暮らしの中の旅日記 Ⅱ Short trips, long vacations !

写真/文 田原あゆみ

 
 

 
サウスオーストラリアで撮ったワイルドフラワーたち。
燃えるような大地から、空に向かって顔を上げてしっかりと咲いている。
 
 
 
Shoka:はいま、改装のためお休みをしています。
お休みといっても、改装の準備や、終わった企画展の事務処理などをしているので、私も関根もあれやこれやとすることはたくさんあります。
今日からちょっと一息。
私は東京へ出張中。
ただいま羽田のラウンジで、この原稿の仕上げに取り組んでいます。
 
 
ほんとうは、2週間くらいどこかに行きたかったのですが、改装の為行くことかなわず。
ならば、椅子に座って時間を遡ったり、いままでに行ったところの写真を見ながら、いまの感性で当時の旅をやり直してみたりと、日常の暮らしの中に旅の時間を作ってみています。
知っていますか?こういう人のことを“アームチェアートラベラーズ”というんですよ。
 
 
 
Shoka:がオープンしたのは2011年の4月1日。
あれから1年2ヶ月が過ぎました。
 
いまは自分の暮らしと仕事が、とてもいいバランス。
自分らしいやり方で生活している感覚があるので、仕事も遊びも、プライベートも統一感があって、ストレスもほとんどありません。
なので、忘れていましたが、ここに至る前は私はさすらいの人だったのです。
 
 
今思えば、何だかしっくり来ない日常から抜け出したかったのでしょう、時間と経済的な余裕が少しでもできるとよく旅に出ていました。
帰りの飛行機の中では、日常に戻るのがいやでがっくりと肩を落とし、時には涙さえ流す。
そんな自分に嫌気がさして、もう好きなことだけをやろう!と、人生改造計画を実行するきっかけにはなったかもしれない。
旅は、日常と本当の自分とのギャップをあらわにしてくれる。
 
うんうん、きっとそうだ。
 
 
 
そんな頃の旅の写真たち。
アジアのいろいろな国、オーストラリアの自然に魅せられて何度かしたキャンピングバンでの旅。
 
 

 
 
粉塵が上がる上海の街中にて。
人の生活は、田舎も都市も、衣食住の基本は変わらない。
食べて着替えて洗濯して干す。
 
奥のマンションにはきっと乾燥機があるのだろうけれど、色んな生活が混在していることが何だかパワフルなアジア。
 
 


 
上海からバスに乗って行った田舎の城下町。
ミッションインポッシブルの舞台となった町で、ここだけが時間のポケットに入っているみたいな異空間。
私たち観光客だけが、この風景に溶け込めずに浮いているような感じ。
着ている服の時代感が全く違うのだ。
 
おじいさんが揚げていた餅がおいしかったこと!
食はとてもシンプル。
おいしければ感覚の国境なんてすぐに越えられる。
 


 
 
人の生活の力強さと退廃と、混沌と活力と、新旧の生活、相反するものが同時進行していて圧倒される。
右上の写真は、水で濡らした筆でさらさらと石畳へ鏡文字を書いた老人の字。
裏側からものを見ているような不思議な気分になった。
それはいまでも変わらない。
その写真を眺めていると、やっぱり自分が水底から見上げているような感覚になる。
 
 
 
お茶がまた、うつくしくおいしかった。
世界中の暮らしの中にお茶を飲むという習慣があることを思うと、人間はまだまだ自然と調和して暮らす方向へ進化出来るんじゃないかと思う。
 
お茶の時間は豊かだ。
時間はゆったりと流れ、感覚の世界へと私たちを誘ってくれる。
それまで耳に入ってこなかった、鳥達のさえずりや、せせらぎの音、子どもたちの笑い声や、ラジオから流れてくるかすかな音楽が心地よく流れ込んでくる。
 
観光客の私たちまで、その時間は土地に馴染んでいるような錯覚を起こす。
 
 
 
 
オーストラリアへ
 



 
 
オーストラリアではとにかくとにかく、ひた走って、広大な自然を追い求めた。
夕焼け・ワイルドフラワー・朝焼け・広い広いビーチ・赤い色の大地や岩・野生の動物たち。
子どもの頃のようなシンプルな感覚に戻りたくって、生きている感覚を味わいたくて、とにかくキャンピングカーを走らせた。
この先には一体どんな景色が広がっているのだろう?何があるのだろう?
その好奇心が私を先へと駆り立てる。
 
 


 
ハイウエイを飛ばしていると、突然視界がピンク一色に。
塩分を多く含んだ湖がバクテリアの作り出す成分で、ピンク色に染まる。
 
砂漠の赤い大地にやはりピンク色の花。
圧倒的な自然の姿に、思考も感覚も停止。
ただただ、目に焼き付ける様に見入ってしまう。
 
 



 
やはり塩分が強い広大な湖。
様々な塩の結晶が美しい景色をつくりだしている。
かけらを口に入れると、しょっぱくって、でもどこかに甘さもあるような複雑な味がする。
おいしい。
天然の岩塩だ。
 
