「店名は、僕の大好きな映画の主人公からとったんです」
アメリカ人も多く訪れる北谷のハンバーガーショップ“ゴーディーズ”のオーナー、小林瞬治さんは、少年のように目を輝かせる。
ピンときた人もいるだろう。そう、映画“スタンド・バイ・ミー”の主人公ゴーディが、店名の由来だ。“ゴーディの店”、“ゴーディのハンバーガー”。
店内は、その映画の時代を彷彿とさせるアメリカのアンティークに溢れている。
タイムスリップしたような空間で食べるハンバーガーは、まさに“肉肉しい”という表現がぴったり。牛肉そのものの、しっかりとした味わいだ。パテ以外に、パンやBBQソースやチーズも一緒に口に入るのだが、まずまず際立っているのが、肉の味。ぷっくりとまん丸で、噛めば肉汁じゅわ〜のハンバーグもいいけれど、ゴーディーズのパテはそれとは異なる。肉を噛んでいるぞという歯ごたえがしっかりあって力強い。脂もあまり感じない肉そのものの味を楽しめるハンバーガーだ。
おいしさのヒミツはその作り方にある。
「粗挽きなんですよ、すごく。普通の牛ミンチって2ミリくらいのちっちゃいのなんですけど、うちは9ミリ。通常ミンチって粘りが出るまで混ぜるじゃないですか。うちはほとんど混ぜないで、ポロポロ〜みたいな。だから成形するときは、ポロポロこぼれるくらいの感じ。つなぎは入れてないですね。味付けで炒めた玉ねぎを少し入れてるんですけど、卵とかパン粉は一切入れてないです。それを網で焼いて、余分な脂は落としてます」
オリジナルなのは、パテだけじゃない。パンも自家製だ。
「最初パン屋さんに注文して作ってもらうつもりでいたんですけど、作ってもらったものがイメージに合わなくて。もうちょっとこうしてくれと注文すると、値段が跳ね上がったり。じゃあ、自分たちで作ってみるかって話になって。そこで初めてパンの本買ってきて、自分達で作ったんです。そしたら、頼んで作ってもらったのより美味しくできて、じゃあ、これでいく?って(笑)」
パンは柔らかくてふんわり。ものすごくボリュームのあるハンバーガーだが、思いっきり口を開ければなんとか入るのは、パンの柔らかさのおかげ。柔らかいから肉にも難なく到達できて、そして肉の味をじゃましない、いい引き立て役だ。
パンだけでなく、手作りのBBQソースも、炭火で焼かれた香ばしい肉の味を引き立てていて、「すごく美味しいです!」と思わず小林さんにそう伝えると、「こんなのは普通です」とちょっと拍子抜けするような言葉が。
小林さんは、他店にはないオリジナルなものをと、炭火で網焼きにしたり、ひき肉の大きさやパテの配合や捏ね方を工夫したり、パンやBBQソースも自家製だったりと、こだわりを持って美味しさを追求している。
なのに「普通」って?
