大切な人への想いを、方言で「志情(しなさき)」と言うらしい。
その志情が、映画の核になっている。
主人公は南大東島に住む15歳の優奈。父親と二人で暮らしている。兄と姉、そして母は那覇在住。
家族のさまざまな事情や心情が、複雑に絡み合っている。
ヒロインには映画初主演の新人女優・三吉彩花。頼もしいベテラン俳優の面々が彼女を脇から力強く支えているが、自然体の演技と透明感のあるルックスで、見事に主演を演じきった。
背が高く、肌が白くて美しいので…というか、やっぱり女優さんなので、島の子たちの中にいるとどうしても目立ってしまうんだけど、悪目立ちしているわけじゃなく、「島にいるすごく綺麗な子」という印象で違和感がないのが不思議。
優奈が所属している「ボロジノ娘」という民謡グループがとても素敵!
グループといっても、いわゆる芸能人みたいな雰囲気ではもちろんない。新垣先生というおじいちゃんが、自宅の教室スペースに女の子たちを集めて教えているのだ。島の民謡教室。
小・中学生のお姉ちゃんたちが、小さい子たちの面倒をすごくよくみている。練習時には三線の指導もするし、演奏会の時は着付けや髪結いをお手伝い。その様子がすごく微笑ましく、4歳の娘がいる親としては羨ましくもある。子どもって、子ども同士の付き合いですごく沢山のことを学ぶもんね。うちの子もボロジノ娘に入れたい!
小さい子たちにとって「ねーねー」達は、世話をしてくれるお母さんのようでもあり、憧れの存在でもある。身近にそういう存在がいるって、都会のくらしではほとんどないかも。
映画の冒頭は、メンバーの中で最年長であり、優奈の一つ年上であるメンバーの卒業コンサートのシーンから始まる。南大東島には高校がない。進学を機に島を離れるメンバーを送る、毎年恒例のコンサート。彼女は一人、涙をこらえながら別れの唄「アバヨーイ」を唄い、優奈は舞台袖で静かにその姿を見つめている。
その日から、優奈が卒業するまでの1年間の物語。
この映画、もちろんストーリーはしっかりあるのだけれど、6~7割はドキュメンタリーのような雰囲気。南大東島のくらしをリアルに描き出していて、「こういう島なんだ〜」というのが具体的に色々と伝わってきて、すごく面白い!
檻のようなゴンドラに入り、クレーンで吊りあげて乗り降りするフェリー、南大東と北大東の親善スポーツ大会(かなり白熱!)、農業組合の会合、さとうきびの収穫、中学校の卒業式の後、生徒と父兄が必ず訪れる場所…。島の一年間が詰まっているから、見終えた後はなんだか疑似移住したような感じ。
沖縄本島とも異なることばかりで、本島在住者の目にも新鮮。
主人公が15歳ということで、34歳の私としては感情移入する対象が難しい。子を持つ親としては小林薫演じる父親サイド、もしくは大竹しのぶ演じる母親サイドに「うんうん、わかるわかる」と頷くこともあれば、遠い中学時代のことを思い出して「こういう感じだったなー確かに」と懐かしく思うところも。
特に優奈の初恋のシーン。近代化があまり進んでいない島での恋愛は、20年前の私の中・高時代とかぶるところもあり、結構、共感。「ケータイがない時代の中学生ってこんなだったよねー」みたいな。今は携帯電話でもパソコンでも、連絡手段はいくらでもあるもんね。まどろっこしくないのが良い所なんだろうけど、ちょっと趣きに欠けると思ってしまう私は、今の中学生からはオバさんと呼ばれてしまうんだろうな〜。
日本屈指の演技派女優ここにあり、という感じの大竹しのぶ。表情一つ一つが切ない。久しぶりに優奈に会いに向かうときの、階段を登る一瞬の顔だけで、私、泣けちゃいましたよ…。
ともに暮らしている親子だったらあんな顔はしないよな、という複雑な、でも純粋な愛と必死さがにじみ出た表情。
