ふんわり風をふくんだようなショートスタイル。
襟足を残し、サイドにボリュームをもたせるひし形シルエットはクールな印象になりがちだが、
まるみを帯びたライン、くるんとした毛先でかわいらしい印象に。
「はねやすいのが悩み」という毛質を生かしてカット、
毛先を遊ばせることで動きが出て華やかに。
バックスタイルもエアリー感を重視。
首筋に沿うようにカットされた襟足が、
うなじを美しく演出。
風が吹いてセットが乱れてもまた、良い。
「カッコイイというよりは、
どこか可愛らしさのあるスタイルが好きなんです」
と、担当の島袋至史(ちかし)さん。
そのカットの腕前だけでなく、シャンプーの技術にも定評があり、
「シャンプーのご指名」を頂くことも多いと言う。
「特に変わったことをしているわけではないんです。
普通、頭が痒いと感じてかくところは、
頭のてっぺん付近よりもこめかみや襟足といった生え際が多い。
だからそこを丁寧に洗うとか…そういうことだけ」
本人はごく普通のこととしてやっていることが、
なかなか人にはできないことだったりする。
女性スタッフが少ないヘアサロン。オーナーの友男(ともお)さんは
「女性が少ないと大変じゃないですか?」
と言われることが多いというが。
「それがね、至史(ちかし)はたぶん女性以上に細やかだと思うんですよ。
気づかいが素晴らしい。だから特に困ることもなくて。
今は女性スタッフがどうしても必要だとは思わなくなりましたね」
「普段は人見知りする」という女性の表情もすぐにやわらぐ
「カットするときに最も気をつけているのは、
話し合いながら切り進めていくということ。
お客様もどうなるかわからない状態でどんどん短くされるのは不安ですから、
相談しながら、方向性を一緒に決めていきます。
だから僕が一人で仕上げるというのではなく、
一緒につくりあげるという感じでしょうか」
不安感を抱かせないように…
常に心配りを忘れない至史さんらしい答えだ。
県内屈指の進学校の出身で、
同級生たちがみな大学を受験する中、ひとり美容学校を受験した。
当時は美容師ブーム。
カリスマ美容師をとりあげる番組に夢中になった。
「単純に『カッコイイ!』って思っちゃって(笑)
でも、実際入ったらそんな華やかな雰囲気じゃない。
美容師を目指す人はみなそうだと思いますが、
アシスタント時代は何度も辞めたいと思いました」
それでも辞めなかったのは
「意地、ですかね。
途中で投げ出すのだけはイヤなんです、どんなことでも」
どんなに厳しい店でも、すぐに辞めることはなかった。
人当たりの柔らかさに加え、
芯の強さも兼ね備えている。
至史さんは2人の姉をもつ3人姉弟の末っ子だ。
「だからかな、私にとっては本当の弟みたい。
うちも姉弟構成がまったく同じなの」
と、スタイリストの麻紀子さん。
「至史はお姉さんが二人いるからね、女性への接し方がすごく上手。
話し方も優しいし、育ちの良さがにじみ出てる。
バリッバリのハードな美容師っていうタイプじゃないから、
お客様も至史が相手だと緊張しないみたい」
「そうそう、お客様のお子さんの塾の話題とかでもよく盛り上がってるよな!
『あっちの塾は上等ですよ〜』みたいな感じで。
お客様も至史と話してるとめちゃめちゃ楽しそうでさ、
そういうところ、俺は絶対かなわないんだよ」
と、友男さん。
「マリンスポーツをするので前髪はいずれまとめられるように伸ばしたい」という言葉から趣味の話題へ。その顔にはもう緊張感はない
長く辛いアシスタント時代を経て、スタイリストとして活躍する今、
仕事は楽しいですか?と訊くと、満面の笑みでうなずいた。
「一番嬉しいのはカット後にお客様の笑顔が見られたとき。
ご満足いただけた時にはやはりお顔に出ますから。
それは僕一人の力ではなく、お客様とともに達成した結果なので、
『一緒にやり遂げた!』
っていう喜びを分かち合える。
続けてきて良かったなって心から思える瞬間ですね。
何日か経ってから
『髪型、まわりからの評判もいいですよ』
なんて言われたらもう、最高です」
同級生との酒の席では、仕事の話になることも多い。
「医療関係の現場で働く友人が多いのですが、
お客様に一対一で向かい合うという点では美容師の仕事も同じ。
担う責任の重さを考えると、僕も負けていられないなと思います」
セットをする至史さんの手つきを麻紀子さんが優しく見守る
襟足をまとめたアレンジ。
サイドもバレッタで留め、すっきりと。
全体的にコテで巻いて華やかさをプラス、
前髪はゆるく編みこんで。
お出かけにもフォーマルにも使えるアレンジ。
ヘアアクセサリー:LunyA(ルーニャ)
「今日は楽しかった! またお願いします」
と、彼女は笑顔で店をあとにした。
「近所のお兄さん的な美容師がいてもいいんじゃないかなって思うんです」
と、至史さんは言う。
今後の展望を訊いた質問に対する答えだ。
カットやパーマ、カラーといった技術面に関する抱負や意気込みを予測していたが、その答えのやわらかさ、屈託のなさに思わずほほえんでしまう。
「お店を出た後出かけたくなるような、
『カワイくなった、変わった』そう思えるスタイル提案をしていきたいですね」
改めてそう語ったが、その目標はすでに達成できているのかもしれない。
笑顔を残して去って行った彼女の後ろ姿を見送りながらそう思う。
指導の厳しさを自認する友男さん曰く、
「至史を叱ること…今はもうほとんどないけど、あるとしたら
『もっとグイグイ来いよ! 来ていいんだよ!』 ってことぐらい」
「至史は優しいからね、控えめだし。
でも、そこが良いところでもあるから」
と麻紀子さん。
柔らかさと芯の強さを兼ね備えているだけでなく、
努力の人でもある。
撮影当日、鏡の前には至史さんが描いたヘアスタイルのラフ案が何枚も束ねられて置かれていた。
「昨日はすごく緊張して…あまり眠れなかったんです(笑)」
頼れるアニキ的な友男さんとは対照的に、
優しい弟的な至史さんだが、
磨き抜かれた技術とセンスの良さに加え、天性の優しく穏やかな人柄、
誰に対しても等しく誠実な対応。
沢山のファンがいて、至史さんを指名するというのも納得できる。
同級生たちのように医者になっていたとしても、きっと人気だったろう。
「この人にならまかせられる」
そんな安心感を、至史さんは与えてくれるから。
写真・文 中井 雅代
Hair Salon Boyfriend ボーイフレンド
住所: 沖縄県那覇市久茂地1-3-6 MAP
電話:098-861-1393
定休日:火曜
営業時間:平日11:00~21:00
土曜10:00~20:00
日曜.祝日10:00~19:00
HP:http://boyfriend-naha.com
ブログ:http://boyfriend.ti-da.net
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