第一印象は、まるで”さんさんと降り注ぐ朝日”。
それは、那覇公設市場近くに店を構える“C&C BREAKFAST OKINAWA”の看板メニュー、オリジナルスフレパンケーキ・フルーツスペシャルのこと。ビタミンカラーに溢れていて、太陽のようなパンケーキなのである。見ているだけで元気が湧いてくる。
「パンケーキ好きのかわいらしい女の子が、見て食べてキュンキュンするようなパンケーキをイメージして作りました」
そう言うのは、オーナーでフードディレクターの山之内裕子さんだ。
生地は甘さ控えめでさっぱりしている分、甘みや酸味のあるリリコイソースやリリコイバター、柑橘系の爽やかさを感じる生クリームを、たっぷりつけてちょうどいい。とてもバランスがいいのだ。見た目のボリュームに反して、ペロリと平らげてしまう。
このパンケーキの特徴は、“スフレパンケーキ”の名の通り、ふわっふわで柔らかい生地にある。
「小麦粉の割合がすごく少ないんです。普通のパンケーキの半分も入っていないくらい。このフワフワ感を出してそれを持続させるのが難しくって。自分がイメージしたフワフワにたどり着くのに、どうすればそうなるのか、何がだめなのかわからなくて、足し算引き算の試行錯誤を繰り返して、オープン2日前にようやく完成したんです。実は一番苦労したメニューです」
裕子さんがそこまで苦労したのは、“オリジナリティー”にこだわるから。
「パンケーキって流行ってるでしょう。でも流行るものはいつか必ず廃れてしまうわけで。だから流行りじゃない、ここにしかないうちオリジナルのパンケーキを作りたかったんです。自分が納得する看板メニューができてほんとよかった」
オリジナリティーにこだわる裕子さんが作るとサンドイッチもやはりひと味違う。この“フレンチディップ”は、自家製パストラミビーフを挟んだサンドイッチを、肉汁のソースにディップして(浸けて)食べる面白いメニューだ。ソースに浸けながら食べるから、肉もパンもしっとりして食べやすいし、コクが増して更に肉の味を感じられる。ハマる人が続出しそうな一品だ。
一番印象に残るのは、食欲をそそるスパイシーな香り。
「塊肉をスパイスやハーブなんかで下味を付けて、じっくりグリルするの。添えたフライドポテトもオリジナルのハーブとスパイスと塩で味付けしてます。私はもうね、スパイスとハーブが大好きなの! スパイスからカレー作るのも好きで家でよく作るくらい。ここに来てじゃないと食べられない味を出すのに、スパイスとハーブは一役買ってるかな」
パストラミビーフもフライドポテトも馴染みのあるものなのに、特徴的なスパイスとハーブ使いでC&Cオリジナルの味になっている。もう一つ、食べたことがない味だったのは、なんといってもこのスープ。一口飲んでみても何のスープかわからないほどなのである。
「レンズ豆と玄米のスープです。チキンからだしをとってるけど入ってるのはほんのちょっとで、レンズ豆からいいだしが出るし、玄米の甘みも出てる。トマトピューレで色味と酸味を少し足して。スパイスは色々入ってるけど、上に浮いてるのはミントかな。こんなにスパイシーなのに、子供も結構ズルズル飲んでますよ(笑)」
オリジナリティーにこだわる裕子さんだが、こだわりはこれだけではない。裕子さんは料理研究家だけあって、食べる人それぞれの嗜好まで考えてメニュー構成をしている。
「朝ごはんって、しっかり食べたい人もいれば、ちょっとだけでいい人もいるでしょ。だからどの人にとっても朝ごはんになるようにメニューを考えてます。しっかり食べたい人には、エッグベネディクトやサンドイッチやオムレツ、朝から甘いものが食べたい人には、パンケーキやフレンチトースト。ちょっとでいい人は、アサイーボウルやスムージー、スープをね。スープはサイズが大小あるから、大きい方でスープだけというのも可能です」
料理の内容や飲み物の味についても、どうしてそうしたのか明確な理由がある。
「スープに玄米を入れたのは、スープだけを飲む人にも腹持ちがいいように食べ応えを出したかったからなんです。それからアイスコーヒー。アイスコーヒーはご飯と一緒に飲むことを考えて、コーヒーがご飯に勝ってしまわないよう、ご飯を引き立てる味にしました。薄いんじゃなくて香りが良くて飲みやすいもの。セラードコーヒーさんに何度も試作してもらいました。普段コーヒーにミルクやシロップを入れる人でも、これだったら割りとストレートでガブガブ飲めるんですよ」
では、ハワイの朝ごはんのお店にしたのは、どんな理由からだろう?
