文:幸喜 朝子 写真:大湾 朝太郎
現在、ロンドンで開催中の「LOOCHOO展」
参加する皆さんを、実行委員会メンバーであるブエコこと幸喜朝子が紹介します。
今回は、LOOCHOO展のオープニングで沖縄民謡を演奏する三線とピアノのユニットLacorde(ラコルド)さんと、琉舞を披露する伊是名祐子さんをご紹介。
——————————————————
LOOCHOO展
日時:2012年4月25日〜30日
場所:ロンドン クリプトギャラリー
HP:http://loochoo.ti-da.net/
——————————————————
LONDON meets Lacorde
演奏がはじまってすぐ、その美しく洗練された旋律に驚く。
どこか土臭いイメージの沖縄民謡にピアノが加わるだけで
こんなにも表情が変わるなんて…!
これまで当たり前に聞いていた、むしろ聞き流していた沖縄民謡が
初めて出会う美しい景色として立ち上がる。
Lacorde(ラコルド)は唄三線担当の川村建一さんと
ピアノとアレンジ担当の比嘉雅人さんによるユニットで
沖縄民謡を中心に演奏している。
この斬新な組み合せをどうしても聴いてみたくて、
取材の前に演奏してもらった。
1曲目は八重山民謡「月ぬ美しゃ(つきぬかいしゃ)」。
2人が沖縄民謡の中でもっとも好きな曲であり、
ユニットを組むきっかけとなった曲だ。
川村さんのしなやかで澄んだ声と三線、優美な比嘉さんのピアノ。
重なりあう2人の音色が美しすぎて、完全放心。
どんなに言葉をつくしても説明できない、心の奧にふれる音色。
「月ぬ美しゃ」
自分たちがきれいだと思う曲を、より美しく伝えたい。
そう話す2人。そのことで沖縄民謡の入口になりたいと口を揃える。
川村さん
「三線一本だけだとあまり聴かない曲も
ピアノが入るだけで聴きやすい。
日常の中で流してても違和感がないと思うんですよ。
もともと民謡自体きれいなものだし、
ラコルドが民謡を知るきっかけになるといいな」
比嘉さん
「僕らの世代って民謡そんなに聴かないですよね。
でも、ピアノを入れるだけで聴いてくれるんじゃないかなって。
むしろ自分の中で民謡をやってるつもりはなくて。
うん…『音楽』なんですよね。ジャンルという枠はない」
新鮮な驚きをくれるラコルドの曲に惹かれるのは
ウチナーンチュだけじゃない。
「知り合いのお店ではラコルドのCDをかけると
犬とネコが寄ってくるんだって〜」と笑う。
動物までもとりこにするラコルド(笑)、
出会った当初はユニットを組むなんて思ってもいなかったそう。
比嘉さん
「『月ぬ美しゃ』の世界観がずっと好きで。
月がきれいだって唄ってるだけなんだけどね(笑)。
雄大でメロディがすごくきれいだから演奏してみたくて
彼が弾いてる時にピアノを合わせてみたら驚くほどはまった」
川村さん
「お互い音楽をしてるのは知ってたけど
コラボレーションするとは思ってもなかった。
最初は人前で演奏するためじゃなくて
遊びでやってたんだけどそのうち本気になっちゃってね(笑)。
イベントに呼ばれることが増えてきて、演奏する曲も増えていった感じです」
新潟出身の川村さんは沖縄に魅せられて10年以上前に移住、
三線で単身音楽活動を行なっていた。
一方、比嘉さんは沖縄県立芸大で声楽を専攻していたが
卒業後、音楽の道を封印。放送局に勤め音楽から何年も遠ざかっていた。
音楽をやりたい気持ちを自ら閉じ込めていたのだと言う。
比嘉さん
「音楽で生きていきたくて県立芸大の声楽に進みました。
でも卒業して就職を選んだんだから
音楽に一区切りつけなきゃいけないって思い込みがあったんですよ。
でもラコルドを始めてから音楽ってそういうものじゃないってわかって。
音楽って人が選択するものじゃなくて実際に「ある」もの。
だからやりたいならやればいいんだ、って」
ラコルドを組んで呪縛がとけたと比嘉さん。
それは川村さんも同じ。
川村さん
「新潟出身の自分が沖縄の音楽をやっていいのかな、って疑問があって。
地元の人にどう評価されるんだろう、けなされるんじゃないかとか
ナイチャーなのにって言われるんじゃないかって
勝手に考えてたんです。でもCDの収録でふっきれましたね。
彼と同じで『やればいいんだ』って思えた」
ラコルドをやることで音楽に対して自由になった2人。
だから「演奏してる時は基本的にハッピー」なのだそう。
比嘉さん
「だって奇跡だもんね、人前で演奏できる機会があるって。
ラコルドを組んだタイミングとか生まれた時代とか
出会ったこととか全部含めて音楽やれてることが奇跡だと思う」
幸せをかみしめながら演奏してるなんて、すごく素敵!
