天然素材が何種類も大胆に組み合わされ、カラフルで質感も多彩。こんなに表情が豊かなジュエリー、見たことない! ティーラ・アースのジュエリーを初めて目にしたときの印象だ。
「ジュエリー業界では通常、パールはパール、サンゴはサンゴ、という具合に素材を分けて扱います。ジュエリーのデザインもそうですし、お店も分かれていますよね。パールとサンゴと天然石。色も形も全然違うもの同士を並べるというのは、セオリーからは大きく外れているんです。でも、これが私たちのブランドの1番の持ち味なんです」
ティーラ・アースのデザイナー平良佳保里さんの話を聞いて、鮮烈な印象を受けた理由がわかった気がした。
オレンジに水色、ホワイトと紫。暖色のすぐ隣に寒色を置いたり、透明の中に不透明を混ぜたり。枝状のサンゴやいびつな淡水パールも、1つのジュエリーの上で踊るように列をなしている。それでも全体の姿はしっとり調和している。
これらの「Colors」というコレクションラインは、本店がある石垣島の色彩をイメージしてデザインされている。海や空、花咲く野山に広がる無数の色を再現した、繊細華麗なジュエリーだ。
素材同士をつなぐ金線細工の美しさにも目を見張る。絹糸のように細い金線が、小さな小さなチェーンを形づくってきれいに連なっている。とても腕のいい職人が、時間をかけて1つずつ丁寧に仕上げているのが伝わる。
「製作を海外に発注すればコストは抑えられますし、量もたくさん作れます。しかし仕上がりは今ひとつで……。金線の輪が不ぞろいだったり、石がしっかり固定されずグラついたりするんです。クオリティを守るため、制作にあたるのは社内で特訓を積んだ職人だけと決めています」
以前、テレビの通販番組で紹介され、注文が殺到したことがある。お届けまで1か月以上かかる忙しさだったが、社内生産の方針を貫いた。美しさだけでなく、その品質の高さも人気のゆえんなのだ。
「Yaima」コレクション。ヤモリやヒルギなどが愛らしくデフォルメされている。
燃えたぎる太陽を表す「Tiida」コレクション。
ゴールドやシルバーを使ったデザインモチーフも目を引く。題材は、亜熱帯の動植物から天空の太陽、星座まで…と、壮大なスケールだ。こんなにも広々と自然界に視線を投げかけるジュエリーとは、一体どうやって生まれてくるのだろう?
「東京にいた頃は、モノトーンの定番的なデザインが多かったです。石垣島に移住してから鮮やかな色を使うようになりました。生活環境ががらりと変わって、いつでも海辺や野原を歩ける日々ですからね。どこにいても花がたくさん咲いているし、空の色も綺麗で……」
その視線の先に、眩いばかりの色彩に満ちた風景が広がるのを感じる。
「砂浜はよく散歩します。子どもたちが拾い集める貝やサンゴのカケラを見て、新しいデザインを思いつくこともありますよ。イメージをふくらませて、それから素材を選んで。幸せな作業です」
島の暮らしは佳保里さんにたくさんのインスピレーションをもたらしてくれる。それは自然だけにとどまらない。マリッジリングに刻まれている『五つ四(いつよ)』の模様は、島の工芸であるミンサー織の伝統を受け継いだものだ。八重山に古くから伝わるこの模様は、いわば、切ない恋心の証。心ひと筋に、来世までも変わらずに愛してね――そんな意味が込められている。
「イチヌ ユーマデ」 (いつ(五)の世(四)までも)
五つ四とは、5つの四角形と4つの四角形からなる絣模様で、ミンサー織の特徴的な柄である。古来、ミンサー織は、女性が男性の求婚に応えて贈る契りの品だった。
「この模様に出会ったのは、結婚前で、八重山を初めて訪れたときでした。竹富島の民俗博物館でミンサー織を見て、そこに織り込まれた模様の意味を知ったとき、胸がキューンとなって。彼と結婚したかったんでしょうね、私(笑)」
その時傍らにいたのは、のちに夫となる石垣島出身の平良静男さんだった。
夫となる人の故郷の自然や歴史がもたらす、心震えるような感動。それが美しいジュエリーに結晶する。ティーラ・アースの魅力は、生で聴く音楽のようにリアルで、澄んでいて、作り手の胸の高鳴りがそのまま表れているところにある。
ショーケースを覗いてみると、予想外にリーズナブルな価格がついていることに驚く。フェイクには決してない本物の魅力を備えたジュエリーを、誰もがふと身近に感じるはずだ。 これなら若い世代でも買いやすいし、季節や服に合わせて集めることだってできる。
この価格設定にした理由は、「気負わずいろいろなジュエリーに親しんでほしい」という佳保里さんの思いにほかならない。確かに、1つ買うのがやっとの宝飾品を、服装に関わらず毎日つける…それは少し残念な話ではないか。
「ジュエリーとアクセサリーの中間くらいと位置付けています。なぜって、洋服を着替える感覚で、ジュエリーのバリエーションをもっと楽しんでいただきたいから。そうすることで全体の装いもぐんと素敵に変わっていく……そんなお洒落の広がりを、たくさんの女性に実感していただけたら嬉しいですね」
