» Sazie Graphics 佐治俊克ロゴはお店の顔。思いを凝縮したデザインを

佐治俊克
 
佐治さんは自身の小学生時代を振り返り、
「体育と美術だけいい点が取れる生徒でした」
と笑う。
 
「絵を描くのも好き、造形も好き。その延長線でデザインの方向へ進もうと考えました」
 
飲食店を中心とした店舗グラフィックやブランディングを始めとして、ロゴやパッケージのデザイン、かりゆしウェアのテキスタイルデザインやイラストなど幅広い分野で活躍する佐治俊克さんは、幼い頃から美術の世界が好きだった。
絵の勉強は大学からやればいいという両親の勧めには耳を貸さず、京都市の銅駝(どうだ)美術工芸高等学校を受験、その狭き門を見事に突破して高校時代から美術を専門的に学んだが、美術大学には進学しなかった。
 
「美大の受験に向いてなかったんですよ。なぜかというと勉強が嫌いだから(笑)。美大って美術さえできれば入学できるわけではないんです。一般科目の試験もある。
それに、当時は若かったので日本を出て世界を見てみたいという気持ちも強かったんです」
 
語学の専門学校で二年間英語を学んだあと、カリフォルニアのアカデミーオブアートカレッジに入学した。
 
佐治俊克
 
佐治俊克
 
佐治俊克
広げるとポスターになるようデザインされた包装紙も
 
「入学願書だけは受理されていましたが、住む場所も決めずにとりあえず渡米したんです。
ウィークリーマンションに住みながらアパートを探して、というような行き当たりばったりで留学生活がスタートしました」
 
大学ではテキスタイルやグラフィックデザイン、フィギュアドローイング、イラストレーションなど自分が受講したいクラスを選んで学ぶことができ、充実した学生生活を送ったが、苦手な授業もあったと言う。
 
「コンピューターのクラスは必修だったのですが全然好きになれなかった。シルクスクリーン(印刷技術のひとつ)に絵を描いたりするのが好きで、そういう方向に進みたいと思っていました」
 
6年間の留学生活を終えて帰国。東京の「際(きわ)コーポレーション」という飲食店等のプロデュース会社が人材を募集しているのを目にし、飛びついた。
 
「面白そうな会社だったんです。壁画を描く部門があってそこに入りたくて。
でも、たまたまコンピューターグラフィック部門に募集が出ていてそこに…。
コンピューター関連の仕事には就くまい!と思っていたんですけどね(笑)」
 
実際に仕事を始めると、コンピューターだけで仕上げるのではなく、人の手とコンピューターのどちらも使う仕事がほとんどだった。
 
「社長が、人にしか描けない書体とかにこだわる人だったんです。
そのやり方が今でもしみついているんですね。ロゴでもなんでも手描きとコンピューターをミックスさせてデザインすることが多いです」
 
佐治さんはクリエイティブ部門のチーフとしてグラフィックデザインやイラストを手がけ、大手企業の広告や商品、キャラクターデザイン、コピーライティングなど、仕事の幅を広げていった。
 
佐治俊克
写真上・企画:アイデアにんべん
 
佐治俊克
写真上・ロゴデザイン:縄トモコ
 
仕事は順調で、毎日忙しく働く日々。
そんな中、佐治さんは30代を迎えてから、時間を見つけては沖縄を訪れるようなっていったと言う。
 
「僕が生まれ育った京都ではあまり海が身近ではないので、きれいな海への憧れはずっとありました。
20代までは行く機会がなく、30代になって初めて行ったらすぐにハマって。
年に3回は旅行に行くという日々が2~3年続きました」
 
「一言で言うと沖縄病だった」と、佐治さんは当時を振り返って笑う。

沖縄への移住を決断して会社にその旨を申し出ると、沖縄でも仕事を続けて欲しいと言われた。
 
「それで、沖縄でも3年ほど会社の仕事を続けていました。だから移住後間もなくは100%東京の仕事に携わっていました。月に1度は東京に行って。
でも、徐々に沖縄にも知り合いが増えてきて、少しずつ仕事の依頼が入るようになったんです」
 
こだわりのショップが立ち並ぶ浦添市港川に自宅兼事務所を構える佐治さん。セラードコーヒーや ippe coppe といった近隣の店舗のロゴやパッケージデザインを始めとして、歯科、旅館、土産品、各種飲食店など、デザインに携わった業種は今では多岐に渡り、私たちも普段から毎日のように佐治さんのデザインを目にしている。
 
佐治俊克
 
佐治俊克
「古い缶。昔っぽいデザインですが、こういう変なのが好きだったりもするんです(笑)」
 
コンセプトや想い、願いや展望といった抽象的なものを目に見える形にデザインする仕事だからこそ、佐治さんはクライアントのヒアリングに多くの時間をさくようにしている。

「ロゴマークでもパッケージでも、クライアントがどういうものを作りたいのかを探りだすところから始まります。
作るからにはもちろんデザイン的に見栄えの良いものを作りたいし、ものにもよるけれどできるだけ長く使えるようにデザインしたいとも思っていますので、話し合いにはしっかり時間をかけます。
 
『自分にはこだわりがないからすべておまかせします』というクライアントも中にはいますが、そうは言ってもこだわりや好みってみなさん必ずあるはずなんですよ。そこを探っていく。好きな色やものを聞いたりして。
 
デザインするとき、自分の価値観はできる限りゼロにしているつもりですが、やっぱり知らず知らず出てくる部分はあると思います。『この色は全然使わないなー』などという風に。やはり自然と自分が心地良いと思えるものを作っているのでしょうね」
 