「ハワイに行ったら、朝ってすごく大事なんだなってことを思い知らされて。みんな早朝からサーフィンしたり、ヨガやったり、朝を有意義に過ごしてる。朝ごはんを食べに行ったら、ローカルの人がいっぱいパンケーキ食べに来てたり、がっつりステーキ食べてる人もいて。みんな食べたいものを自由に食べて、心の底から楽しそうにしてて、素敵だなって。
それにハワイと沖縄は食材がすごく似てるんです。フーローマメとかはんだまとかハワイで普通に売ってるし。でも食材の見せ方が上手なんだよね。ハワイの人は、ローカルの野菜や果物をすごく誇りに思ってて、お店でもスーパーでも、魅力的な打ち出し方をしてる。沖縄でも沖縄の人がもっとローカルのものを買うようになってほしい。だからハワイのメニューを沖縄のものを使って出して、こんな風にして食べられるんだよってことを提案したいんです。ハワイと風土が似てる沖縄だから、真似できることがいっぱいあるんじゃないかって」
例えばリリコイバター。リリコイとは、パッションフルーツのこと。裕子さんが言うには、甘みや酸味、香りのバランスがよく、調理しやすいポテンシャルの高いフルーツなんだとか。バターと合わせることでパンケーキのソースとして、また肉のソースとしても合うそうだ。
「パンケーキ食べたお客さんが、『家でリリコイバターに挑戦しよう』ってなったら嬉しい。それにはまず店で食べて感動してもらわないとね」
裕子さんは、“繋ぐこと”が好きだと言う。沖縄とハワイを、料理研究家の裕子さんらしく繋げて見せてくれた。ハワイの料理を沖縄食材を使って提案することで、「家で作ってみよう」とか「今度はこうして食べてみよう」などと、お店と家庭をも繋げている。
お店での提案を家庭に持ち帰ってもらいたいと思うのは、生徒である主婦の状況を近くで聞いていたから。裕子さんは、料理教室の先生という顔も持つ。
「料理教室でお母さんがよく言うのは、『面倒くさい』って、結構それ一辺倒(笑)。『面倒だからチャンプルーでいいさ〜』みたいな。私の仕事は家庭の食を豊かにするってことも一つなの。食べ物って食べたらすぐになくなっちゃっうからこそ、作ること自体がすごくクリエイティブ。だから主婦の人ももっと誇りを持って、3食作るのが億劫って言うんじゃなくて、クリエイティブな仕事と捉えて楽しくご飯を作ってほしい。
うちの店では作れるものは全部作ってて、例えばパストラミビーフやコンビーフ。こんなのも家で作れるんだよって教えてあげたい。ホームメイドが一番安心でしょ。グラノーラも自家製だけど、アサイーボウルやサラダ、フレンチトーストのトッピングにして、こんな風に食べたらいいんだよって教えてあげたいし。このドレッシングは玉ねぎと人参とりんごを使った自家製のドレッシングで。これだったらサラダの野菜の種類が少なくても、野菜をいっぱい食べられるでしょ」
逆に、料理教室の生徒さんから教わることもあるという。こういう年代はこんなことも知ってるんだ、とか、こういうのは食べないんだ、とか、この食材をこんな風に食べてるんだ、とか。
「お店一つしかやってなかったら、ご飯を食べてもらってせいぜい提案しかできないけど、料理教室とか他の仕事をすることで、その人の作る料理を知れたり、レシピを教えてあげられたり、またお店で学んでもらったり、色々と繋がってお互いがいい方向になる。だからすごく楽しいんです」
裕子さんの食にまつわる幅広い仕事が、お店や教室など相互に影響を与え、いい循環が生まれている。沖縄とハワイ、お店と家庭。繋いだ先には、沖縄の豊かで楽しい食生活が見える。
店の前の通りは広くないながらも、多くの人がせわしなく行き交う。裕子さんがこの場所を選んだのは、市場が近くて、地元の人や観光客が入り交じる活気のある場所だったから。
「この店は、ゆっくりしてほしいというより、市場の雰囲気そのままに活気のある店にしたいんです。朝だからね、ばっと食べてさあ行くぞ、いってらっしゃい!みたいな。皆さん滞在時間は短いですよ」
奥のキッチンを見ると、お揃いのエプロンを付けた女性スタッフがとびきりの笑顔でキビキビと働いている。まるで旅先で朝市を訪れたかのような、爽やかで活気のある朝の風景。この風景を味わいながら、活力みなぎる一日のスタートをここで切る。ハワイでの朝のように。
文 和氣えり
C&C BREAKFAST OKINAWA(シーアンドシー ブレックファスト オキナワ)
那覇市松尾2-9-6 タカミネビル1F
098-927-9295
9:00~17:00 (平日)
8:00~17:00 (休日)
close 火