のどかな農村地域に突如あらわれた、愛らしいパーラー。
その奥からは、様々な素材の香りが入り交じった香ばしい匂いが漂い、鼻孔をくすぐる。
「野菜とスパイスのみでルーを作る『酵素玄米カレー』がお勧めです。水はほとんど入れず、野菜から出る水分で作っています。
完成したときは、『これは肉入りカレーを超えたな』と(笑)」
一口食べると、ピリッとスパイシーで、深みのある味わい。
試行錯誤を重ね、完成までに約10年を費やしたという一皿は、誠さん自慢の一品だ。
「このカレーを召し上がった多くの方がリピーターになってくださいます。
小麦粉を使っていないので、小麦アレルギーの方でも食べられるんですよ」
東京で10年ほどバーテンダーとして勤めていた経歴を持つ誠さん。カレーを作り始めたのもその頃からだと言う。
「バーテンというとお酒のイメージが強いかもしれませんが、お酒を作るのは、フードメニューをすべて作れるようになってから。お酒は料理に合わせるものだからです。
その店の看板メニューがカレーでした。
厨房で働いていたスリランカ人のレシピをアレンジしたチキンカレーがすごくおいしくて。
当時のレシピにさらにアレンジを加え、野菜のみで作る今のカレーにたどりつきました」
カレーに合わせるご飯は、妻のえりなさんが作る酵素玄米だ。
「色んなご飯を試しましたが、酵素玄米と合わせたときに『これだ!一番おいしい』と夫婦で意見が一致して」
プチプチとした食感やコクのある味わいが、野菜の旨味たっぷりのカレーにぴったりと合う。
普段から発酵食品を手作りしているえりなさんは、様々な情報を参考にしながら独自の方法で酵素玄米を作っていると言う。
「豆を10種類ほど入れています。そうすることで玄米もカレーもよりおいしく食べることができるから。
また、すべてのメニューに共通していることですが、なるべく沖縄の旬のものを使って作るよう心がけています。
これからだとパパイヤが出てくるので、ピクルスを作るのが楽しみですね。パパイヤのもつ自然な甘みが全面に出てくるので、すごくおいしいんですよ」
さとうきびだけで作るジュースも絶品だ。
強い日射しに照らされる沖縄の夏にぴったりの、すっきりとした甘さがこの上なく心地よい。
砂糖の原料だからと、濃厚で甘ったるい味わいを想像していたので、そのさわやなかな喉ごしに驚いた。
甘みだけではなく、レモンのような酸味や、わずかながら海水のようなしょっぱさも感じる。
入っているのは本当にさとうきびだけ? と、つい疑いたくなるほど、その味わいは奥深い。
「ミネラルなどの様々な栄養素を、さとうきびが土の中から吸い上げているからかもしれないですね」
使用するさとうきびにもこだわっている。
「無農薬で育てている農家さんに人づてに出会うことができたんです。
さとうきびの収穫時期は1〜3月。今はその時期に収穫し、冷凍保存してあるものも使っています。
味をみながら調整し、通年ご提供できたらいいなと考えています」
専用の機械にさとうきびを一本ずつ入れていく。
しっかりとした太めのさとうきびでも、わずかなジュースしか搾れない。次から次に機械へと入れていく。
Parlour de jujumo を営む二人は、音楽ユニット「jujumo(ジュジュモ)」としても活躍している。
店を出すきっかけとなったのは、このパーラーとの出逢いだった。
「知り合いの持ち物だったのですが、当時は物置きのようになっていました。
でもすごく可愛らしい形だったし、持ち主が譲ってくれるとおっしゃったので、頂くことにしたんです」
料理上手な誠さんは、それまでもイベント等でカレーを作ったことがあり、「おいしい」と好評を得ていた。
「お酒も作れるし、いつか店をやってもいいなーと考えたことはありました。具体的に計画していたわけではなかったのですが、パーラーを譲っていただける話や、実家の駐車場の幅とパーラーのサイズがピッタリ合ったことなど諸々の条件がうまく重なって、店を出せる環境が整ったんです」
譲り受けたパーラーを豊見城市の「数珠森(じゅずのもり)」の麓にあるえりなさんの実家へと運び、駐車場に設置。自身の手で改装し、2013年3月にオープンさせた。
数珠森は、音楽ユニット名「jujumo」の由来となった森でもある。