デザイナーという肩書きから、自身の表現を存分に発揮できるクライアントの方がやりやすいのかと思いきや、その逆だと言う。
 
「意見をはっきり言ってくださる方のほうが助かるんです。デザイン案を見て好みでなければ『NO!』と言って頂いたほうがいい、そこから話し合いが始まりますから。
気をつけていることは、クライアントの意見を柔軟に聞き入れること。自分ではこれがいいと強く思っていたことでも、誰かの反対意見を聞いて『なるほど!』と思うことは多々ありますし、最初は相手の意見に対して『え~っ?! そうかなぁ?』と疑問に感じても、一定の時間が経ってからなるほどと納得することも。
ですから、自分と異なる意見だからといって頭ごなしに否定することはありません」
 
佐治俊克
 
佐治俊克
 
毛筆書体のロゴ、墨絵のようにも見えるつばめが特長的な中華レストランのデザイン。
ミニマムでシックなショップバッグ、リーフレットには模様のようにジュエリーが配されたアクセサリーショップのデザイン。
佐治さんの作品には一目でわかるような統一感、確固たる佐治さんらしさというものが見当たらないように感じる。
それは、依頼を受けてデザインする際に佐治さんが「個」をできる限り捨て、クライアントの意向を深層心理にひそむ部分まで探りだした上でデザインするから。
 
そのためには一定の話し合いの時間が必要で、特にそれまで面識のないクライアントの場合は普段以上に綿密なヒアリングを行うと言う。
 
「普段から付き合いがある人の場合はある程度の好みや傾向がわかりますが、そういう前知識がない場合は、方向性を決めるために十分な時間をさきます。
お店というのは何十年も続くもの、とりあえずでデザインすべきではないと思うんです。
特にロゴはお店の顔ですから、『1週間後にオープンだからそれに間に合うように』というような切羽詰まったご依頼はお受けできないことが多いです。しめきりに合わせるためにバタバタと決めてしまうようなやり方には抵抗を感じます」
 
そこには、「お互いが納得できるものを」という強い思いがある。
 
「好みも価値観もぴったり合う人を探すというのではなく、お互いが共感する部分を探すんです。色、モチーフ、テーマ、マーク…。何かしら『ここは合う!』という共通点があるはず。
デザインが一発OKになることは殆どありません。最低3回はデザイン案を出し直しますし、お互いが満足のいくデザインに仕上げるにはそれしか方法はないと思っています」
 
佐治俊克
 
佐治俊克
 
その真摯な仕事ぶりも評判となって徐々に活躍の場を広げ、これまでに多くの作品を生み出してきた佐治さんだが、どんなデザインであっても、完全に新しい、ゼロから生み出されたデザインというものはないと語る。
 
「無意識にですが、デザインってどこかで見たことのあるものに似てくるものだと思うんです。ジャンルによってはある程度の傾向が一般化されているデザインもありますし。
例えば、アパレル系は主張しないロゴが多いですよね。ハイブランドともなると、特長といった特長が見受けられないロゴがほとんど。はやりに左右されず長く愛用してもらうためだと思います。
逆に、飲食店は主張の強いロゴが多い。
その中でもジャンルによって一定の傾向はあって、例えばコーヒーだとファンキーすぎる色を使っているところはほとんどなく、少し落ち着いた色合いのロゴが多い。
飲食店は暖色系の色あいのデザインが多いと思いませんか? 寒色系は食欲を減退させる効果があるそう。
また、食べ物屋はあまりにかっこつけたデザインだとお客様が入りづらいので、ある程度親しみの持てるデザインにするよう気を配っています」
 
serumama 佐治俊克
 
serumama
 
元来うつわが好きで、自宅の食器棚には作家ものの皿やグラスが多数並ぶ佐治さんが今気になっているのは「工芸」だと言う。
 
「ちょうど工芸関連の仕事に携わっていることもあって興味がわいて。
職人さんと一緒になって商品を開発するのも面白そうだな、と。コップ一つとっても使い勝手の良さやデザインを追求して作ってみたり。
お土産じゃない工芸を作りたいんです。
 
また、これまで京都、アメリカ、東京、沖縄と移り住んで来たので、場所と場所を繋ぐ仕事もできたらと思います。
パン屋さんやコーヒーショップなど、沖縄で頑張っているお店の販路を拡大するお手伝いとか。
沖縄を飛び出して、幅広く活動できたらいいですね」
 
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「イラストレーター」「グラフィックデザイナー」。
そのいかにも専門的な響きから、なんだか自分とは遠い世界のひとびとなのだろうと無意識に感じていたように思う。
たとえば自分が店を開こうと思ったとき、店のロゴデザインや名刺をデザイナーさんに依頼しようと考えるだろうか?
包装紙やショップバッグをオリジナルで作ってもらおうと思うだろうか?
もちろんそうしたい気持ちはやまやまだが、なんだか敷居が高いような気もするし、それらは市販品で適当に済ませることもできるもの。
 
でも。
 
心に残るお店や商品は、その味や店の雰囲気と一緒にロゴやキャラクターもセットで記憶されていることが多い。
「お店の顔だから」
という佐治さんの言葉どおりに。
 
店主が商品や内装に心をくだき、思いを込めるように、佐治さんはデザイナーとしてデザインにクライアントの思いを凝縮させる。
 
デザインは何も全国展開している大規模チェーン店だけの専売特許ではない。
強い思いのあるところならどこでも、デザインはその力を発揮し、思いの発信を後押ししてくれる。
 

写真・文 中井 雅代

 
Sazie Graphics 佐治俊克
浦添市港川
098-894-5887
sazie@nifty.com