『 映画を撮りながら考えたこと 』映画監督の思考の記録。これからの作り手を目指す人の必読書。


是枝裕和・著 ミシマ社 ¥2,400(税別)/OMAR BOOKS

 

料理するのが好きなひとと食べるのが好きなひと、あるいはどちらも好きなひと。前者が好きだというひとは、材料を揃えて用意し、作る過程が楽しくて料理するのだろう。またその材料をどうしたら生かせるか、そして出来上がった一皿で誰かを喜ばせたい、という試行錯誤が好きだというのもあるだろう。

 

役者という素材の良さを最大限に引き出して一つの作品を生み出す料理人のようだ、と自身について語るのは、優れたテレビドキュメンタリーや代表作『ワンダフルライフ』『誰も知らない』『海街ダイアリー』、そして最新作『海よりもまだ深く』が公開中の映画監督・是枝裕和さん。

 

今回ご紹介するのは、ミシマ社から出たばかりの『映画を撮りながら考えたこと』。是枝さんがテレビの世界に入り、映画へ、映像作家へと道を歩んでいく過程が、全作品にふれながら率直に語られる。
8年かけて綴られた、血気盛んな若手のディレクター時代から成熟した映画監督になるまでの軌跡。その中には濃密な時間が詰まっていて、個人の記録であると同時に映画やテレビの長い歴史を俯瞰する書でもある。

 

是枝映画の即興性にいつも見る度にどきどきさせられる一観客として、その作品群が生まれる秘密を垣間見れたようで読み物として面白い。
大の大人たちが汗をかいてお金や時間や労力を費やして作る光景が浮かんでくる。予測していたことが覆されたとき、想定の枠外のことが起きたとき、他の人なら頭を抱えてしまいそうな場面でも、著者は逆に
そこに「生(なま)」の一瞬を見出し、タイミングを捕らえ逃さない。
著者の映画に現在(今)が映っているような気がするのも(映画になっている時点ですでに過去なのだが)それだからだろう。

 

対象にまっすぐだからこそ、それに付随する面倒なことを厭わない姿勢には学ぶことが多く、作品ごとの課題設定の仕方、長く続けていくための考え方など、これからの作り手を目指す人の必読書でもあり、また映画だけでなく「仕事」について考えるヒントがたくさん詰まったヴォリュームある一冊。おすすめです。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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