その厚みと背の高さに思わずはっとする。
「ころんとした」とか「可愛らしい」なんて形容では収まりきらない、
「どっしり、存在感たっぷり」なロールケーキ。
黄味がかったスポンジからは、卵の香りが立ちのぼる。
「カステラみたいでしょ?(笑)。
はちみつも入ってるし。
私がカステラ大好きだから、こういうロールケーキになったんかも。」
上から押したフォークを押し返してくる弾力性。
しかしフォークを入れると、空気を含んだ生地は予想外にふんわりしている。
ぎっしり目のつまった生地の見た目からは想像ができないほど、
しっとりとした食感、
そして、新鮮な卵の風味。
「大里の知念兼一さんという方が無農薬の野菜くずでニワトリを育てていて。
その卵を使っています。
私、鼻がよくきくほうで、
普通の卵は混ぜているうちに薬の匂いがしてくるんだけど、
知念さんのはどれだけ混ぜても卵の香りしかしない。
すごい卵なんですよ、ほんと。」
卵そのものもLLサイズほどの大きさがあるが、
「一本のロールケーキに対して卵6個使ってます。
料理本を見ると一般的なロールケーキは3個くらいみたいなので、
倍使ってることになりますね。」
クリームも美味しくて驚く。
もったり感のない、さらっとした上品な味わい。
「上白糖じゃなくてきび砂糖を使ってるからかな?」
それにしても、なんと食べごたえのあるロールケーキ。
まるでご飯みたい!
「ふふふ。結構お腹いっぱいになるでしょ。」
食べた人々がそろって絶賛する、
こんな絶品ロールケーキをさらりと出すオーナーの近江(ちかえ)さんは、
「日常の逃げ場みたいなところが作りたかったんです。」
と微笑む。
– – – うちの店は長居ありき。普通に1〜2時間とか。
仕事の後、家に帰る前にちょっと頭切り替える場、みたいなんが良くて。
自分はカフェってそういうところかなと思ってて。
家の雰囲気とはちょっと違う場所。
だからいっぱい本も置いてるんです。
ここにある本はうちから持って来たものがほとんど。
小さい頃から本がめちゃくちゃ好きで、
集めてたものを持ってきただけ。
だからおしゃれな本が全然無い(笑)変な本しか。
カフェなのにね、学研の図鑑とかマニアックなんばっかり。
最近はお客さんが
「漫画もってきていい?」
って持ってきて置いてったりね。
さらに漫画喫茶みたいになって(笑)。
でも、よくみたら面白い本いっぱいあるんですよ。
お勧めしたいのもたくさん。
古い料理本とかめっちゃ可愛い。
店作りはお客さん目線で進めてきました。
「自分やったらどんな店来たいかな」って考えて。
だから、うちは長居ありき(笑)。
みんな長いですよ、1〜2時間とか普通。
ゆっくりしに来て欲しいから、それで全然オッケー。
そんな忙しいお店じゃないから、外から見たとき誰か人がいてくれた方が入りやすいし。
そのかわり超放置ですよ(笑)。
私も裏でご飯食べたりとかしちゃう。
そんなんでよければもう、何時間でもどうぞ〜って感じです。
– – – コーヒー派から紅茶派に。その面白さに目覚めてからはだだハマり(笑)。
沖縄来る前はOLしてました。
お菓子作るのはずっと趣味で、
普段から家で作って友達にあげたりしてた。
OL辞めてから1年半くらいイタリア料理屋で働いてて、
そこで出してた紅茶がむっちゃくちゃ美味しかったんです。
それまではずっとコーヒー派やったんやけど、
「紅茶っておいしいんやー」
と思って飲むようになって、そっからハマっちゃって。
紅茶マイスターみたいな資格を取ったら更にだだハマり(笑)。
いつかお店はやりたいと思ってたし、
やるなら沖縄でと決めてた。
4年前に移住してきて別の場所でオープン、
3年やってたんやけど、今年こっちに引っ越して来て再出発。
今お店では20種類くらい紅茶出してます。
– – – 新芽がいっぱい、新鮮な茶葉を丁寧に淹れてるから美味しい。
紅茶は「GMT」っていう神戸の紅茶専門店から譲ってもらってます。
そこのオーナーさんは半年に一回スリランカとインドに紅茶のオークションに行って、そこから直接買ってて。
紅茶はやっぱり鮮度が命。
