ハッピーモア市場 無(減)農薬で、新鮮。なのにお手頃! 理由は、農家さんの自宅用野菜のおすそ分けだから

 

「うちのコンセプトはね、“農家さんの顔が見える野菜”にしていこうってことなんですよ。農家さんはね、うちのスタッフに、こうしてるんだよ、ああしてるんだよって栽培方法について、すごく話をするのね。例えば『虫がついたら一つひとつ手でとってるんだよ』とか『EMの肥料をいつも研究してるんだよ』とか。野菜をただ売るだけじゃ勿体無いでしょ。聞いたことを、スタッフの口を通してお客様に伝える。その農家さんの栽培方法だったり、農家さんのカラーだったり。野菜の説明付きの販売よ。お客さんも、農家さんの声を一番聞きたいでしょ。だから、その声をしっかりお客さんに伝えられるよう、うちは、農家さんお客さんとのコミュニケーションをすごく大事にしているの。それには女性のほうが絶対いいでしょ」

 

茶目っ気たっぷりに話すのは、オーナーの多和田敬子さんだ。野菜同様、フレッシュな女性スタッフの元気な声が、いつも店内に響いている。ここは女性だけで運営する野菜直売所だ。

 

栽培方法や料理の仕方だけではない。例えばトマトなら、甘さを重視しているのか、料理に使いたいのか、ニーズに合ったトマトをスタッフが教えてくれる。野菜について何でも気軽に聞けるから、スタッフとお客との距離も自然と縮まる。スタッフは馴染みのお客に対して名前で声をかけるし、お客もスタッフを名前で呼びかける。大型スーパーにはない、昔ながらの八百屋さんでのやりとりを彷彿とさせるのだ。

 

ハッピーモア

 

 

多和田さんは言う。

 

「スタッフに言ってるのはね、『みんなね、こんなに奥まってるところまで来てくれるお客さんのことを考えないとダメよ。人参一つだったら、近くのスーパーのほうが便利よ。人参がおいしいのは当たり前で、その上で、プラスアルファを提供しないとね』って。『お客さんはね、ここのスタッフの本気だったり、農家さんのストーリーだったり、そういうのに会いに来てるのよ』って。だからお客さんも、『ここで野菜を買うのが好き』って言ってくれるんですよ」

 

多和田さんが絶大な信頼を寄せている、店長の大湾絵梨子さんは、その期待にしっかりと応える。
「最近は、バーコードがなくても、これがどの農家さんの野菜かわかるようになってきました。野菜の色だったり、袋の詰め方だったり。あ、これは誰々さんの大根だなって」

 

そう言うほど、野菜としっかり向き合っている。500軒もの契約農家がいるのにだ。

 

大湾さん含め、スタッフは現在5名。スタッフは、積極的に農家さんと会話を交わし、スタッフ同士で農家さんの情報交換をする。お客は、どんな生産者がどんな風に野菜を育てているのか、スタッフに聞けば答えてもらえる。そうやって生産者の顔が見えるのだ。生産者の顔が見えると、それぞれの農家さんにファンがつく。「誰々さんのトマト買いに来た〜」というお客が多いというのも頷ける。ここでは、スタッフとお客の距離だけでなく、農家とお客の距離も近いのだ。

 

 

 

ハッピーモア市場の一角では、販売している野菜を使った料理を食べることができる。見るからに葉がピンとして新鮮さが一目瞭然の生野菜サラダは、その食べやすさに驚く。生では敬遠されがちなハンダマや春菊が、スルスルと喉を通っていく。嫌な雑味や苦味が全くない。少し感じられる苦味でさえ、ほんのりと甘みをまとっている。その味は野菜の持つ鮮やかな個性として、喉が自然と受け入れる。

 

「お客さんもうちのスタッフもなんですけど、もうみんなよその野菜は食べられないって言うくらい。味自体は、もしかしたら微妙な違いかもしれない。だけどね、作った人を知ってるから、その思いが伝わってくるのよ。だから、と〜ってもおいしく感じるわけ」