川村さんも三線単体でやるよりピアノ伴奏があることで
演奏する気持ちよさが全然違うと言う。
きっとあの美しいメロディは2人の
幸せな気持ちが重なって増幅しているに違いない。
演奏してる2人の心地よさを想像するだけで
私まで幸福に満たされぽーっとしてしまう。いいなぁ。気持ちいいなぁ。
ユニット名のLacordeはフランス語で「弦」という意味の他に、
「琴線にふれる」という意味も。
比嘉さん
「僕が音楽に対して気持ちを解放されたように
聴く人にとってラコルドは心を開く弦であればいいな。
ほんと…いい名前つけたよね(笑)」
LOOCHOOではオープニングライブを担当。
『月ぬ美しゃ』『唐船ドーイ』、『かぎやで風』。
この記事が掲載される頃には、もうライブを終えたあと。
沖縄民謡の枠を超えた沖縄の音色がギャラリーを包むとき
ロンドンの人たちも幸せな旋律に包まれているはず。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
LONDON meets 伊是名祐子
「沖縄エステ界のゴッドハンド」の名をほしいままにする伊是名祐子さん。
首里のサロンVIVACE BEAUTYの代表を務め
著名人をはじめたくさんのファンを持つ、沖縄エステ界の第一人者。
いつお会いしてもキレイでお洒落、そして朗らか。
東京と沖縄を行き来するライフスタイルはアラサー女子の憧れそのもの。
LOOCHOO展ではオープニングパーティーで「かぎやで風」を披露する。
なぜ祐子さんがかぎやで風?と思う人は多いかもしれない。
実は琉球舞踊と祐子さんには切っても切れない関係がある。
「おばあちゃんの影響で3才から18才まで琉舞を習ってて。
子供の頃、将来の夢は、
琉舞の先生になりたいって思ってたわけさ。
でも18才で美容の道に目覚めてからはずっと離れてたんだけど、
トリートメントをやってるとみんな肩を壊したり
腰を痛めたり腱鞘炎になったり、体調を崩す。
でも私だけあまりにも体調がいいから
なんでだろう?って考えたら、あ!琉舞だ!って」
琉舞は男踊りで足や腰の筋力を鍛え、女踊りでしなやかさを身につける。
それがトリートメントに必要な体力とメンタル面の強さ、
施術に必要なしなやかさを養ったのでは、と祐子さん。
「琉舞やってると呼吸が安定するし
小さい頃から一発勝負の舞台に出るから土壇場に強くなる。
サロンにはいろんな大御所の方もくるけど
動じずにケアできたのもこれのおかげかなって。
それにちゃんと正座しておじぎしたり
舞台までメイクがくずれないように楽屋でじっと待機したり、
3才には大変でしょう。それを学べたのが良かったと思う」
その気付きがきっかけとなり、琉舞を取り入れた
エステメソッドを開発しようと決めた。
「ハワイにはロミロミ、タイにはタイ古式、っていうふうに
世界にはその土地ならではのトリートメントがあって。
だから沖縄オリジナルのトリートメントを作りたいと思ったわけさ。
でも沖縄ブームに乗っかった寄せ集めのものは
簡単だけど薄っぺらくてうさんくさい。
ずっと歴史に残るぐらいのものにしよう思った時に
もう一回、ちゃんと踊りを始めようと思ったの」
祐子さんが沖縄オリジナルメソッドを作ろうと決めたのは約10年前。
琉舞の所作をベースに、沖縄古典音楽や
沖縄ならではの素材を用い、一昨年「クシャティ」として完成させた。
クシャティとは方言で「寄り添う」とか「背中を押す」という言葉。
体だけでなく心までケアしたいと考える祐子さんならではのネーミングだ。
「私が目指すものは、体をゆるめ、神経を休めることで
出来る限り、思考回路までぜんぶ変わってもらうためのケア。
すごく深刻なものを抱えてるお客さまは
言わなくても体にふれると分かる。
私は心身共にリラックス出来るようにケアをほどこす。
いろんなエステを転々としている人も
すぐ分かるよ、体を触ったとたんに。
人にはそれぞれ気が流れていて、バランスを整えるために
いろんな人に触らせすぎるとその人の気のバランスも乱れるから、
信頼できるセラピストを選ぶのがいいと思う」
そう言うように、祐子さんのお客さまはほとんどがリピーター。
でもそうするとサロンが回らないので
元気になったら卒業してもらうんだそう(笑)。
クシャティで使う古典音楽も、本物にこだわった。
体と心を芯からリラックスさせるため、文献を調べ何度も舞台を観て
本当にいいと思える古典音楽を選びだした。
「とにかく沖縄ブームにのっかった薄っぺらなものにしたくなかったから
音楽もいっぱい聴いたし国立劇場も何回も通ったし、
文献を読んだり先生からいろいろ聞いたりしたね。
やっぱり古典音楽は聞いてると呼吸がすっごい安定する。
胎教に似てるんだって。
それを確かめたくて国立劇場に通ってたんだけど
どんなにたっぷり寝てから観に行っても絶対、寝ちゃう(笑)!!
