陽の光を受けてきらきらと輝くのは、オーナーシェフ自慢のデニッシュ。
さっくりふわふわの生地と、肉厚なフルーツ、濃厚なクリームが特徴的だ。
デニッシュ生地のおいしさは評判で、シンプルなクロワッサンのリピーターも多い。
ハード系のパンがほとんど見当たらないのは、オーナー・津山力(つやま つとむ)さんの好みによるところが大きい。
「パン職人として長いこと働いていますが、実は硬いパンがあまり得意ではなくて…(笑)。
それに、ご年配の方は特に柔らかいパンがお好きでしょう? 幅広い年齢層の方に喜んでいただきたいので、ソフトな食感のものを作ることが多いですね。
僕自身、おばあちゃんっ子ですし(笑)」
2013年6月、新たに整備された那覇市真嘉比地区に、瀟洒な佇まいのブーランジェリーがオープンした。
「外観が素敵だから」と何気なく足を踏み入れた人の多くが、間をおかずに二度三度と訪れることになる店だ。
津山さんは、那覇市内のホテルのベーカリー部門でパン職人として働いた経歴を持つ。
それを聞くと、Petit Dejeune(プティ デ ジュネ)に並ぶパンが、どれも独特の気品を漂わせているのも納得だ。
見た目がまず、美しい。
シンプルなバケットは完璧な焦げ目をまとい、デニッシュには注意深く粉糖がふりかけられている。
素材選びにも手を抜いていない。
「口に入れるものですから、見た目の美しさだけでなく安全性にもこだわっています」
生地に紅芋をふんだんに練りこんだ色鮮やかな紅芋食パンや、県産ウコンを使用した特製カレーパン。シークワーサー果汁を使用してさっぱり仕上げたシークワーサーブリオッシュなど、どこかに「沖縄らしさ」を表現することも忘れてはいない。
また、あんこやカスタードは長時間かけてじっくりと炊き、カレーパンのカレーやライ麦パンに入れるドライフルーツも自家製を貫く。
津山さんがホテルで働いていたころ、そのパンに魅了された人がいた。
現在、Petit Dejeune のカフェオーナー・金城友紀さんだ。
「仕事の打ち合わせなどで、津山が働いていたホテルをよく使っていたんです。
デニッシュが特に好きで、どれも宝石みたいに輝いて見えました。
打ち合わせのお相手も喜んでいただくことが多く、私はそこのパンのファンだったんです」
と、金城さんは語る。
後に、そのデニッシュを作っていたシェフこそ、偶然同じスポーツジムに通っていた津山さんだったことを知ったと言う。
カフェコーナーが併設されており、買ったばかりのパンをすぐに味わえる。「金城がこだわり抜いたパンケーキや、ローフードマイスターの資格を持つスタッフ・長嶺が毎日店でブレンドするスムージーなど、カフェオリジナルメニューも充実しています」朝からオープンしており、朝限定のモーニングセットやトーストセットも人気。
カフェメニューのパンケーキ。「ほどよい厚みにこだわった」という2枚のパンケーキの間には、自家製カスタードをたっぷりと。それがチョコバナナと生クリームによく合う。ケーキのような華やかさとリッチな味わいを両立した、食べごたえもたっぷりの一皿。
金城さんは大手化粧品会社にて web マーケティング責任者、お客様相談室のマネージャーを経験し、30歳で独立。ヒーリングサロンや児童英会話教室、web関連事業と様々な業種で会社を立ち上げた経験があった。
いずれは自分の店を持ちたいという津山さんに求められて、起業についてアドバイスをしているうちに、金城さんはあることに気付いた。
「私はもともと人をおもてなしすることが大好きなんです。
サロンの仕事では癒やしを提供し、英会話教室でもおやつと飲み物を出して喜んでいただいていました。
津山と出会った頃はちょうど、自分自身が大好きなパンケーキ作りにハマっていたこともあり、『食べること=癒やし』だなーと考えていた時期だでした。ですから、お客様がゆったりくつろげるカフェが開けたらいいなと漠然と思っていたんです。
津山はベーカリー、私はカフェと異業種ではありますが、話を聞いているとコンセプトはそう遠くない。それなら一緒にやろう!ということになって」
2012年10月に出会ってからトントン拍子で話が進み、1年も経たぬうちに店がオープンした。