 

そう言いながら、多和田さんは胸を張る。料理は、作った人によって美味しさが異なる。それと同じ、もしくはそれ以上に、野菜も作った人の思いがこもっていれば、美味しくなるに違いない。

 

ハッピーモア

 

 

多和田さんがコミュニケーションにこだわるのには、理由がある。オープン当初、なかなか野菜を持ってきてくれなかった農家を翻意させたきっかけが、“コミュニケーション”だったのだ。

 

「野菜を持ってきてくれる農家さんを集めるのに一番苦労しましたね。うちは元々農家じゃないからね、新参者なんですよ。農家の気持ちの何がわかる?って、みんなガードが固いわけですよ。大手の農家さんに声かけたけど、こんなところに持ってきても残ったら困るって。それは当然なんだけど、そういう方たちはどんどんいなくなってしまって。どんどん逃げていくわけですよ。そしたらね、ある農家さんが教えてくれたの。『農家は心で動くから、1軒1軒電話をかけてごらん。少しでもいいから持ってきてもらえませんかって頼んでごらん』って。それで家庭菜園レベルでやってる小規模の農家さんを中心に、電話し始めたんです。『助けてください。食べきれなくて余ってる野菜があったら、少しでもいいから持ってきてもらえませんか』って。それで少しずつ野菜が集まったのね」

 

結果的には、農家さんにも喜んでもらえることに。小規模の農家だから、JAへ卸すほどでもないが、かといって家族だけで消費するには残ってしまう。これまで余った分は、隣近所へ配っていたが、しょっちゅうのことだから、もらう方も遠慮してしまっていたのだそうだ。

 

 

 

無(減)農薬野菜なのに、お手頃価格なのは、自宅消費用の野菜だから。自分や家族が食べるために作った野菜だから、農薬はほとんど使わずに育てる。そして多和田さん曰く「商売っ気がない農家さんがほとんど」。だから嬉しい価格なのだ。

 

 

驚いたことに、農家さんに電話をかけることはオープン当初だけでなく、今でも続けている。

 

「農家さんはね、お年寄りが多いからか、電話すると喜んでくださるのよ。だからスタッフは毎日電話かけてますね。1日50軒くらいかな。『何々さんの玉ねぎ、今日は何個売れたよ〜。明日もお願いね、何々さん』って」

 

毎日スタッフが電話をすることで、農家さんは、だから心を開いて、スタッフと沢山話をするんだなと納得した。

 

 

 

農家さんとの信頼関係を地道に築いてきたからこそ、ハッピーモア市場には、新鮮で安心な野菜が沢山ある。ハッピーモアでは、栽培方法を示すマークを色別に、それぞれの野菜に付している。金色は、自然の状態で育った薬効の高いもの。赤は、農薬、化学肥料を使っていないもの。黄色は農薬は使っていないもの。緑は、少しだけ農薬をつかっているものだ。このマークは、農家さんの自己申告に任せている。農家さんを信用しているからだ。

 

「震災が起こって、お客さんがピリピリしたときがあってね。敏感な人たちが『あのマークは本当ですか? 農家さんの土壌チェックはしてるんですか?』っていっぱい来たのね。私達は、あえて、土壌チェックだのなんだのって、農家さんを回ることはしなかったの。『肥料にセシウム入ってませんか、測らせてください』なんて言ったら、農家さんとの信頼関係が崩れるじゃないですか。『私達は、農家さんの栽培方法でおいしく頂いてます。だからそれ以上のことはできません。それでもやっぱり心配でしたら、お売りすることはできません』って言ってから。だけどね、最初そんな風に言ってきたお客さんも、しばらくしたら買いに来てくださるようになりましたね」

 

 

 

農家さんが手塩にかけて育てた大切な野菜だから、多和田さんは無駄にはしない。野菜の活用にも力を入れている。

 