小林薫もそうだけれど、この二人、セリフはすごく少ない。でもただそこにいるだけで、その雰囲気や立ち姿だけで、黙っていても想いが伝わってくる。すごいなー。
「小林薫」「離島」「父親」というと「Dr.コトー」を思い出すんだけど、もちろんあのときとはまた全然違う父親像を演じきってくれました。いかにも島んちゅというあの純粋なまなざしと、少し寂しそうな微笑み。
さすが!というほかありません。
印象深かった登場人物の一人、優奈の姉の美奈。
小さい子どものいる母親という点で、私にとっては一番条件が似通った人物。
娘を産んだばかりなのに、わけありで那覇から島に戻って来た。ここにも、別の「志情(しなさき)」がある。
早織という女優さんが演じているんだけど、彼女もすごく印象的な目をするので引き込まれる。からっとしたお姉さん気質で、色々と案じる優奈に「大丈夫だから」といつも返すんだけど、その時の目がね、いつも心に秘めている「何か」を漂わせてるんだよね。
本島でもロケを行っているので、見慣れた風景やスポットが映し出される度に「お!」と嬉しくなる。「ここ、あっちの喫茶店だー」「これって◯◯高校だよね」みたいな。沖縄に住む私たちならではの楽しみ方かも☆
私の自宅近辺も結構映っていて、「え〜!あそこに小林薫さん来たんだー!」と、かな〜りテンション上がりました。
優奈と同じように中学校を卒業するタイミングでなければ意味がないからと、主演の三吉さんの中学卒業を待って撮影されたこの映画。思春期ならではの複雑な心境が、スクリーンを通じてひしひしと伝わってきます。
子どもって、こんなに色々考えているんだなーと思った後に、そういえば自分だって小さい頃、意外といろいろ思い悩んだりしていたよなと思い出した。家のことばかりじゃなく、友だちとの関係、学校での生活、将来のこと…。もしかすると今以上にさまざまなことを思い巡らせていたかもしれない。家族のことを疎ましく思うこともあるけれど、それでもまだまだそばにいて、不安定な自分を支えてほしいというのが本音の年頃。
島に住んでいると、避けられない現実がある。人よりも早めにやって来る自立もそのうちの一つ。
映画の最後を飾る、優奈の「アバヨーイ」。
私は優奈の姿に、自分の娘だけでなく、15歳だった私自身も重ねていました。
親元を離れて暮らすという、自立への第一歩を踏み出すときの不安感、高揚感、寂寥感…。
「この歌は泣いて唄ったら価値ないからさ、堪えて唄うんだよ」
と、民謡教室の新垣先生。
優奈の「アバヨーイ」、みなさんの心にはどう響くでしょう?
文 中井雅代
『旅立ちの島唄 ~十五の春~』
4月27日(土)より桜坂劇場にて公開
2012年/日本/114分
監督:吉田康弘
出演:三吉彩花/大竹しのぶ/小林薫/照喜名星那/上原宗司/ひーぷー/普久原明/ほか
http://www.bitters.co.jp/shimauta
●おとう、おかあ、ありがとね。島唄の旋律にのせて、少女は大好きな島に別れを告げるー。
南大東島に住む新里優奈(三吉彩花)。父・利治(小林薫)はさとうきび農家を営み、母・明美(大竹しのぶ)は兄や姉が進学するときに那覇に渡ったままなぜか戻ってこない。家族は既に壊れかけていた。優奈も1年後には高校進学のために島を出なくてはならない。ずっとふたりきりだった父との残されたわずかな時間、父をひとり残して那覇へ行く罪悪感、那覇での暮らしの不安と憧れ、淡い初恋、そして家族みんなで一緒に暮らしたいという想い……。おとなになるには早すぎる年齢で迎える15歳の春、少女民謡グループ“ボロジノ娘”として、優奈は島の民謡「アバヨーイ(“さようなら”の意)」を家族への想いを込めて唄う。