FUJISAN(フジサン)お気に入りの一着が二着に。 山登りのように誠実なものづくり。


 
自分の体型にピッタリ合って、
色やデザインも気に入るパンツと出逢うのはなかなか難しい。
 
だからこそ、出逢ったら即買い。
でも気に入って頻繁に履いていれば、
生地の消耗や色あせももちろん早い。
 
そんなとき、同じ型、同じサイズのパンツを
好きな生地で作ってくれる縫製工房がある。
 
「実物を持って来て頂ければ型紙を起こして作ることができます。
『この洋服の型が気に入ってるんだけど、別の生地で同じものを作って』
というご注文、結構多いんです。
お気に入りの生地を持ちこんで頂けたら、その生地でお作りします。
 
なので、企業やブランドさんだけじゃなく個人のお客様も多いし、
リピートして下さる方も。
 
アレンジのご要望もお受けしてますので、
例えば
『もとの型は袖がついてないんだけど、パフスリーブをつけて欲しい』とか、
『体型が変わったのでサイズを少し変えて欲しい』というご注文にも対応できます。」
 
じゃあ、お気に入りの冬物パンツ、
薄手の生地で夏用に作ってもらえたら嬉しいなぁ。
 
「もちろんできますよ。
1着5000円くらいから。
デザインや種類によって金額は違ってきますけど。」
 

 

 
「FUJISAN(フジサン)」は、代表の智子さん含む女性5名で営まれている縫製工房だ。
工場ではなく「工房」という名にふさわしいこじんまりとした店内には、
業務用ミシンの音が軽やかに響いている。
作業に集中する彼女達の表情は真剣そのものだ。
 
その名をよく知られた沖縄のブランドや作家たちが、
評判を聞きつけて縫製を依頼しにやってくる。
その確かな技術、縫製に対する誠実な姿勢に、
衣料品業界に携わる多くの人々が信頼を寄せている。
 
 
 

 
「小学生の頃から裁縫は大好きで、
手芸クラブに入ってマスコット作ったりしてました。
 
短大を出てから洋裁学校に1年行って、
国際通りのアパレル店で働いたあと、
PAIKAJI(パイカジ)の工場で縫製の仕事を。
会社勤めを辞めた頃に、友達が
『縫製の仕事が沢山あるよ〜』
と話を持ってきてくれて、
自宅のアパートで仕事を始めました。
 
縫製学校で一緒だった友人も手伝ってくれるようになり、
そこから徐々に依頼が増えてきて。
 
今は受注だけじゃなく、オリジナル商品も少しずつ作っています。」
 

 


 
「オリジナルのコンセプトは
とにかく着心地が良いこと。
そして、他にはないちょっとした細工を施すこと。」
 
襟の形が独特だったり、ユニークな刺繍が施されていたり、
バックスタイルをチェックすると思わず「にやり」としてしまう、
楽しい遊び心や嬉しい発見も。
 

 

 
「シャツはシンプルな形なので
かりゆしとして買って行く方も多いですね。」
 
同じ色で同じ型の服は作らないようにしているため、
誰かとかぶる心配もない。
 
形はシンプルだが、
よくよく目を凝らしてみると、
定規で引いたかのようにまっすぐな、美しい縫い目に思わず息を飲む。
プロとしての確かな技術だけではなく、
縫製に対する実直さ、真摯な姿勢がそこにはうかがえる。
 

 
オリジナルのシャツならともかく、
数十個単位の受注商品を縫製していると
知らず知らず作業が機械的になってしまわないのだろうか?
ベルトコンベアー方式で商品を作るような、
淡々と単純作業を繰り返すマシンになったような気分にはならないのだろうか?
 
「その点に関してはすごく気をつけているんです。
そういう気持ちで縫製しないように。
例えばバッグなら、1つ1つすべてお客様が持ってくれることになる。
その人のことを具体的に想いながら、
そして、その人がバッグを持った時の気持ちを想像しながら作るんです。
やっぱり、しっかりしたつくりのバッグを持ちたいだろうから
『丈夫に』とか『丁寧に』、『この縫い目を綺麗に』という風に、
ひとつひとつの作業に心を込めます。
 
チェックもこまめにしていますし、
『持つ人の気持ちになってものづくりするんだよ~』
ってみんなでお互いに呼びかけながら。」
 

 


 
仕事に対する実直な姿勢は、「FUJISAN」という店名にも表れている。
 
「ものづくりの工程って、山登りに似てるんです。
コツコツと地道にものを作っている時は、上を上をと目指してひたすら山道を登っていく感じ。
作品が仕上がった時の達成感は、山のてっぺんにたどりついた時の感覚に似てる。
『やった〜!できた〜!』って、すっごく気持ち良い。
それで、『富士山』から名前をとったんです。」
 


 

 
仕事中はみな縫製に没頭し、おしゃべりも殆ど聞こえてこないが、
休憩時間になると急に女子校のような雰囲気になる。
 
楽しそうですねと言うと、全員が口を揃えて
 
「すごく楽しいですよ」。
 
少数精鋭のメンバーは、
智子さんの人柄に引き寄せられ、また、呼びかけに応じて集まってきた。
 
「きみこは高校の同級生。
前は他の会社に勤めていたけど、
結婚退職してから手伝ってくれてる。
 
るみこさんは私が以前勤めていた会社でずっと一緒に仕事してた仲間。
会社辞めてから実家の福井に一度戻っちゃってたんだけど、
『るみこさん、縫製でーじ上手だからずっと一緒に仕事したいなって思っているよ』
って福井にラブレター送って(笑)。
それで来てくれたの。」
 
仕事ぶりは真面目そのものだが、
店の雰囲気にかたい所はまったくなく、逆にほんわか柔らかいゆえんは、
スタッフの関係性にあるのだろう。
 
 



 
これからは、オリジナル商品にももっと力を入れていきたいと言う。
 
「メンズとレディースをバランスよく。
かばんやポーチみたいな小物も作っていきたいな。
腹巻きとか!可愛いんじゃない?
え? 沖縄でも必要だよ〜、冬寒いさぁ〜(笑)。」
 
このバランスなんだよな〜、と思う。
 
フレキシブルで、何物にもとらわれない価値観、
温かな人間性。
 
しかし、仕事となると妥協は許さない。
智子さんの目には、いつも登るべき山とその頂上がしっかり捉えられていて、
どんなに遠回りしても必ずその「てっぺん」まで登る。
いんちき、ごまかしは一切ナシ。
 
「こんな細かいところ、誰も見ないよ」
「ちょっとぐらいズレたって、仕上がりは変わらないでしょ」
 
と、耳元でささやく人は「FUJISAN」にはいない。
 
厚い信頼関係で結ばれた仲間と、今日も「てっぺん」を目指す。

写真・文 中井 雅代

 


FUJISAN(フジサン)
那覇市牧志3-2-33
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ブログ:http://fujisanfs.ti-da.net