『 夜のミッキーマウス 』深くなっていく孤独も悪くないと思わせ、何気ない一瞬も愛おしくなる、生きた言葉の詰まった一冊。

 
谷川俊太郎・著  新潮社 ¥324(税別)/OMAR BOOKS
 
―自分の中の空気を入れかえる ―
  
三月に入りました。そろそろ次の季節に移り変わろうとしています。
 
春の気配をどこに感じるかは人それぞれ。
肌を刺すようだった風が柔らかくなったのを感じたり、
茶色い風景に緑色の面積が増えていたり、
日が落ちるのが少しずつ遅くなっているのに気付いたり。
春の訪れを「詩人ならどう感じるのだろう?」ふとそう思って手にしたのが『夜のミッキーマウス』谷川俊太郎・著。
 
日本で一番有名な詩人(「朝のリレー」や「20億光年の孤独」は知っている人も多いはず)だといってもいい著者の大人のための詩集。
 
いろいろ本を紹介してきたけれど、
何が難しいって詩集あるいは詩についての本を紹介するのが一番難しい。
それでもあえて選んでみたのはタイトルが魅力的だったので。
 
―夜のミッキーマウスは
昼間より難解だ
むしろおずおずとトーストをかじり
地下の水路を散策する
 
というので始まる表題作の「夜のミッキーマウス」。
それに続く「朝のドナルドダック」、「詩に吠えかかるプルートー」と耳をくすぐるタイトルが並ぶ。
またちょっと声に出しては言えないタイトルの大人な遊びごころ(といっていいかな)も入っているかと思えば、同作品収録の「広い野原」や「あのひとが来て」は切なさや孤独といった普遍的で何か大きなものが見え隠れする。
 
詩人は一見汚いと受け取られるものの中にも美しいものを見つけ出すのが得意だ。
詩を読むと、今まで何気なく見ていた目の前のコーヒーカップ一つとっても見え方が変わるから面白い。
そんな詩人のような新鮮な目で毎日を送れたらいいのに、と羨ましく思ったりして。だからたまに詩集を開いてお気に入りの詩を見つけては自分の中の空気を入れ替える。
 
詩なんて高尚な・・・、とかまえる必要はなくてそういう楽しみ方でもいいのではないかな。
しりあがり寿による飄々とした解説もまたおすすめ。
 
最後のページの、この文庫の為の書き下ろしの詩「闇の豊かさ」もぜひ読んでみて下さい。今の、この何気ない一瞬一瞬が愛おしく感じるはず。
 
大人になればなるほど深くなっていく孤独。
それはもうどうしようもない。
でもそれもまた悪くないなあと思わせてくれる、生きた言葉の詰まった一冊。

OMAR BOOKS 川端明美




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