matte pan(マテパン)麦の味わいそのままに。食事に合わせる、自家製酵母の手ごねパン。

matte pan

 

フランスの代表的な田舎パン、カンパーニュ。テーブルに並べられたこのパンを見て、「きれい…」という言葉が自然と口から出た。

 

大きく開いたクープ(割れ目)が印象的で、ずっしりと重い。カリッと焼き上がった皮。歯を軽く押し返すほど、もちもちと弾力のある生地。噛めば噛むほど、香ばしくて濃い麦の香りが口の中に広がる。オーガニックレーズンからおこしたという自家製酵母によるものだろうか、ほのかな酸味と甘みを感じる。

 

「食事に合わせるパンを目指して作っています。カンパーニュは当店で一番ベーシックなパン。我が家では、朝食にパンとスープをあわせて食べることが多いですね」

 

滋味深く、見た目も美しいパンで始まる朝。想像するだけで頬がゆるむ。

 

 


カンパーニュに練り込む具材は様々。こちらはドライパイナップル。

 


3種のレーズン(カリフォルニア・サルタナ・カランツ)とくるみ。

 

オーナー・川武彩さんが作るパンはどれも、素朴ながらしっかりと力強い味がする。ハード系のパンには小麦粉、ライ麦粉、全粒粉を使用しており、パンの種類によって粉を使い分けていると言う。

 

「小麦に含まれるタンパク質の含有量でも仕上がりが変わりますし、ハード系に合う小麦でも実にさまざまな種類があるんです。粉や配合を何度も調整しながら、試行錯誤して自分好みの味を追求しました」

 

全粒粉には、伊江島産の小麦を使用している。

 

「全粒粉は胚芽もふすまも丸ごと入っているので、小麦粉よりも栄養価が高いんです。中でも、伊江島小麦は味も香りも私好み。店を始める前からずっと使っていますが、ほかの全粒粉よりも生地のもっちり感が増す気がします。それに、やっぱり地元でとれたものを食べるのが一番だと思いますから」

 

地産地消を目指し、身体に良く、安心・安全な素材を極力使うこと。もちろん、おいしさの追求も忘れない。

 

 

 

基本的に卵や牛乳、乳製品は使わない。

 

「卵や牛乳を使うと、一気に菓子パンっぽくなる気がして…。私は、複雑なものよりもシンプルな方が好み。混ぜごはんよりも玄米が好きだし、パンもあれこれと材料を組み合わるより、素朴な雰囲気のものにひかれるんです。ハード系のパンには砂糖も使いません」

 

また、「食事に合わせるパンを」という想いから生まれるこだわりも。

 

「『惣菜パンはないの?』と訊かれることもありますが、お作りしていないんです。小麦本来の味わいを楽しんでいただきたくて」

 


matte panでは少数派のソフト系、黒糖パン。

 


沖縄産黒糖のやわらかなコクと甘みが楽しめる。もっちりと瑞々しい食感も魅力。

 

カンパーニュの生地をベースに、メニューの種類は拡大している。ドライフルーツ、ナッツ、オーガニックチョコ、無添加の薫製豚…。使用する具材も、からだに優しいものを厳選している。

 

「生地に合わせる素材は、ごはんやおやつを作るときにヒントを得ることが多いです。豆料理とか、チョコを使ったお菓子とか…。基本的に、食べることが大好きなんですよね(笑)。おいしいものを食べたいから良い素材を使いたいし、手間も惜しみません」

 

彩さんのパンは、そのほとんどが手ごねで作られている。

 

「黒糖パンと食パンだけは機械を使ってます。パン屋で使う大きなミキサーではなくて、小さな家庭用のものなんですが。砂糖とオイルが入るので、グルテンがつながりにくいため、機械の力を借りてます。捏ねの最後の見極めは手で必ず確認します」

 

家庭で食べるぶんだけならまだしも、販売用のパンも多くが手ごねだと大変じゃないですか? と尋ねると、逆にぱあっと表情が輝いた。

 

「それがすごく楽しいんです。
こねているとね、粉からパンの生地になる瞬間があるんですよ〜!」

 

粉から生地になる瞬間…ですか?

 

「そう! うーん、言葉で説明するのはちょっと難しいんだけど…。
粉と水とがひっついて、生地として一つにまとまる瞬間があるの。
それがもう、『気持ちイイ〜!』って(笑)」

 

とことんパンが好きなんだなぁ。彩さんの話を聞いていると、そう実感することが何度もあった。

 


 

彩さんは以前、ウェブ関連の仕事をしながら、趣味でパン教室に通っていた。

 

「フリーで6年ほどwebの仕事をしました。いわゆるSOHOで、お客さんとの打ち合わせ以外はずっとパソコンと向き合う仕事でした。そんな環境を打破するために、パン教室に通い始めたんです」

 

次第に「パンを作る仕事がしたい」という気持ちが強まり、本格的に修業するために仕事を辞めて一度実家に戻り、その後、大阪のパン屋で働きだした。

 

「会社勤めをしながら気になる店に行ったり、パンを取り寄せたりしていたのですが、その店のパンが自分に一番ぴったりきたんです。これだー!って」

 

丸2年の勤務を経て、結婚を機に沖縄に移住。委託販売やイベント出店などを中心に活動を始めた。

 

 

販売するパンの種類は、季節や日によって変わる。カンパーニュ、黒糖パン、食パン、フォカッチャ、ベーグルと生地の種類は豊富だが、さらに増やしたいと意気込む。

 

「バケットも作りたいし、季節の果物からおこした酵母で限定メニューも作ってみたい。また、パンに合う料理の提案もしていきたいな」

 

 

素朴ながら、麦の奥深い味わいを楽しめる彩さんのパン。食事に合わせると聞いて、やはり洋食かな? と考えていたが、「おみそ汁にも合いますよ」とのこと。

 

そうか、何もパンに合わせて食事を作りかえることはないのだろう。例えば、厚めにスライスしたカンパーニュに、油みそをペースト感覚でつけてみたらどうだろう?納豆、焼き魚、みそ汁、そしてパン。そんな朝食も素敵だ。

 

普段の飾らない食卓にも、matte pan のパンはきっとしっくり合う。

 

文・仲原綾子 写真・中井雅代

 


matte pan
※2月16日にオープンするBONOHO(関連記事:http://calend-okinawa.com/interior/interiorshopnavi/naomichi-satou.html )では、パン販売のほか、スープセットを店内で提供予定
※販売日&場所に関する情報はホームページに掲載しています。
HP http://www.mattepan.com