パーラーの裏手にある実家の庭で穫れた、バジルやイタリアンパセリを刻む。
春休み、お昼ご飯代の500円を握りしめて毎日買いに来る小学生もいたというほど人気なのが、ベジタブルバーガーだ。
「野菜しか挟んでいないのに大人のファンの方も多くて。
『これまで食べたバーガーで一番おいしい』という嬉しい声もいただきました。
自家製ハーブを使った豆乳マヨネーズが効いてるんです。
イタリアンパセリとバジル、季節になるとフェンネルも入ります。そこに豆乳、レモン、オリーブバージンオイルなどを加えて作っています」
挟んでいる葉野菜は、えりなさんの祖母が庭で作っているものだ。
「あたいぐゎー(家庭菜園)で完全無農薬で作っています。毎日朝晩、祖母がピンセットで一匹ずつ虫をとっているんですよ」
惜しまず手間ひまをかけている。だから、生き生きとした野菜の味わいが楽しめる。
バンズには、八重岳ベーカリー(関連記事:こころとからだが喜ぶパン。天然酵母パンと30年以上作り続ける黒パンで健康と幸せに導く)の全粒粉パンを使用。みっしりと目のつまった生地は重量感があり、野菜やマヨネーズの水分を吸ってもしんなりしないため、バンズに最適だ。
「ハーブチーズだけが動物性の食品なのですが、ご要望があればチーズは抜いてお作りすることもできます。そうすれば完全なベジバーガーに。
バーガー目当てに遠くから来てくださる方もいらっしゃいます」
「アイスコーヒー3つ!」セラードコーヒー(関連記事:思わずがぶ飲み、コーヒーの旨味引き立つカフェラテ)から仕入れた豆をその場で挽いて淹れてくれる。
農地に囲まれた静かな場所にある Parlour de jujumo 。
近所に住むおばあさんや子どもたちも常連客だ。
「子どもたちが気軽に来られるような場所でありたいと思っています。
いずれはパーラーの裏手にある庭の一角に小屋を建て、イートインスペースにしたりワークショップをしたりするのもいいなと思っています。
子ども連れでパーラーでゆっくりするのは難しいけれど、庭ならのんびりできるかなーと思って。
また、落ち着いて来たらナイトパーラーもやってみたいですね。
お酒やおつまみを作って、庭でみんなでワイワイと。楽しそうじゃないですか?」
メニューはいずれもテイクアウト可能。
Parlour de jujumo の朝は早い。7時からオープンし、13時まで営業。
午後は音楽活動に専念するためだ。
早朝から開いているため、出勤前に利用する人も多い。
「コーヒーを買って出勤される方や、ランチ用にとカレーをテイクアウトなさる方もいますね。
ゆくゆくはお粥の朝食もご用意したいと思っているんです。
僕は5歳から5年ほど香港で暮らしていたのですが、お粥は身体への負担も少ないし、単純においしい!
これから仕事に向かう方にも、ゆっくり朝食を楽しみたい方にも喜んでいただけると思います」
初めて訪れるひとたちは、口々にこう言う。
「店の前を通る度に気になってたんです。
完成する前から『これ、何屋さんになるんだろう?』って」
Parlour de jujumo は道路沿いに建っている。
のどかな風景の中に突然現れた可愛らしい小さな箱は、その前を毎日通る人々にとって非常に気になる存在だったようだ。
「パーラーって、僕らとお客さんが話しやすいだけでなく、お客さん同士でも会話が生まれやすい形だと思うんですよ。
オーダーしたものが出てくるのを隣り合って待っている間、どちらからともなく話し出して。
そういうのも素敵だと思うんです」
人との繋がりを大切にする2人が営む店。
数珠森の麓で、パーラーの存在感は少しずつ、確実に大きくなっているようだ。
Parlour de jujumo
豊見城与根490-3
080-4278-8150
open
平日 7:00〜13:00
週末 11:00〜16:00
close 不定休
駐車場あり
※ミュージシャンとしての活動もあり、不定休となっております。
早めにブログや、店頭にてお休みのお知らせをしておりますが、来られる際にお気軽に電話で確認してもらっても大丈夫です☆
http://jujumo.sblo.jp
http://juzunomori.blog.fc2.com