「農家さんがせっかく持ってきてくれた野菜だから、余らせないようにって、スムージーやカレーの販売はそれで始めたんですね。大量にシークワーサーやタンカンが出たときに、酵素シロップにするんです。シロップにするともつでしょう。それを使ってスムージーにしてるんですよ。隣に小さい畑があって、そこでスムージー用の野菜を私達で育ててるんです。毎朝、畑で野菜や薬草を収穫して、酵素とブレンドして作ってますね。サラダは、農家さんのおいしい野菜をそのまま沢山食べてもらおうと、ビュッフェ形式にして。ドレッシングはうちのスタッフの手作りよ。今日は人参ドレッシングと、豆乳ドレッシング。美味しいでしょう? 両方とも野菜がたっぷり入ってるからね〜。カレーは、野菜カレーとグリーンカレーの2種類ね。両方とも30種類以上の野菜が入ってるのよ〜。人気でね、特に土曜は家族連れが、ここで買い物して、カレー食べて、スムージー飲んでいくのよ」

 

5種類あるスムージーはどれも、野菜が苦手な人や小さな子供でも、抵抗なくゴクゴクいけるほど飲みやすい。自家製酵素と新鮮でおいしい野菜のおかげだ。飲んだそばから、お腹の底から元気が湧いてくる。野菜たっぷりのカレーも、色んな野菜の旨味が凝縮していて深みのある、本格的な味だ。

 

工夫して野菜を活用するが、それでも捌ききれなかった野菜は、農家さんが回収して肥料にする。
「野菜を肥料にして、それでまた野菜を作って持ってきてくれたり、放し飼いでニワトリを育てて、有精卵としてまたこっちに出してくれたり。ちゃんと循環してるんですよ」

 

 

 

野菜は残さず使い切る。主婦でもある多和田さんは、何でも活用するのが上手だ。

 

「この場所、元々トマトのハウスだったんですよ。義父がここでトマトを栽培してて。高齢になって縮小しようってなって。ここは農地で宅地の運用ができないけど、せっかくあるから活かそうって、野菜直売所にしたのね」

 

場所だけではない、人材の活用もしかり。

 

「野菜を持ってきてくれる農家さんの中には、元サラリーマンとか学校の先生とか、リタイアされた方も多いのね。その中に、私が学生時代にお世話になった恩師もいるんです。小学校で食育のプロジェクトがあってから、その先生もお連れしたのね。農家として先生が野菜嫌いの子に、野菜はこうなんだよああなんだよって説明してさ。元先生だから、生徒にお話するのが上手なわけですよ。それだけじゃないのよ。これからは福祉の方と組んで、障害者の方の就労トレーニングにここを使ってもらおうと思ってね。畑に入ってもらったり、バックヤードで袋詰めしてもらったり。手が足りない農家さんのお手伝いもできるでしょう。うちも手が足りないから助かるのよ」

 

 

多和田さんの、あるものを活用する精神は、スタッフにしっかり受け継がれている。野菜のディスプレイに、販売したお米が入っていた米袋を使ったり、野菜の説明書きのポップは、ダンボールの切れ端を使ったり。それをおしゃれにさえ見せてしまうから、多和田さんは、「若い子は、ほんとセンスがいいのよ〜」と、とても嬉しそうなのだ。

 

ハッピーモア市場に来ると、なぜかテンションがあがってしまう。種類豊富な安心野菜が所狭しと並んでいるから。買い物ついでに、美味しい野菜やスムージー、カレーを食べられるから。スタッフが生き生きと気持よく働いているから。理由をいくつも挙げることができる。でも一番の理由は、農家さんの思いをお客に届けたいという、スタッフの志をひしひしと感じるから。そのスタッフを通じて、農家さんまで身近に感じることができるからだ。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 

ハッピーモア
ハッピーモア市場
宜野湾市志真志1-247-1
098-896-0657
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