大野八生 絵・文 アートン ¥1,575/OMAR BOOKS
― 美しい花が咲くには ―
いつもより遅く店を閉め車で帰宅すると、
近所の住宅の明かりはまばらでしんと静まりかえっている。
庭の方へ回り込むと外灯の消えた暗闇の中、
静かに植物たちが息づいているのが分かる。
周囲は甘く、瑞々しい空気で満たされていて、
家の中に入る前に大きく一つ深呼吸するのが私の密やかな楽しみ。
そうすると美味しいものを食べたときのように、
何かいいものが身体に巡るのを感じるから。
人が植物から受ける影響は意識はせずともけっこう大きい。
そんなことを考えていたときにちょうど出会ったのがこの本。
フリーで園芸や庭の仕事と同時に、
書籍の表紙などの絵の仕事を手掛ける著者による植物にまつわるエッセイ集。
ガーデニング雑誌『BISES』に連載されていたのを単行本化したものです。
見開き片側に絵、もう片側に文章が添えられ、見て読んで楽しい一冊。
人間よりもその足元にある植物を中心に描かれたこれらは、
雑草と呼ばれるものから園芸店に並ぶ苗木まで身近なものがほとんど。
水彩画のような優しい色合い。描かれる花や木や人もどこか軽やか。
写実的ではないのにその植物本来の持つ魅力と著者の愛情が伝わってくる。
植物に触れる、というのは心の機微に触れることに似ているようだと思うのは私の思い込みだろうか。
育てる、慈しむということには優しさと厳しさが必要。
幼い頃から植物に親しみ、学生の頃は彫刻を学んだあと
長年花屋や園芸店、個人の庭の手入れなどの仕事をしてきた著者。
彼女もまた植物たちに育てられてきたのだろう。
彼女にとっては絵を描くことも植物と関わることもどちらも不可欠。
彼女の優しいまなざしはいつも
花屋の店先から街中の木々、道端や塀の隙間にまで注がれている。
思い出や日常の中に登場するのは
ヒヤシンス、スミレ、クリスマスローズ、ミツマタ、アーモンドの木。
そしていくつかのバラのエピソード。
―春に咲く花は、冬の寒さに遭わないと美しい花は見ることができないものがほとんどです。(「スイセン」の章より)
とは帯に書かれた言葉。
人にも例えられる素敵な言葉。
ちょうどこの時期、私たちが目にしている花々は、
この冬の厳しさを乗り越えてきたんだと思うといつもの水やりも変わりそう。
花はただ咲いているだけじゃない、とさりげなく大事なことを気付かせてくれる一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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