じようにもがきながら生きたであろう祖母の心の中を想像し、そしてある結論に行き着く。

 

それはぜひこの小説を読んで知ってほしい。

 

来月発表となる芥川賞・直木賞。今ちょうど候補者が決まり話題となっている。賞をとるとはどういうことか、その舞台裏や、様々な作家たちの本音とも言えるような会話も織り込まれていて、角田さんご自身の経験も反映されているようでそれもまた面白い。

 

主人公の和香は最後の方で言う。

 

「人とかかわることが恐ろしいのに、他者の姿を追いかけたい。
それはきっと同時に『私』を知ることでもあるから」

 

確かな筆力で描かれる今を生きる女性の姿。
ぜひいろんな人に読んでもらいたい一冊です。

 

OMAR BOOKS 川端明美




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