「ありがちは嫌なんですよね。同じようなものを作っても同じ提案にしかならないでしょ。今までとちょっと違ったことをするのが面白いと思っていて」
沖縄が誇る伝統工芸、紅型を、なんと蝶ネクタイに仕立ててしまったのは、HABERU代表の金江幸一さんだ。
蝶ネクタイは、確かにこれまでの紅型雑貨とは違っているし、インパクトも十分だ。でも蝶ネクタイってわりとコアなアイテムで、おしゃれ上級者でない限り使いこなすのは至難の業ではないか。
「僕もそう思ってました。実際、蝶ネクタイなんて付けたことないし、持ってもなかったですからね(笑)。でも何か新しいことをしなければ、若い人に響かないでしょう。紅型に普段触れることがない人、県外や海外の人だったり、若い人たちにもっと広く知ってもらうためには、キャッチーなアイテム、しかもファッションアイテムにしたらどうかなって思ったんです。紅型の蝶ネクタイがあったら面白いんじゃないかって。まあ、ちょっと見て下さい」
そう言って金江さんは、着用しているシャツの首元にさらりと付けてみせてくれた。
あれっ? なんだ、違和感がない。思ったより馴染んでいる。悪目立ちすることなく、けれど目を惹きつける、さりげないポイントになり得ているのだ。
「質感だと思いますよ。フォーマルなものは光沢があるでしょう。スーツに合わせるならそれくらいの存在感があっていいと思うんですけど、普段使いならこれくらいがちょうどいい。身に付ける人それぞれの遊び心で、気軽に使ってほしいんです。これ、首に巻く紐の部分は取り外しができて、クリップにも付けられるんですよ。クリップは同梱されています。だから、ブローチみたいにカーディガンや鞄につけたり。女性は、ヘアアクセサリーやペンダントにする人もいますよ。特に若い人は攻めてますね(笑)」
全て沖縄モチーフの柄。上から、Boreboshi(群星)、KIkkou(亀甲)、Bougainvillea(ブーゲンビリア)。それぞれチェーンタイプとレザータイプがある。
アイディア次第でおしゃれの幅が広がるピンブローチ。スーツの襟やTシャツにも。
金江さんがHABERUを立ち上げた理由は、沖縄のものづくりを手助けしたかったから。
「僕、ものづくりをしている友人が沢山いるんです。せっかく面白いものを作っていても、販売までなかなか手が回らない。だいたい1人でやってますからね。自分はものづくりに憧れがあって、でもそこにはいないから、せめてそういう人たちの応援ができないかって。だからHABERUのコンセプトは、沖縄のものづくりの素晴らしさを多くの人に知ってもらうことなんです」
沖縄の深く青い海を思わせるホタルガラスがポイントに。
沖縄の伝統工芸を身近に感じてもらうためのブランドだから、ブランド名も沖縄の言葉にこだわって、思いを込めた。
「HABERUって沖縄の言葉で“蝶”という意味なんです。蝶々が花から花へ飛び回っていくように、色々なものをつないでいきたいと、この名にしました。何をつなぎたいかというと、沖縄のものづくりを、全国の人、海外の人へつなげる。あと、ギフトに使ってほしいから、贈る人から贈られる人へつなげる。最後に、手にした人が、沖縄のものづくりに興味を持って、再び沖縄へ戻ってくる、みたいな。蝶々ってね、最後に戻ってくる習性があるんですよ」
HABERUの特徴は、HABERUと作家がお互いの意見を出し合って一緒に作り上げていくということ。第1弾は、カタチキという姉妹ユニットの紅型を使った作品だが、これから他の作家ともタッグを組んでいく。第2弾として、知花花織という織物を使った蝶ネクタイを現在制作中だ。
用意されているゴールドのシールをボックスに貼れば、そのままギフトに。ラッピングの必要がなくプレゼントしやすい。