普通に流通してるのは、間にいろんな業者が入ってるから、
摘みとられてからどうしても1年後とかになるんだけど、
そういう仲介がはいらないからすごく新鮮。
袋を開けて嗅いでもらったら全然違いますよ。
白っぽい新芽もいっぱい入ってて、
すごく良い、甘い香りがするんです。
お水も、うちの店は軟水を使ってて。
例えばイギリスは硬水なんやけど、
硬水だと抽出が遅くて苦みとかがなかなか出にくいから
ポットに茶葉入れっぱなしで飲んだりする。
でもうちは軟水を使って、きっちり時間計って、
渋み、苦み、甘みがちょうど抽出できる時間に濾してお出ししてます。
茶葉によってそれぞれ必要な時間が全然違うんです。
以前、チャイのワークショップをやったら結構評判が良かったので、
慣れたら紅茶のワークショップもできたらなーって思ってます。
やっぱり、紅茶の美味しさをたくさんの人に知ってもらいたいから。
島らっきょうと卵のサンドイッチ
チーズと生ハムのサンドイッチ
– – – お子さん連れでも、男性お一人でも。
フードは、サンドイッチとスープとパンのセットが常にあって、
あとは日替わりでパスタやったり。
一人で営業してるから、まずはケーキとお茶をしっかりやって、
慣れたらちょっとずつご飯物も増やしていくつもり。
引っ越す前の店では喫煙オッケーやったから、
子連れのお客さんはそこまで多くなかったんやけど、
今は6時まで禁煙にしてて。
だからお子さん連れのかたも是非いらしてほしいですね。
外には喫煙席をご用意してるので、
喫煙なさる方も大丈夫ですよ。
うちに来るお客さんの層は結構ばらばらかな。
でも、意外と大人の男の人が結構多いかも。
普通、カフェって男のひと入りにくいんじゃないですか?
でもうちあまりカフェっぽくないし、
漫画とかも置いてるし。
漫画読みに来る男の人が結構いて、
長居オッケーっていうスタンスだし、
本当に漫画喫茶みたいかもしれない。
「椅子バラバラなんのも、自分が『今日はどこ座ろかな~、こっちのソファーにしよかな~』って、気分で選びたくて。」
– – – くらげみたいにふわ〜っとしたお店に。
プラヌラっていうのは「くらげ」の意味。
高校くらいの時からマニア的な感じでクラゲが好きで。
なんでやろ?宇宙船みたいやからかな(笑)。きれいやし。
もともと透明で丸い物が大好きで。ガラスとか。
絶対前世はクラゲか、透明で丸いもんやったと思う(笑)。
で、クラゲみたいなふわーっとした適当なお店にしたくて名前つけました。
あと、あんまり緊張せずに入ってもらえると良いなーって。
なんかおしゃれなお店とか緊張しーひん?
長居していいのかな?とか。
こんなダサイ格好でおかしいと思われてないかな?とか。
緊張せずに気軽に長居できるお店が自分は好きやから、
お客さんにとってそういう店になれたら嬉しいな。
今すっごくお店が可愛くて、
大事に育てて行こうって思ってます。
お客さんたちに深く愛されている店だ。
取材した日に、それがはっきりと伝わってきた。
流れは穏やかだが、
「お〜い、近江(ちかえ)ちゃーん。」
「アイスティーちょうだーい。」
と、入れ替わり立ち替わり常連さんが顔を見せる。
平日の昼間だというのに。
初めて来たお客さんも、その気の置けない雰囲気に心を許すようで、
勘定を済ませながら
「すごく美味しかったです。」
「また必ず来ますね。」
と、声をかけていた。
取材の後、他のお客さん同様すっかり長居してしまった私。
隣に座った方に、常連さん多いんですねと話しかけると、
「ご飯やお茶が美味しいからっていうのはもちろんだけど、
みんな近江ちゃんに会いたいんじゃないかな。」
うん、わかる。
私もまたすぐ会いたいと思ったから。
これまでもこれからも、こうしてプラヌラは私たちをトリコにしていく。
写真・文 中井 雅代
Cafe プラヌラ
那覇市壷屋1−7−20 105号
※パラダイス通りから浮島通りに引っ越しました♪
098-943-4343
open 13:00〜22:00(L.O)
close 水、第1・3木
ブログ:http://planula.ti-da.net