 
あるがままの自然の姿のうつくしさといったら、とてもカメラのレンズには収まらない。
その場に何度釘付けになったことか。
 
 
けれど、次の出会いを求めて、そこを去る時に、「どうして私は、いまここにあるものに満足せずに次へ次へと急ぐのだろう」と、何度も自問する。
何か大切なものを忘れて来たような、何かが不在な感覚と一緒に次へ次へ。
 
 
 


 
砂漠での朝焼けと、130kmに渡るビーチでの朝焼け。
 
 
この海の向こうには南極大陸しかないという。
ただただうつくしく、この瞬間を絶対に忘れないぞ、と心の中で決めた。
 
 
 
 


 
一日の終わり。
全く同じ日は二度と来ない。
「こんな風に、夕日を眺められる毎日を送ろう」そんなことを泣きながら思った。
 
 
 

 
最後に長い旅をしたのは、2010年の秋。
そのあとは、短い国内の出張と遊びをかねたショートトリップ。
 
 
私は旅が大好きだ。
 
けれど、きっとこれからはこの写真の頃のような、旅はしないだろう。
あの頃私は、「自分の本当にしたいこと」それを探しに旅に出ていた。
 
 
遠くへいけば行くほど、期間が長ければ長いほど本当の自分が見つかるような気がしていた。
しかし、そのもくろみはなかなか成就されず、私の場合旅に出ると、自分を捜す旅はさすらいの旅となった。
ただ、自分の好きなことだけをやるためにだけある旅の毎日の中で、自分が何をすることが楽しいのか、何が食べたくって、何をすることで感動し、何が必要でないのか、そんなことが見つけやすかったような気がする。
 
感性の豊かな人や、元々自由な心が溢れている人は日常の生活の中で、こつこつと自分を見つけているのだろう。
私は遅咲きだったのだ。
 
 
けど、「自分探し」って面映いけれど、これって人生の一番のテーマだと私は思っているので、やっぱり迷っていることも含めて人っていいな、と感じる。
人生そのものが旅、なんだとも。
 
 
 
 
 
さて、いまはというと。
 

 
自分の望んでいる日常を選び続けた結果、日常が特別になった。
なんていったらいいのだろう。
 
好きなうつわでごはんをいただく・家族で過ごす休日・好きなことを中心に始めた仕事・友人との夕飯会・たまたま見上げた空の虹・お花のような笑顔。
そして、こうやって書いたり表現すること。
 
日常が好きなことでいっぱいになって来たら、外に出なくて済む様になった。
旅行も仕事の中。
仕事も旅行の中。
仕事は遊び。
決めた大人は仕事で遊ぶ。
 
そんな感じなのか。
 
 
けれども、やはり旅はいい。
自分と出会った後の旅は、テーマがはっきりしているだろう。
例えば、
なんにもしない旅、一つところでゆったり。
とか、ただひたすら町を歩く旅。
あの人に会いに行く。
あの人の料理をいただきに。
 
そんな旅もいいだろう。
何をやっても放浪感は無いだろう。
 
外に私を探す旅は終わったようだ。
私もいい歳になったんだ。
 
いまは自分の中で自分発見の旅。
旅は色々、なのである。
 
 
 
 
 
 
 
最後に、この1年と2ヶ月の間。
いろんな方と出会いました。
沖縄在住の方、他県から旅行でいらした方、沖縄へ移住して来た方、染織家、木工作家、デザイナー、ガラス作家、漆職人、cafe経営者、おつとめの方、主婦の方、お店を経営している方、学生さん、再会した人、新たに生まれて来た人、肩書きでいうと平ペったいのですが、みんなみんな個性的。
 
 




 
笑顔の素敵な人達でいっぱい。
みんなそれぞれの旅の途中で、一緒にお茶を飲むかの様に知り合えたらいい。
 
 
みんなも私も、いま暮らしているところでしあわせになったら、それはとってもエコなこと。
そんなささやかな喜びを知っている人が増えたら、子どもたちにいい環境を残せるのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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Shoka:だより
 
Shoka:は常設展準備のため、8月までは裏方仕事。
NO BORDER,GOOD SENSE の企画展の時には県外からもたくさんのお問い合わせをいただきましたこと感謝しております。
その時には時間が無くて対応出来なかったお問い合わせに、やっと応えられる様になりました。
ブログにて、お問い合わせの多かった商品について記事をアップしています。
数は少ないのですが、通販にも対応出来るものもありますので、どうぞブログをご覧くださいませ。
 http://shoka-wind.com
 
 
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8月3日(金)~12日(日)
「赤木智子の生活道具店」
エッセイストで塗師 赤木明登さんのパートナーの赤木智子さんが、輪島で暮らす生活の中で出会った使い勝手のよい生活の道具たちを集めた、全国で人気の生活道具店が沖縄で初めて開催されます。
衣食住、どの分野も、こんな風だと使いやすいなあ、道具の使い手ももっと楽しく生活を支えられるんじゃない?、この人の作るこの道具は最高にいい、そんな智子さんの視線が感じられるセレクトです。
私たちもわくわく、待ち遠しいです。
 
夏の再会までは、こちらカレンド沖縄の連載と、Shoka:のブログをお楽しみ下さいませ。
 
Shoka: 田原あゆみ&関根麻子