「 パテを炭火で焼いているのは、こだわりってほどのもんじゃないんです。キャンプが好きなんで焚き火してる感覚で仕事できたら楽しいかなって(笑)よくある鉄板でグリルするんじゃ面白くないじゃないですか。僕達が提供したいのは、アメリカの本物というか、向こうのリアルな食文化。和風なんとかバーガーとか、創作のハンバーガーはやらないんです。パフェじゃなくてサンデー、スムージーじゃなくてシェイクね。うちは朝ご飯で、パンケーキも出しているんですけど、いま流行りのフルーツや生クリームが乗ってるようなハワイアンパンケーキはやらないんです。ニューヨークとかで朝ご飯食べたら、出されるパンケーキってちょっと素っ気ないくらいの、普通のやつなんですよ」
予想に反したのは“普通”発言だけではなかった。小林さんはこうも言う。
「実は僕、ハンバーガーにそんなにこだわりがあるわけじゃないんです。ハンバーガー屋やってると、ハンバーガーマニアみたいに思われるじゃないですか。全然全然。僕、ラーメン大好きだし(笑)」
え? ハンバーガー専門店なのにハンバーガーにこだわりがない?では、小林さんがお店で一番大切にしているものは、何なのだろう。
「本当にこだわってるのは、この雰囲気なんです。昔のアメリカの田舎にあるドライブインのイメージ。このイメージに合う食べ物がハンバーガーだったってだけで、イメージの方が先なんです。もちろん味も落とせないけど、ただ美味しいというだけじゃなくて、この雰囲気を楽しんでほしいんです。ここに置いてある雑貨見て、このランプ面白いなーとか、ここ日本なのにアメリカっぽいねーなんて思いながら、ハンバーガーを食べてくれたらいいなって」
一番大切にしてるのは、“アメリカの雰囲気や気分”。そのイメージは、店を始める何年も前から温め続けていた。
「あの椅子とか、お店オープンの3年前から買っちゃったり。あのランプはお店始める2年前に安く見つけて、ずっと新聞紙にくるまれてた。お店やろうって決めた時から、これ、将来店で使おうってグラス1個でも何でもお店につなげて買い込んじゃって。どんどん物が増えて、当時の1DKのちっちゃい家が倉庫みたいになっちゃったんです(笑)オープンしてからも、内装はしょっちゅう自分達で変えてますよ。もう趣味です、趣味」
そう言うほど、お店の空間や雰囲気作りに余年がない。その理由は、何を隠そう、小林さんは小さい頃から家族に「アメリカかぶれ」といわれるほど、アメリカに心惹かれているからなのだ。
「最初のきっかけは、父親に買ってもらった本なんです。僕がまだ小学校1年か2年の時、本屋に連れていってもらって、『何でも好きな本買っていいぞ』って言われて。普通はマンガとか買うんでしょうけど、僕はアメリカのカタログ。これがいいって言って。アメリカの模型とか家具とか車、バイクなんかが載ってる本。その本をそれからずっと愛読してました」
小さい頃から古いもの、アンティークが好きだった小林さん。それは大人になった今も全く変わらない。驚いたことに、小林さんは、中学生の頃に買ったものをまだ大切にとっている。それは、カウンター奥の棚の片隅に飾られて、インテリアの一部に収まっていた。まだ開けられていない、黄色いパッケージに入った小さなレーシングカーセットだ。
「普通だったら買ったら開けて遊ぶんでしょうけど、家に飾ろうと思ったから開けてないんです。遊ぶ用と飾る用、2つ買うお金もなかったですしね」
「それで、小学生の時に、“スタンド・バイ・ミー”の映画観て。僕の好きなものがいっぱい詰まっていて、ものすごく影響を受けました。大人になってから、バックパック背負ってアメリカの西海岸を放浪したんですけど、映画の舞台になったオレゴン州ももちろん見てきましたよ」
アメリカの話になると、途端に目を輝かせて饒舌になる。そして次から次へと楽しい話がポンポン出てくる。その様子は、”スタンド・バイ・ミー”で夢中に冒険を続ける4人の姿と重なる。
昔からある、古くて変わらないもの。この店にはそれが沢山ある。アメリカのスタンダードなハンバーガー。1950年代のアメリカ西海岸の風情。そしてオーナーの、子供の頃から持ち続けている思い…。
「お前、アメリカにかぶれやがって」と小林さんを小バカにしてた8歳年上のお兄さんは、当時特攻服にハチマキがお気に入りの生活(笑)。そのお兄さんは、小学生の小林さんに勝手に剃りこみを入れた。
その写真が、彼のスマートフォンに大切に収まっていた。
剃りこみが入った髪型で、ヤンキー座りをしている12歳の小林さん。大人ぶって背伸びをしているけれど、顔にはまだあどけなさが残る。その姿は、まるで秘密のツリーハウスでタバコをふかしていた、スクリーンの中の少年達だ。
大人になったゴーディが、12歳の頃の親友を今でも一番大事に思っているように、小林さんはその頃の自分や自身の思いを今でも大切に持ち続け、店に出ている。
文 和氣えり
GORDIE’S(ゴーディーズ)
中頭郡北谷町字砂辺100-530
098-926-0234
BREAKFAST 8:00~11:00(土・日のみ)
LUNCH・DINNER 11:00~21:30