ベトナムバイク屋台 CƠM NGON(コムゴン) 3日をかけて作るサックリパンが、たくさんの具材のまとめ役。空の下でいただく、お食事バインミー。

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バインミーって何? ベトナムのサンドイッチ?

 

ピンとこなくとも大丈夫。ガブリと一口すれば、その「?」はすぐに飛んで行ってしまう。

 

「車麩をそのまま食べた時みたいに、うちのパンはサックリしてるでしょ?そのサックリ感の狙いは、具材の食感を邪魔しない、そして一口でパンも中身も同時進行で頬張れるところなんです」

 

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バインミーが看板メニューのコムゴンの店主、岡崎リュウマさんの言葉になるほどそうかと、膝を打つ。

 

チキン、豚パテ、野菜、野菜、ハーブ、シーズニングに再び野菜と半熟たまご。そして、おまけに紅白なます!こんなバラエティに富んだ面々を見事に挟み込むのは、手作りパンの底力だ。

 

「時間やスペースの関係で、パン作りは3日はかかるけど、手間は惜しくないんです。パン自体が柔らかくなるお陰で具材とのまとまり感を出せるようになってきたから。フランスパンはバリッとした外側が良しとされるけど、本場ベトナムのバインミーのフランスパンは、おやつ代わりに食べることもあるから軽めが好まれるんですね。僕の中では、その軽さは車麩みたいな感じで、サクサクした柔らかさで具材ぜーんぶを受け止めるような存在なんです」

 

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フォー以外は持ち帰り可能

 

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パンの話が始まると、その口調は熱を帯びていく岡崎さんだが、意外なことに外注したパンでバインミーを作っていた時期があったという。それを一変させたのは、岡崎さん曰く、奇跡が降ってきたことだった。

 

「それまでオフィス街などで移動販売をしていて、パンはパン屋さんのものを使っていたんです。だけど、奇跡が起きたんですよ!ほんと急に、大家さんの計らいで自宅前のスペースを使わせてもらえる事になって。ちょうど、うちの嫁ちゃんからも赤ちゃんがもうすぐ生まれるんだから、自宅で仕事をしてほしいって頼まれていたタイミングとも重なって、念願だった店を持てる事になったんです。しかも、バインミーの個性をパンで出したいと考えていたから、自宅ならオーブンあるんだし、自分でパン焼きできるじゃんって。経験はなかったけど、問屋さんから小麦を仕入れると、そこの指導員の方がパン焼きのイロハを教えてくれるって聞いていたから、やりたいパンがすぐできると思っちゃったんですね」

 

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しかし、まさかの言葉が岡崎さんに向けられた。

 

「指導員の方は『このオーブンじゃ無理、無理』ってあっさり帰っちゃって。完全に受け身のアタマでいた僕は、その言葉にはフリーズしましたよ。『これはガスオーブンだから温度をバッと上げるお菓子作り向きで、石窯のようにじんわり温度を上げるパン作りには不向きです』っていうんです。だから、そこからは一人でジタバタしましたよー。もうやるしかなくって」

 

そんな窮地が、岡崎さんを奮起させた。頼れる人がいない崖っぷちからのパン作りが、こうして始まったのだ。そして真っ先に取り組んだのは、問題のオーブンからだった。

 

「一般的にガスオーブンってファンを回して熱風を満たすことで一気に高温にできるけど、反面、そのファンのせいで温度キープ出来ないんです。なんとかそこを克服しようと、たどり着いたのは石焼ビビンパの原理。どういう事かというと庫内の3段全てに石を敷き詰めて、マックスの300度の温度にあげてから、石が蓄えてくれた熱気と、そこに水を注いで水蒸気の力でもって、パンを膨らませる要領なんです。だけど、その時もネックはファンなんですよ。ただ電源をオフにしても、ファンは回り続けちゃうから、コンセントごと抜いてファンが回らないようにして高温を保ちつつ焼き上げます。この柔らかいバインミー専用のパンまでくるのにオーブンの扱い方から考えさせられましたね」

 

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そして次に手をつけたのは、サックリした食感につながるパンの膨らみを実現することだった。そこで岡崎さんは、25キロ以上の小麦を使い果たすまで黙々と試作に暮れたという。

 

「当初の生地は、焼く前に入れる切れ込みは3本で形はクッペ型。でも、具材と一緒に食べた時の一体感を求めたら、もっと柔らかく軽いサクッとした口当たりパンが必要でした。それには焼いた時の生地の開き、つまり膨らみが欲しかったんですよね。修正を重ねるうちに、切れ込みは一本で形はラグビー型っていうのに落ち着いたんですが、切れ込みの数や深さのベストを見つけるにも、簡単ではなくって。パンの基礎本を何度読み返してもどこが悪いのかも検討すらつかない日々でしたね。本の中の説明と写真の間にある『載っていないけれど、重要な何か』を見逃しているんじゃないかって、手探りを続けるしかできなかった。だから本当に小さなことを一つずつ発見して、理想とするパンの柔らかさと、失敗作とのミゾを詰めていくことで今の形になってきたんです」

