文/写真 関根麻子
台風4号が去っていった。
少し逸れてくれたせいか、思っていたよりも強くなかったのでほっとした。
被害がないことを願いながらニュースを見る。
結局次の日も台風一過で晴天とはいかず、ゴロゴロドッシャーン!てな具合の雷と
まさにバケツをひっくり返したような雨で、2日間私は家から一歩も外に出なかった。
去年の大きな台風の際は、庭の木は根元から折れるわフェンスは倒れるわで散々だった。
目の前にある電線が嵐の中チカチカとスパークしていて、どうしたらよいのかと睡眠どころでなかったような気もする。
それが教訓となり、その後の台風前には屋内外ともに慎重に対策をするようになった。
それでも、私の対策とて広い庭がある訳でもないので、たかが知れている。
植木を家の中へえっほえっほと運び、やれ飛びそうなものたちをぎゅぎゅぎゅーっと縛りつけとく。
屋内は、吹き込みそうな隙間にタオルをつめたりするだけで、後は買い出しに。
ここからは、少しだけ楽しい気分となる。
普段買わないようなお菓子やレトルトカレーなんかも少々買い、何日か外に出られなくても過ごせるような体制を整える。
買い出しが終わると家の周りを一周。
台風で負けてしまいそうな場所にある雑草を抜き、その中から少しだけ部屋に活ける。
いつもと違う日常に何だかわくわくする自分もいたりする。
もちろん様々なところで被害が出ませんようにと、思いながら。
さて、準備は万端。
どんな一日になるのかな。
朝一で対策をすませたら、まずは仕事。
自宅でPCに向かう。
家の中はパソコンのキーを打つ音だけが聞こえるのだが
外では風が少々強くなり、ごうごうと鳴っている。
中はパチパチ、外ではごうごう。
何だか面白い音の組み合わせだな。
仕事に集中していると、これから台風がやってくるのを忘れてしまう。
きりのいいところで、よし、一息。
お茶にしよう。
今日はおおやぶみよさんのロングタンブラーでカフェオレにした。
おやつは、簡単に作れる黒糖キャラメルくるみ。
食べたいものを、食べたい分だけフライパンで作る。
私の定番のおやつ。
かりっと軽く、食べ出したらとまらない。
なので、食べる分だけ作るのだ。
器は松本クラフトフェアに行ったオーナーの田原が、白漆好きな私を思ってプレゼントしてくれたもの。
とても嬉しかった。素朴な色合いなのだが、何を盛っても食材と馴染み出す秀逸な漆器。
温かみがあり、普段の私の暮らしに早くもとけ込んでいる。
聞けば、この作家さんの白漆1号作品なのだそう。
背景を知り、ますます嬉しくなる。
休憩はお茶だけの時もあるが、たいていはその時の気分でいろいろつまむ。
甘いおやつでない時もある。これは別の日のおやつ。
蒸しアスパラに、水切りしてハーブを混ぜて作ったヨーグルトサワークリームを大盛り。
私の暮らしにおなじみの安藤雅信さんの銀彩皿。
休憩時間の器も大事。気持ちよくパクつける。
一日の中で、お茶の時間があることは大事だなと思う。
仕事の合間に、家事の合間に、一息ついて休憩がてらお茶をいただく。
こんな当たり前のようなことの大事さを最近わかってきたように思う。
単なるリセットとは違う。
その時間は、気持ちにすっと心地よい風穴を開けてくれ、感覚の間口も広げ解放へと導いてくれる。
今までは、これを終わらせてから、これを片付けてからといって、あげくの果てはお茶どころかご飯抜きということも多々あった。
時間をつくれば出来るのに、あえてそんなことをしてきたように思う。
お腹はぐーぐー、頭なんてぐーるぐる。
これでは、いいものも作れない。
知り合いの陶工房には、午前10時と午後3時に一回ずつおやつ休憩があると聞いた。もちろんお昼休みもある。
一旦、手をおくことが大事だという。その方が集中もでき、頭も体もスムーズに動けると聞いた。
あ、この話にはついついおやつを食べ過ぎちゃうなんてオチもありましたが。
でも納得、実感。
Shoka:でも、気持ちに一息いれるお茶の時間はとても大事にしている。
どんなにいそがしい展示会の朝でも、しっかりとランチタイムを作ったり、普段のお茶の時間は数回に及ぶこともある。
だいたい田原の「ねえ、麻ちゃんちょっとお茶しない?」という一言で、その時間は始まる。
休憩した後は、その前の切羽詰まった感覚が楽観的な空気に変わる。
とても新鮮だ。
お茶は人と人とのコミュニケーションの大事な小道具だとも思う。
その時間自体が新しい発想を生むことも多い。
お茶の世界と精神性とのつながりが深いのもうなづける。
時代が変化してもお茶の時間はひとりひとりの暮らしの中に連綿と続いていくのだろう。
自宅で仕事をすることも多い私の場合ならではだが、休憩中の楽しみはお茶以外にもたくさん見つけることができる。
少し固くなってきた思考回路をほぐすため、今やっている仕事内容と全く違うことをやったりもする。
その時の気分で、簡単なおやつや保存食の仕込み、ほんの少しの昼寝、読書、そして豆のさやとりなど。
ちなみにその中でも、豆のさやとりはとっておきの魔法の作業である。