作家はただ作りたいものを作るのではなく、販売のことも視野に入れなければならない。作りたいものと、販売するためのものとのすり合わせに、カタチキと金江さんの話し合いは何度となく重ねられた。カタチキの當眞 裕子さんは、最も苦労したのは、色味や柄を、ある程度均一に仕上げなければならなかったことだと言う。
「金江さんから、『インターネットでも販売するので、ネット上の実物の写真と、実際に送られてきたものの色味や柄が大きく異なると、全然違うものが届いたとなりかねない。それぞれの蝶ネクタイで色や柄をある程度そろえて欲しい』との要望があったんです。紅型は、全て手染めなので、染める度に微妙に色合いが異なるんですよね。これまでは、実際に目で見て、その微妙な色合いを楽しんで購入してもらうことがほとんどで…。色だけじゃなく、柄もある程度は揃えなければと、型取りするための型も何度も作り直しました」
生地が完成してからも、次は大きさ、形について何度も話し合い、何度も縫製し直した。これ以上ないというものにたどりつくまで、準備を始めてから1年以上が経過していた。
ようやく完成したものの、販売を担当する金江さんも、この商品の見せ方に頭を悩ませた。ファッションアイテムとしてだけでなく、伝統工芸の面にもしっかりと目を向けて欲しいからだ。
「ファッションに寄り過ぎると、紅型という工芸を伝えきれないし、逆に工芸寄りになると、今まで同様敷居が高いままで、若い人たちに面白いと思ってもらえない。伝統工芸を、これまでと違う切り口で、これまでと違う人に見てもらうためには、どう見せればいいか。あまり手本になるものがなかったので難しかったですね。東京でバイヤーさんが集まる展示会に出品したんですが、どうやったら興味を持ってもらって足を止めてもらえるか、友人にも協力してもらい色々考えました。HABERUって蝶だから、蝶ネクタイを、蝶の標本に見立てて額に入れて展示したんですよ。もちろん、紅型の説明や、実際の生地、作業工程がわかるPVも並べて展示して。これもフレームをつけて、標本っぽくして。その結果、多くのバイヤーさんに興味を持ってもらえたんです」
展示会でHABERUの魅力を伝えるのに一役買ったPV。その中にも、紅型を知ってもらいたいということと、遊び心で使いこなしてほしいという2つの思いが詰まっている。遊び心いっぱいのスタイリングは、友人たちがモデルとなって表現してくれた。
「『自分が蝶ネクタイを付けるならどんな格好で付けたい? 普段のおしゃれで来て』って言って軽いノリで、30人くらいに集まってもらったんです。スタジオでプロのカメラマンに撮ってもらったんですけど、これ言うと作りこんでくるから、わざと伝えなかった(笑)。みんなスナップ写真くらいの感覚で来て、スタジオと本格的な機材見て、『マジやし』って。『ちゃんと言え』って後で怒られましたよ。その上、カメラの前でみんなに踊ってもらったんです(笑)。蝶ネクタイって、いくらカジュアルって言っても、普段はそんなつけないでしょ。ちょっとお出かけとか、ちょっとだけ特別な時。だから、お出かけするときのウキウキな気分で踊ってもらったんです。緊張してる人とか、照れてる感じの人とか、その感じもあえて残しました。工芸だけだと固くなりがちだから、あえて崩して、みんなの自由なおしゃれやダンスで、楽しいPVになったと思います」
モデルをした友人たちは、ボランティアで協力してくれた。HABERUという蝶は、金江さんと作家、友人たちをも、さらに固くつなげたようだ。金江さんはものづくりをしている友人の手助けをしたいとブランドを立ち上げ、その立ち上げに、金江さんの思いに共感した多くの友人が協力を惜しまなかったのだから。
つながった皆の思いを乗せて、その蝶は、海を越え内地へ世界へ、遠く、高く、羽ばたいていく。
文/和氣えり(編集部)
写真/青木 舞子(編集部)
HABERU
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