 

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ゼロから始めたパン作りが徐々に実を結び、岡崎さんが追い求めるバインミーにまた一歩近づいた。それはベトナムの方も驚くほどの、具沢山なバインミーだ。本場では軽食寄りでシンプルな中身だが、ここではお食事バインミーとしてメニューに並んでいる。

 

「『色々な味がするね~』『このボリューム、食べきれるかなって思ったけど、ペロリといけました』ってお客さんは言ってくれます。うちの特徴のもう一つは具沢山なところだから、そう言ってくれると嬉しいですね。挟んであるのは、県産無農薬のものを中心に玉ねぎ、ニラ、きゅうり、トマト、その時期の葉野菜で今だとハンダマや生食用ほうれん草なんかです。あとは、同じく県産パクチーやミント、紅白ナマスとカリカリの半熟卵、そして5種類のシーズニング調味料。鶏油や豚パテ、チキンソテーはうちで作っていますよ」

 

岡崎さんの具材へのこだわりは、その数だけではない。食べた時の旨い!につながっていく心憎いこだわりが、各所にサラっとほどこされている。それらは、美味しく最後まで食べて欲しいという想いが発想の出発点だ。

 

「お客さんが食べだしたら、あとは口が勝手にモグモグ進んじゃうっていうの、いいですよね。そうするには一口目から最後の一口までを楽しめないとダメかなって。だからパテは、パンの両端に塗ってお出ししてるんです。理由は、どうしても具材はパンの端っこに挟みにくいから。一口目からしっかりとバインミーの要素を味わえるようにっていう気持ちからやってます。あと、紅白ナマスは揚げ春巻きのタレにも使ってますが、そっちはあくまで春巻きのパリパリが主役だから、そこでは細かいナマス。バインミーでは、適度に主張できるように大きめカットのナマスとか。どこをどんな風に食べても美味しさを感じてもらえて、食べる楽しさが出せたらいいなと思ってね」

 

所詮サンドイッチ、ただ具材を挟んだだけでしょ?と言わせない工夫は、挙げればキリがない。全ては一体感を生み出すためのものだ。

 

「口の中の一体感はチキンにしてもそう。しっかり胡椒などで味付けしたチキンを一晩寝かせてから、鉄のフライパンでしっかり表面を焼き付けてロースト、その後コチコチになる直前まで冷凍するんです。そうすると、口の中で邪魔しない薄いスライスができて、その薄さが口どけにもつながっていく。些細なことだけど、しっかり焼き付けるにはオーブンじゃダメだし、凍らせすぎても良くない。その加減の積み重ね全部が、うちのバインミーなんです」

 

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場所の問い合わせもお気軽にと、岡崎さん

 

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ベトナムコーヒーのコンデンスミルクも手作り。お好みの濃さになるようにかき混ぜて

 

小さいながらも、的確なこだわりの集大成がコムゴンのバインミー。しかしその周到さとは裏腹に、店がまえはラフなもの。古民家前の空き地での屋台だ。

 

「ベトナムからの留学生さんも、ここは自分の地元みたいって言って喜んでくれます。現地では、大抵はバインミー屋台にバイクで乗りつけて買った袋をそのままハンドルに引っ掛けて、走り去っていく感じですからね。だから、うちも肩肘張った感じは出したくなくて。大通りから少し奥まった所にある、この賑やか過ぎないザワザワした感じの中、客席は屋外で、パラソルとアウトドアチェアでやってます。『これがなんか落ち着くんだよな』って、おっしゃってくれるサラリーマンの方や観光の方も多いですよ。バインミーとビールで休日の遅めの朝ごはんだったり、夜風に吹かれながらゆったりしたりね」

 

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屋根や壁がないから、空と風がある。そして渾身のバインミー。

 

「僕が目指すのは、お客さんのバリアを取っ払ってもらうこと。だから、僕もちょび髭でふざけた感じにしてね。『よし!バインミー食べに行くぞ!』じゃなくて、『そうだ!バインミーでも食っていこうか』と通りすがりに立ち寄って、一息ついてもらえたら、しめたものでしょ?」

 

そういたずらっぽく話す岡崎さんにとって、お客さんの心の声『屋台のクセにすごいね!』は最高の褒め言葉。いい意味でのギャップも噛みしめられる醍醐味は、コムゴンだから味わえるもの。目印のバイクなしでは、きっと通り過ぎてしまう店先で味わうバインミーは、なるほど旨くて心地よいはずだ。

 

文/松本都
写真/金城夕奈

 

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ベトナムバイク屋台 CO’M NGON(コムゴン)
那覇市壺屋1-34-8
070−5815−8103
https://www.facebook.com/ngooooon/
※イベント出店等でお休みすることもあるので、ご来店時にFBをご確認ください。
※駐車場がございませんので、お手数ですがお近くのコインパーキングをご利用下さい。最寄り駐車場は、マクドナルドひめゆり通り店のコインパーキングです。