思考回路から遠く離れた作業のせいか、淡々とやっていくうちに自分の頭の中でからみあった何かが、すっとほどけていくのがわかる。
これだけ書くと「それじゃ仕事にならないのではないか」などと疑問をもたれるかもしれない。
もちろん仕事の合間なので、時間にしたら30分程度である。
でも、この30分の一息を入れるのと入れないのとで、向かう姿勢が全然変わってくるから不思議だ。
たった30分休憩を入れる。
それだけで、仕事を含めた一日の暮らしの時間が、より気持ちよいものとなる。
休憩中には夕食の下ごしらえをすることもある。ささいなことだが楽しい時間である。自宅での仕事限定だが。
さてと、カーテンの隙間から外の様子をうかがう。
外はだんだん暗くなってきた。風の音は結構するのだが、なぜだかしんとした空気が漂う。
嵐の前の静けさなのか。
休憩が終われば再びPCへ。
次回展示の赤木智子さんの道具店のDM作成。
智子さんセレクトの、日常使いの道具たちのラインアップをみていると、ほんとにわくわくしてくる。
独身時代、智子さんは新宿でギャラリーのお姉さんをしていたそうである。
その時に養ったもの選びの目線や、洗練された美意識。
そしていまは、たくさんのお弟子さんたちを抱え、また多くの来客をお迎えする塗師赤木明登氏の工房と、台所を切り盛りする一家の主婦として、実用性を重んじる目線が加わった。
そんな智子さんのセレクトは、日常を楽しく過ごす為のもの+たくましく使える実用性のあるもの+使うことがうれしくなるようなうつくしいもの、と、手に取ってみたいものばかり!
どうやったら、このわくわく感をみなさんに伝えられるだろう?
DMの限られた紙面でこのことが伝わるのだろう?
そんなことをああでもない、こうでもない、こんなかな?と、手探りで進む、台風の夕仕事。
よしと、ごそごそCDラックから懐かしのアルバムをひっぱり出し、聴きながら作業する。
軽やかで控えめなスキップが想像できる音。
DM作成のときは作りたいコンセプトに寄り添う音楽を探し、かけるのが常。
ちなみに原稿を書く時は、ほとんど無音だ。
休憩は終わったが結局、すももソーダを飲みながらの作成。
そうこうしているうちに、あっという間に日も暮れる。
仕事も一段落し、時刻は九時。
夕食を食べ外を見れば、なにかものすごい奴がこれからやって来るんじゃないかという、
じりじりと迫ってくるような気配へと。
どんな空模様になっていくのか、少しだけ怖くなったりもしながらも
この台風ナイトのために借りた漫画をベンチで読む。
本日最後のお茶をすするとしよう。
適当に配合したクワン草と番茶のブレンド。ゆったり気分にいいらしい、安眠効果があると聞いた。
夜、熱いこの一杯をすすり眠りにつくことが多い。
さてさてと。
台風の日のお茶休憩をつらつらと日記のように書いてきましたが、
暮らしの中でのお茶時間は、その一日を豊かにする潤滑油ならぬ「潤滑茶」なのではなかろうか。
世界中の人々の暮らしなかに、その時、その場所にあるお茶の時間。
仕事中の一杯でも、どこかのカフェの甘い飲み物でもいい。
一人のときも、友達と一緒のときも。
決して特別ではない、ある日のお茶の時間。
何よりも、その人がその一息の時間をささやかながら楽しんでいれば
きっとそれは、私たちの感覚をしなやかに、いまここに集めてくれる一服となるだろう。
暮らしと自分がより親しくなる、そんな力がお茶の時間には秘められている。
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Shoka:だより
Shoka:は常設展準備のため、8月までは裏方仕事。
NO BORDER,GOOD SENSE の企画展の時には県外からもたくさんのお問い合わせをいただきましたこと感謝しております。
その時には時間が無くて対応出来なかったお問い合わせに、やっと応えられる様になりました。
ブログにて、お問い合わせの多かった商品について記事をアップしています。
数は少ないのですが、通販にも対応出来るものもありますので、どうぞブログをご覧くださいませ。
http://shoka-wind.com
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8月3日(金)~12日(日)
「赤木智子の生活道具店」
エッセイストで塗師 赤木明登さんのパートナーの赤木智子さんが、輪島で暮らす生活の中で出会った使い勝手のよい生活の道具たちを集めた、全国で人気の生活道具店が沖縄で初めて開催されます。
衣食住、どの分野も、こんな風だと使いやすいなあ、道具の使い手ももっと楽しく生活を支えられるんじゃない?、この人の作るこの道具は最高にいい、そんな智子さんの視線が感じられるセレクトです。
私たちもわくわく、待ち遠しいです。
夏の再会までは、こちらカレンド沖縄の連載と、Shoka:のブログをお楽しみ下さいませ。
Shoka: 田原あゆみ&関根麻子