トリートメントしてるお客さまも絶対寝るし。
古典のリズム、あのオジーの声がいいみたい」
クシャティを始めてから毎日古典を聞いてるけど飽きない、
古典は本当に心地いいという祐子さん。
最近はオジーの声に色気さえ感じるんだとか!
トリートメントには音楽だけでなく、
琉舞で使う金細工の房指輪も取り入れた。
作り手は今でも金細工の伝統を守る唯一の職人、又吉健次郎さん。
「クシャティは今までいろんな歴史や文化を残してきた
又吉さんや踊りの先生方々と一緒に作っていくことになるはず。
沖縄のセラピストって、今はまだ表面的でしょう。
もっと沖縄の歴史文化にふれて深い部分までケアできる人が育ってほしい」
本物へのこだわりと情熱で
沖縄の伝統文化と人をつなぎ、昇華させていく祐子さん。
昔から点在しているものを結ぶのが好きだったそう。
「子どもの頃からつなげる、並べる、重ねるっていう行為が好きだわけ。
石畳とか織物が好きで、小学校の時も一人で浦添城趾いってたよ(笑)。
あと透明の瓶に一列に並んで重なってる
スクガラスの魚!あれも好き(笑)
幼いころからの好きな行為のつながり・・・という事で。
なんだか強引にまとめるけど(笑)」
そう笑いながらLOOCHOOでは
ロンドンと沖縄をつなぐきっかけになれたら、と言う。
「私は琉舞のプロじゃないからロンドンに行くのは
おこがましいんじゃないか、って思ったけど
LOOCHOOはアート展だから、って主催側が言ってくれたから
私の沖縄への想いを表現できたらいいなと思ってる。
YOKANGのドレスで踊るし、ロンドンの人が
沖縄を知りたいと思うきっかけになれたらいい」
YOKANGのドレスを着て祐子さんが踊るスタイリッシュな「かぎやで風」が
ロンドンと沖縄をつなぐ最初の架け橋となる。
——————————————————
LOOCHOO展
日時:2012年4月25日〜30日
場所:ロンドン クリプトギャラリー
HP:http://loochoo.ti-da.net/
——————————————————
■プロフィール
【Lacorde】 川村健一:唄、三線 / 比嘉雅人:ピアノ
新潟出身の川村健一(唄三線)と、沖縄出身の比嘉雅人(ピアノ・アレンジ)によるデュオ。
川村は三線好きが高じて沖縄に移住。
キャンパスレコード発売の沖縄島うたポップス工工四シリーズで編集に携わり、またボーカリストとして数々のCDに参加。
比嘉は沖縄県立芸大で声楽を専攻し、卒業後は放送局に勤務。ラジオディレクターやアナウンサーを経て、現在は報道記者・番組ディレクターを務める。
2008年に三線とピアノによるデュオ「Kenichi&Masato」を結成。(後にlacorde(ラコルド)に改名)
川村の故郷新潟での演奏や、那覇にて単独ライブを行い好評を博す。10年には初のアルバム「月ぬ美しゃ」発売。アルバム発表後は県内外で三線とピアノの異色のデュオとして話題。
http://lacorde-okinawa.com/ ラコルドHP
http://kawakensanshin.ti-da.net/ 川村健一ブログ
【伊是名祐子】:琉舞パフォーマー / ビバーチェビューティー代表
本業の美容家エステティシャンとして県内外で活動中。日本のゴッドハンドに選出されるなど著名人からも人気が高い。幼少の頃から続けている琉球舞踊の手の動きや琉球金細工の房指輪をして施術に取り組みその音とテクニックで更なるリラックス効果を高める事に成功。エステ界に新風を起こした。展示会ではラコルド、ロンドン沖縄三線会とともにオープニングパーティで「かぎやで風」をパフォーマンスをする。ビバーチェビューティー代表でもある。
http://www.vivace-life.jp/ ビバーチェHP