室生窯(むろうがま)/伝統の良さを生かしながら新しいイメージを吹き込むやちむん

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「僕のやちむん仕事は、伝統が元になっています。自分がやっていることって、もともとあったことから組み替えたり、それだけのことなんです。伝統色で描く水玉模様の三彩も、配色を変えてみたり、水玉の大きさを変えているだけなんですよね」

 

コバルトと茶の2色を濃く調合し、大きめにくっきりと描く三彩。これはやちむんの定番模様であるのだが、室生窯の谷口室生さんのやちむんは、どこか現代的な印象を受ける。また、コバルト色だけで大胆に太く描かれたウロコ柄模様の皿は、それだけで見ると古風で強い印象だけれど、食べ物をのせるとチェック柄にも見え、途端に印象が和らぎ親しみやすい器になる。配色やデザインの大きさ、線の太さや細さ、形との組み合わせによって伝統柄であるやちむん模様を新鮮なイメージに変えて表現するのが室生さんの作風である。

 

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「伝統をないがしろにせず、甘えもせずに、うまいバランスで新しい見せ方ができないかなというのは常に考えています。でも、組み合わせによっては『ん?』って思っちゃうこともありますよ(笑)。伝統柄だけど『新しい』という感じが仕事に出てるって言われたら、嬉しいですね」

 

室生さんが新しい見せ方を模索するのは柄だけでなく、やちむんの形についても同じこと。

 

「たとえばマカイと呼ばれる沖縄の茶碗の形は、持った時に手に馴染むし、置いた時のバランスがとても良くて、いじりようがないと思うので変えないようにしています。けれど、すっぱりと変えて使いやすいものにしたりするものもあります。コップなんかは、上下の比率は大事で、重心が下だと重く感じてしまうから、少し上にくるようにしたりします。上につけ過ぎても倒れやすくなるしね。自分が修業時代にずっと山田真萬さんに教えられてきたのは、『器のバランスをよく見なさい』ということ。これは形のことでもあるし、重心や重さのバランスでもあるんですよね」

 

新しい形を試みるのは決して簡単なことではない。ましてや、やちむんらしさを残すことを大事にするとなればなおのこと。

 

「沖縄の土を使って、沖縄の材料での仕事ってなると、土の性質上、どうしても幅が決まっちゃうんですよね。厚めに作らなければいけないとかいろいろ制約がある。その中で、どうにか良い重心で、良い形でやりたいといつももがいています。ただドーンと重いとか厚いっていう仕事ではなくて、持ってみてスッとするもの。この感覚って自分の体調や状態によっても変わってくるんですよ。だからなるべく、他の人の作品も触るようにしています。そうじゃないとぶれてくるから。こういう試みは、結構やっているかもしれない。バランスよくやりたいなと思っています。洋食器になりすぎないようにとか、見た感じは沖縄の仕事だねというのも残したいし」

 

 

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新しい形を作ろうと取り組む時、室生さんはまず手を動かし始める。試作の数をこなすことで見えてくるものがあると言う。

 

「僕の場合、デザインも含めて、これやろうとか最初に決めちゃうと失敗しちゃうんですよ。やり倒してやり倒していくうちに、あ、これこうしたほうがいいのかなというのが出てくるということが多くて。とにかく数をこなします。最初はもう、なんだこれ?というものしか作りきれなくて(笑)。ものすごい量のテストとかやっているけれど、残るのって1年にひとつあればいいほうかな。乾燥させてみて、あんまりだなあというものは土に戻します。迷った時は、伝統仕事の基本に戻って見直してみたりします」

 

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室生さんが陶芸家を志すようになったのは、アメリカの大学で授業を取ったことがきっかけだった。

 

「絵画をやろうと思って、アメリカの大学で絵をかじっていた時期があったんです。アメリカの大学って単位を取るためにけっこう自由に授業を取らせてくれるんだよね。その中で、油絵はダメだ、センスがないと思い知って(笑)。単位稼ぎに写真や陶芸の授業を受けたりしていました。その中で一番しっくりきたのが陶芸でした。面白いなと。実はうちの親父、絵描きなんです。器用すぎて(笑)、家で陶芸教室もやっていて。『絵では食えないけど焼き物だったら10年頑張れば家が建つ』って俺に言い続けていたんです。相当昔から言われてたはず(笑)。ふと親父のその言葉を思い出したんです。陶芸で生活できるんじゃないかなって。焼き物は焼いちゃえば終わりだから諦めがつくじゃないですか。絵はそれがないからね、気が狂いそうになる(笑)」

 

幼い頃から身近にあった陶芸こそが自分の進みたい道だと、遠いアメリカで気づいた。進むべき道がわからず、もがいていた室生さんにとって、霧が晴れた瞬間だった。

 

「もう自分は食器が作りたいってわかったから、福岡に帰りました。帰国後、まずは修業だなと、父親が趣味で集めた焼き物を見たり、骨董品屋に出向き店主に焼き物の話を聞いたりと、いろいろな焼き物を見て回っている時に、沖縄の仕事に出合って、『いいな』と思ったんです。そこからトントン拍子で沖縄に来ることになって。読谷山焼の山田さんの元には、『いい加減独立しなさい』と追い出されるまで(笑)、5年半くらい居ました」

 

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室生さんはやちむんの伝統工芸としての良さをしっかり学んだ。だからこそ、伝統を大事に引き継ぎ、その良さを使い手にさらに広げるために、新しい見せ方を模索するのだ。室生さんに今後の展望を尋ねると、しばらく間をあけ、しっかりと言葉を選んで静かに話してくれた。

 

「僕がやってる仕事って、何百年も前から先人が積み上げてきたもの。僕だけがやってるわけじゃない。そうやって時間がかかって形成されてきた歴史みたいなものを自分の仕事で出していきたいです。それから、僕のやちむん仕事を通して、沖縄について興味を持ってもらう切り口になったら嬉しいなと思います」

 

写真・文/青木舞子(編集部)

 

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