ジュエリーを選びにやってきた女性たちを、1人1人ゆったりともてなす佳保里さんは、本当に幸せそうに見える。
「お客様がジュエリーを身につけて鏡を見る、その瞬間の表情がとても好きなんです」
ジュエリーを通して出会う、ちょっと新しい自分。女性たちのそんな笑顔が佳保里さんの喜びであり、仕事の原動力だ。
「本当に、お客様に喜んでもらえるジュエリーを作りたい――」
佳保里さんの思いが募った経緯は、新卒で入社した大手のジュエリーメーカー勤務時代にまでさかのぼる。常に求められたのは、商品を効率よく大量に流通させることだった。
「いまの私は、好きなようにデザインの構想を練ってから、材料や価格を調整しています。だけど、通常のジュエリーの商品企画では手順が逆なんです。販売価格を設定するのが先。それからデザインをしぼっていくんです。私も、使う宝石や貴金属の種類と量をきっちり制限し、デザイナーに指示する立場にありました。疑問のようなものはありましたね。とにかく、無難によく売れる商品だけを作り続けなくてはいけないから」
その頃も質の高いルース(裸石=ジュエリーの材料となるカットストーン)の美しさに触れる喜び、業界知識を習得する充実感は大きかった。しかし、心のどこかで葛藤が続く。「もしも、もっと自由に仕事ができたら」そんな想像もしつつ、日々の業務をこなした。
その後、ルースの輸出入などを手がける会社に転職。そこで営業を担当していた静男さんと結婚し、フリーのジュエリーデザイナーに転身した。いつか、自分たちのブランドを持ちたい。そんな夢が生まれたのはこの頃だ。
「フリーとはいえ、取引先はメーカーや百貨店。やはり多くの制約の下でジュエリーをデザインする毎日でした。ジュエリー業界にいる間中、悩みはありました。本当に喜んでいただけるのか、いつもどこかで心配でしたね。『お客様が心から喜び、いつまでも愛してくださるものを作りたい』という気持ちが大きくなっていきました。だからジュエリー制作を学びに夜間のスクールに通い、より多様な素材の扱い方やデザインの技術を学んだんです」
佳保里さんがジュエリー制作に関するノウハウを着実に蓄積している間、夫の静男さんも仕入れや流通のルートと人脈を固めていく。やがてタイミングは訪れ、石垣島に店を構えた。
それから約8年、ティーラ・アースは観光客を中心に人気を集め、東京・伊勢丹新宿店や沖縄県内の名だたるリゾートホテルでも商品が販売されている。2012年には那覇市首里に2号店をオープンさせた。
直営の2店舗ではジュエリーが選べるだけでなく、リフォームや修理の相談にも応じてくれるもらえる。片方なくしてしまったピアスや、デザインを一新してみたいネックレス。手持ちの大切なジュエリーをよみがえらせるのも、ティーラ・アースの得意技なのだ。
また、首里店では月に1度、それぞれの月の誕生石を使ったワークショップを開いている。これも佳保里さんの「ジュエリーを気負わず、身近に」の思いから生まれた企画だ。
「お手本通りに作らなくてかまいません。石の形も、好きな種類を選んでみてくださいね」
肩の力を抜くよう促す言葉でワークショップは始まる。佳保里さんは、参加者が作るデザインを限定しない。ジュエリーは、リラックスして自由に楽しむことが何より大切。それを誰よりも知っているからだ。
どのようなデザインにするか皆が頭を悩ます様子に、佳保里さんが再度声をかける。
「石と石の間隔をきっちり同じに揃えなくてもいいですよ。ラフな感じに並べても、不思議といい感じに仕上がったりします(笑)」
細かなチェーンの目を数えようとしていた私の肩が、すっと軽くなった。形の違うガーネットを集め、不規則に配置してみる。すると、ネックレスの新しい表情が見えてきた。どこかいびつで、生き生きとして、何だか楽しい。そういえば、自然界ってこんな感じ。フワリと身をゆだねるように、イメージをふくらませる。佳保里さんはいつも、こうしてジュエリーの世界を飛び回っているのかも。
できあがった作品を最初に身につけるときのときめきは格別だ。このネックレスをつけて、服装ももうちょっと工夫して、今より素敵になれたら。鏡を見て、おのずと顔がほころぶ。あ、もしかしてこの表情が、佳保里さんの好きなもの?佳保里さんの原動力になる、みんなのシアワセな顔。
ティーラ・アースのジュエリーは、贈り物としてよりも自分のために買うお客様が多いという。何かの願いや、夢や、自分への励まし。いろんな思いをジュエリーに誓って、今日を生きる。そんな女性たちのひたむきな姿が、佳保里さんの軌跡と重なった。
文 大城こりん
Tilla Earth(ティーラ・アース)ウミカジテラス店
沖縄県豊見城市瀬長174-6-11
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