好きなパンを選んで詰めるギフトボックスは、手土産としても重宝する。
「最近はわりと素朴でナチュラルなパン屋さんが増えているように思うのですが、私たちはその逆を行こうと思っています。
店やパンのヴィジュアルも、見ただけで『きゃーっ!』とテンションが上がるような雰囲気にしたくて」
津山さんは、茶や白といったどこか単調な色彩になりがちなパン作りの世界だからこそ、あえて色どりに重きを置き、独学で色彩学をマスター、店のテーマカラーをも明確に決めていた。
一方、金城さんもイメージコンサルタントの資格を有し、色についての豊富な知識を蓄えていた。
2人が作りあげた空間は確かに、一般的なパン屋というイメージからは外れている。
そして、かわいいものに目がない女性たちをひきつけている。
実際に運営を始めると、津山さんはこれまでは得られなかった新たな喜びを感じるようになったと言う。
「ホテルにいたころは、奥で黙々とパンを作っていたので、お客様の反応を目にする機会がほとんどなかったんです。でも作り手である以上は、やはりお客様の笑顔が見たいし喜んでいただきたいんですよね。
今はお客様の反応をダイレクトに感じることができるので、それがやり甲斐にもつながっています」
「パンを褒められたら、すぐに津山に伝えるようにしています。店頭には私が立っていることが多いので、『今まで食べたどのクリームパンより美味しいと、お客様の5歳の息子さんがおっしゃってたって!』という風に(笑)」と、金城さんも語る。
Petit Dejeune は、津山さんと金城さんがそれぞれもつ長所がいかんなく発揮されている空間だ。
それを証明するエピソードを、津山さんは次のように語ってくれた。
「金城は、来店したお客様の顔と購入なさったパンを絶対に忘れないんですよ。
『先日は◯◯をお買い上げ頂きましたよね』という風にお客様によく話しかけているので、毎回驚かされます。
さすが、もてなしのプロだなと感じますね」
また、金城さんは津山さんについて次のように語る。
「ある意味、職人さんぽくない人なんです。
職人って、こう決めたら譲らないというような強いこだわりを持っているイメージがあるのですが、彼は柔軟。
『こうすればお客様にパンのフィリングが見えやすくなって美味しそうに見えるかも』と提案すれば、早速次の日からすぐ形を変え、よりよいものに仕上げて出してくれます。
自分がこうしたい! というこだわりよりも、現場の声やお客様の事を何よりも考え、即実行してくれるんです。
そんな豊かな発想力と実行の速さに、本当に仕事のできる人だな、と感じますね」
左から津山さん、金城さん。
今後は焼き菓子にも力を入れたいと津山さんは言う。
「ホテルに勤めていた時も、ケーキ部門を手伝ってよく焼き菓子を作っていたんです。クッキー・パウンドケーキ・シュークリーム・ロールケーキなどもお出しできたらいいなと考えています。
また、シークヮーサーやドラゴンフルーツ、パッションフルーツなど、沖縄ならではの食材も積極的に取り入れていきたいですね」
知り合ってわずか1年足らずで店をオープンさせた二人だが、お互いを尊重しあっている雰囲気がしっかりと伝わってくる。
パンに関しては津山さん、サービスと経営については金城さんと、役割をしっかり分担し、自身の仕事に徹している。
「協力はし合うけれど、信じて任せること。
そこを大事にしています。
私たちはお互いが持っていないものを持っているので」
最上級のパンとおもてなし。
2人のプロフェッショナルが、それを1つの店で実現している。
写真・文 中井 雅代
Boulangerie cafe Petit Dejeune(ブーランジェリー プティ デジュネ)
那覇市真嘉比188-38 TNセゾンライトビル1F
098-886-4222
open 7:00〜18:00(オープン時間は変更の可能性あり)
close 日
※パンは売り切れ次第終了
ブログ http://petitdejeune.ti-da.net
facebook https://www.facebook.com/petitdejeunecafe