アイデアにんべん作
琉装すがたのユーモラスなおじい(中にはにーにーも?)たちが箱の中でひしめき合う様子が可愛い作品。
ひょうきんな面々をつぶさに観察していると、少しいかめしい顔のおじいもいれば、にっこり微笑んでいるもの、ちょっと困った顔もあれば大笑いしているものもいて、見ていて飽きない。
帽子の色や着物の色ごとにわけて並べたくもなるし、机の上でころころと転がしてみたくもなる。
この作品、その名も
「ジーマーミ・リューキューオーチョー」
そう、おじいたちの正体はジーマーミ(落花生)。
作り方も丁寧に記してあり、自分だけのジーマーミ人形を作りたくなる。
増田良平さん作
陶芸家、増田良平さんによる作品「あなたが好きです」。
取っ手をくるくる回すと、花束を持った男性がお腹を軸に回転する仕組み。
ほかにも、馬を乗りこなす女性や飛行機ごっこに興じる二人をモチーフにしたおもちゃが並ぶ。
その何ともいえないほのぼのとした雰囲気や、シンプルなのに奥深く、ついじっと見入ってしまう魅力は、氏のつくる器にも通じる気がする。
取っ手は回すときにちょっと力を入れないと回らないし、その動きもスムーズというよりはぎこちないのだけれど、そこが良い。
悲しいときやいらいらしてしょうがないときにその取っ手を回せば、なんだかすべてがどうでもよくなってきそうな気がする。
壺屋焼物博物館で行われている「ユッカヌヒーアート展」は今年で9回目を迎える。22名の作家による大人も楽しめる作品が展示され、最終日にはイベントも行われる。
主催者である張り子作家の豊永盛人さんは、沖縄の古くからのならわしである「ユッカヌヒー」にちなんでアート展を企画したと語る。
中村真理子さんによる張り子
「昔は旧暦の5月4日であるユッカヌヒーには、ハーリーが行われる会場に玩具市が立ち、琉球張り子をはじめとしておもちゃが並んでいました。子どもの健やかな成長を願っておもちゃを買い与えるという習わしがあったんです。昔はおもちゃの専門店がなく、その日が年に一度の玩具購入の機会だったんですね。
多種多様なおもちゃが溢れる現代ではこの風習もほとんど消えかけていますが、今の時代に僕たちなりのユッカヌヒーができないかと思い、企画しました」
県内の作家に声をかけ、「ユッカヌヒー」というテーマだけを伝える。何をつくるかは作家にすべて委ねているという。
「ですから必ずしもおもちゃをつくるとは限らないわけです。絵であったりオブジェであったり。誰が何をつくってくるかというのは毎年楽しみですね」
豊永美菜子さん作の枕。女の子や犬や亀はそれぞれとりはずし可能で、アイピローにもなるすぐれもの。
澄んだ海を見下ろすように立つ少女、浜辺を駆ける犬、海を泳ぐのは七色に輝く亀。
静かな佇まいの中にシュールな魅力が光る作品。
「隅にいるのが私、後光が差しているのは娘(笑)」
先日、言事堂で行われた個展の油絵作品が印象的だったが、今回も油絵の具を用いたペインティングが独特な雰囲気をかもし出している。
「実は、今回は油絵の具を使わずにつくろうと思って、搬入時までは絵の具での塗装はしていなかったんです」
小学校の時から使い慣れた油絵の具を封印し、天然染料で染め、刺繍を施して完成させていたが、出展前日にはたと気づいたことがあった。
「搬入時に他の出展者の方々の作品を見たら、みなさん作品の中でしっかり自分を出し切っているのに、私のは自分が無い!って…。みなさんにお見せするのが恥ずかしいって思って、そのまま家に持ち帰って塗りまくったんです。
『こんなお上品なのアカン!もっと悪趣味にしなきゃ!』って(笑)
私が好きなテイストは良い意味でえぐみがあるというか、見てすぐ納得するようなものではなく、一見『何これ?』と思うようなのもの。
今回は油絵の具を封印するつもりだったけど、搬入時に『やっぱり私には絵の具しかない!』と気づきました。
今は自分を出し尽くした感じ。満足しています」
奥野美和さん作のフェルト作品
安里ミカさん作のかぶりもの。真ん中の筒は一体なんなのか? かぶってからのおたのしみ
「ユッカヌヒー」という共通のテーマはあるものの、アーティストたちの表現はかぎりなく自由。
「子どもの日」にふさわしく、遊び心あふれた作品が並ぶ。
土田政一郎さん作。地デジ移行の際に印象に残った看板などを見て制作
福地政光さん作
シキヤ ヒデモリさんは16年ほど前から海辺のゴミを拾い集め、作品を制作している。
作家本人を知るひとたちは作品を見て声をそろえる。
「シキヤさんにそっくり!」
吉田俊景さん作
風に吹かれてくるくると翼が回る
紅型作家・賀川理恵さん作
佐藤大地さん作
髙橋健二さん作
豊永盛人さん作のカルタ。世界の童話をモチーフにしている。
「5歳と2歳の子どもがいるので、一緒に遊べるものをと思って」
思わず目を細めてしまう愛らしい画風だが、添えられた文同様、大人をにやりとさせるほんのりとした毒気がたまらない。
外国人観光客も多数おとずれ、一枚一枚を指さしながら「これはシンデレラ?」「あれはジャックと豆の木ね!」と盛り上がっていた
増田さんのおもちゃをぎこぎこ回しながらふと考える。
幼いころはちょっとしたことがおもしろくて、毎日のようにお腹が破裂するくらい笑い転げたり、我を忘れるくらい何かに熱中したりしていた。
本を開けばすぐにその世界に入っていけて、気づけば窓の外が暗くなっていたし、疲れを知らず延々と縄跳びで遊んだりもした。
そして、感情はこの上なくシンプルだった。
楽しいか、楽しくないか。
おとなになった今、気づけばまわりには楽しさ以外の尺度があふれていて、「義務(〜べき)」や「常識(ふつうは〜である)」にがんじがらめになっていることもある。
「ユッカヌヒーアート展といえど、展示内容は大人向けかもしれません」
と盛人さんがおっしゃっていた意味がわかった気がした。
子どもにはあえて提示し、促す必要のない「遊び心」「シンプルに楽しむ気持ち」。
おとなたちが一生懸命遊んでできた作品たちが、おとなになった私にあの頃の気持ちを思い出させてくれたから。
写真・文 中井 雅代
ユッカヌヒーアート展
@壺屋焼物博物館
那覇市壺屋1-9-32(平和通りから壺屋やちむん通りに入ると、入り口にあります。)
6月19日(火)〜24日(日)
10時〜18時まで(最終日の日曜日は17時まで)
*24日の日曜日は人形劇、カルタ取り大会、プール写真、ドラム演奏、ダンス、シャボン玉など楽しいイベントやります。
*日曜日にイベントもやってみます!
*駐車場は、有料パーキングをご利用ください。桜坂劇場隣の青空駐車場が近くて安くおすすめです。
HP:http://toy-roadworks.com/news/2012/06/13/694.php